剣の捜索と選定の儀式 5
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夕食を終えて、オリヴィアはサイラスの部屋を訪れていた。
剣の捜索に関して打ち合わせるときは、サイラスの部屋を使うことにしている。
オリヴィアの部屋を使えば、テイラーが聞き耳を立てているし、下手に追い出そうとすれば彼女は間違いなく勘繰ってくる。テイラーを部屋から追い出すより、サイラスの部屋で、護衛のコリンを外に出す方が簡単なのだ。サイラスの「少しくらい二人きりにしてよ」の一言で、コリンが折れてくれるからである。
「オリヴィアもその結論に行きついたんだ」
「も、ということはサイラス殿下もですか?」
「うん。国王なんてものは、みんな化け狐とか化け狸とかだからね、ウィルソン陛下もきっと例外じゃない」
あんまりな言い方だったが、ジュール国王を思い出すと、オリヴィアも否定はできなかった。にやにや笑っているジュールを見ると、「次は誰を騙そうかな」と算段しているように見えるのだ、本当に。
「ということは……」
「うん。これは『選定の儀式』なんじゃないかな。体裁上ではなく、本当のね」
「そうですよね……」
はあ、とオリヴィアはため息をついた。
オリヴィアとサイラスが行きついた結論、それが、『選定の儀式』だ。
選定の儀式の体裁を取れとウィルソンは言ったが、体裁なんかではなく、本当の意味での『選定の儀式』。
つまり、エドワールとユージーナのどちらかを王につけるか、見極めるつもりなのだ。
「でも……ウィルソン陛下は、ユージーナ王女が王に望んでいないから、『選定の儀式』は行わなかったと言っていましたよね」
「そうだけど、本人の意思は往々にして無視されるものだよ。僕だって、王に興味がないと言っていたのに、あの手この手で引きずり出された。もちろん、今となっては後悔はしていないけどね」
それは、オリヴィアを餌に、サイラスが玉座争いに参戦させられることになったことを指しているのだろう。アランは近く王太子の位を退くことになるが、当面の間はどちらが王太子になるのか、指定せずにおくという。
早いところ王妃との賭け事に決着をつけたいジュール国王としてはサイラスを王太子に指名したいところだろうが、バーバラ王妃が黙っていない。バーバラも本気である以上、決定打がなければしばらく平行線だ。
(バーバラ様としては、早くアラン王子の婚約をまとめたいんでしょうけど、ね)
アランが王太子になって勝負に王手をかけていたのにひっくり返されたのだ。不利になったバーバラが打てる策は限られている。それがアランの婚約だ。バーバラは早々に国内の令嬢を諦めて、王妃としてふさわしい他国の王女を狙っている。レバノール国のフロレンシア姫には逃げられたので、今頃ほかを当たっている最中だろう。可哀そうなのはアランだが、ここで下手にオリヴィアが口を出すと、とばっちりを受ける。可哀そうだが、自分の母がすることなので、アランには諦めてもらうしかない。
「……このこと、教えてあげた方がいいですよね?」
「そうだね。だけど、もう少し待ってみよう。城中の部屋を探し回っても剣が発見できなければ、僕たちの勘はほぼ正解だ。そこからでも遅くないんじゃないかな」
「そうですね。不透明な状態で下手に波風は立てない方がいいですものね」
これが本当に『選定の儀式』ならば、剣は部屋の中に置き忘れらたのではなく、隠されたということになる。ならば部屋を探してすぐに見つかるような場所に置かれてはいないはずだ。
「たぶんですけど……これが選定の儀式だと仮定した場合、今回のことが『選定の儀式』であると言うことに気づくところから試されている気がします」
「僕もそう思う。早く気づけば、それだけ相手を出し抜けるからね。……ああ、嫌だね、国王なんてものは、そんなに人の裏をかいて騙して回らなくてはいけないものなのかなあ」
サイラスは心底嫌そうに眉を寄せるけれど、オリヴィアは苦笑するだけにとどめておいた。
サイラスは気が付いていないのかもしれないが、彼にも充分、人の裏をかいたり騙す才能がある。必要とあらば笑顔で嘘を吐くくらいの芸当は、平然と行うからだ。言うと傷つきそうなので言わないけれど、たまに黒い笑顔を浮かべているサイラスを見ると、彼はまさしくジュール国王とバーバラ王妃の子なのだなと実感させられるのである。そういう意味では、感情がすぐに顔に出るアランよりも、よほど「化け狐」や「化け狸」になる才能がある。
「でも、これが選定の儀式ならば、剣は城のどこかに隠されているんですよね? ウィルソン陛下は、毎回同じところに隠すのだとおっしゃっていましたよね? つまり、毎回同じところが使えるほど、見つかりにくい場所が隠し場所と言うことです。どこなんでしょうか?」
城の見取り図を広げて、オリヴィアが首をひねる。
「さて、今のところ僕には皆目見当もつかないけど……もしそこが代々使われる隠し場所なら、城の見取り図には載せないんじゃないかな?」
「載せない? 使われていない部屋があるということですか? ……あ!」
「そう」
サイラスは少し楽しそうにサファイア色の瞳を輝かせた。
「この城は六百年も昔に立てられたものだろう? 古いお城にはたいてい……」
「隠し部屋がある!」
「そういうこと」
オリヴィアもサイラスと同じように、きらきらとエメラルド色の瞳を輝かせる。
隠し部屋。なんて素敵な響きだろう。
「物語の中では、隠し部屋には歴史的価値のある本とか、骨董品とか、いろいろなものが置かれているものですよね」
「この城の隠し部屋にそれがあるのかどうかはわからないけれど、古い調度品はそのままになっているかもしれないね」
「見てみたいです」
「うん、君はそう言うと思っていたよ。不謹慎かもしれないけど、僕もちょっと、宝探しみたいでわくわくしてきた」
まだこれが『選定の儀式』であると確定したわけではないけれど、そうである可能性は極めて高いと見ている。
「でもそうなると、僕とオリヴィアは違うチームだから、競い合うことになるわけだ」
「あ……」
選定の儀式ならば、サイラスと協力して探すのではなく、どちらが最初に見つけ出すのか競うことになる。
それは少し嫌だなとオリヴィアが顔を曇らせると、サイラスが名案を思い付いたように、にこりと
笑った。
「ねえ、じゃあ、僕たちも何か賭けない?」
「賭け、ですか?」
「そう。……例えばそうだなあ、僕が勝ったら、オリヴィアから僕にキスをして大好きって言ってもらおうかな。ちなみに一秒で離れるキスはダメだよ。最低でも五秒は続けてね」
「!」
慌てて「嫌です」と言いかけたオリヴィアだったが、続く言葉に、反論は喉の奥に引っ込んでしまった。
「僕が負けたら、僕が個人的に所蔵している本の中で、どれでも好きな本を一冊プレゼントするよ」
「!?」
オリヴィアはごくりと息を呑んだ。
サイラスは、図書館の禁書区域にも置かれていない貴重な本をいくつか持っている。それらは鍵付きの本棚に納められて、オリヴィアでさえまだ、本のタイトルしか見せてもらえていないものだ。
「……本当に?」
「うん」
「本当に、本当?」
「うん」
「どれでもいいんですよね?」
「そうだよ」
オリヴィアの中で、ポーンと天秤が振り切れた。
「その賭け、乗ります!」
食い気味に答えたオリヴィアに、サイラスがしてやったりとにんまりと微笑んだ。
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