剣の捜索と選定の儀式 1
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「まったく、父上には本当にあきれ果てる!」
あとはよろしくね、とエドワールとユージーナの怒りが爆発する前に国王と王妃がそそくさと退散すると、エドワールはがしがしと頭をかいた。
ユージーナも腹立たし気に爪を噛む。
互いの伴侶が、「髪が乱れますわ」とか「爪が痛むよ」と二人を止めているところを見るに、エドワールとユージーナのそれぞれの癖のようだった。
(それにしてもまた……なんというか、不思議な展開になって来たわ)
国王の威信にかかわるから、選定の剣の捜索は内密に行いたいというウィルソンの気持ちもわかる。だが、それよりもこう、説明のできない違和感の方が大きかった。オリヴィアが知る限り、ウィルソンは穏やかな性格だが、あそこまで能天気だっただろうか。彼の息子と娘が違和感を覚えていないようなので、いつもはああなのかもしれないけれど。
(でも、ね。国王の威信の問題だからと言いながら、わたしとサイラス様にその話を聞かせたのは何故かしら? 身内扱いされているわけでもないでしょうに)
威信と言うなら、国外の人間には伏せておきたいはずなのだ。解せない。
「とにかく、選定の儀式という形を取るなら、私とユージーナがそれぞれチームを作る必要があるわけだ。一応、競っているように見せないといけないからな」
「そのようですわね。でも、ばらばらに行動していてはどこまで調べたのかがわかりませんわ。情報を共有する人物を置かなくては」
「そのことだがね」
エドワールの視線がついとオリヴィアとサイラスに向いて、二人はそろって肩をすくめた。
オリヴィアもサイラスも、巻き込まれるのは確実と見ていたので驚かない。
「サイラス殿下、帰国は十日後でしたよね」
「ええ、まあ……」
ついでにのんびり旅行気分を楽しむつもりでいたので、日程には余裕が持たれている。だから、帰国は十日後の予定だった。
「十日あれば充分探しきれますわね」
「ああ」
エドワールとユージーナの間で勝手に話が進んでいる。
(……エドワール殿下には、金の密輸事件の時の借りがあるから……従うしかなさそうね)
ブリオール、フィラルーシュ、レバノールの三国にまたがった金の密輸事件。最初に気づいたエドワールは、その調査をブリオールに任せてくれた。中心がブリオール国だったので、こちらが動いた方が早かったということもあるけれど、そのおかげでブリオール国はフィラルーシュ国の間にもレバノール国の間にも、大きな亀裂を生むことなく、穏便に片づけることができたのである。エドワールにはそのときの大きな借りがあるので、協力を求められれば拒否できない。
(まあ、これで貸し借りが消えると思えば安いものかしら……)
エドワールは頭の回転が速く性格もとても厄介で、油断しているとすぐに足元をすくってくるような相手だ。借りは作ったままにしたくない。
ここは素直に従っておこうと、黙ってエドワールたちの結論を待っていると、話し合いが終わったようで、エドワールが顔をあげた。
「サイラス殿下はこちら、オリヴィアはユージーナのチームだ。二人は婚約内定者だし、話していても違和感を持たれないだろう? 情報共有は二人に頼みたい」
「まあ……それが妥当でしょうね」
サイラスが苦笑しつつ承諾する。
「僕たちが協力するのはかまいませんが、一つ確認をしてもいいですか? 僕が動くときには、少なくとも護衛官のコリンや補佐官のリッツバーグが動くことになるでしょう。オリヴィアにも護衛をつけなくてはなりませんし……たぶん、彼女の侍女も、少なからず関わってくると思われますが、事情はどこまで話してもよろしいですか?」
「『選定の儀式』を手伝うということにしておいてくれないか。さすがに、父上のなくしものを捜索するのだとは……言えない」
「まあ、そうでしょうね」
「それから、サイラス殿下の護衛官はいいとして……、オリヴィアの護衛はこちらで手配させてくれないだろうか。出来るだけこちらの人員を使いたい」
「それは、『選定の儀式』という体裁を取るからですか?」
「そうだ。本来『選定の儀式』とは、自分たちの側近を協力者にするものなんだ。それなのに、ブリオール国の人が大半を占めると、外聞がよろしくない」
「こちらとしても、下手をすれば侵略行為に見られるかもしれませんからね。わかりました、オリヴィア、それでいい?」
「もちろんです」
ここはフィラルーシュ国の城の中だ。移動中ならまだしも、巡回の兵士も多く、警備がしっかりしている城の中で、護衛官が必要になる惨事はそうそう起こるものではない。
「それでしたら、オリヴィア様はこちらの陣営ですもの、わたくしたちが用意いたしましょう。ねえ、イーノック」
「そうだね。……うん、ホーガスがちょうどいいんじゃないかな?」
イーノックが少し考えて出した名前に、意外にも反応を見せたのはサイラスだった。
「イーノック殿、その、ホーガスというのは名前から察するに男性ですか?」
「そうだけど……それがなにか?」
「できればオリヴィアの護衛は女性にしてほしいのですけど」
にこりと笑って言ったサイラスに、オリヴィアは目を丸くした。男性でも女性でもどちらでもかまわないはずなのに、いったいどうしたのだろう。
目をぱちくりしていると、エドワールがぷっと吹き出した。
「ああ、気持ちはわかるよ、サイラス殿下。でも、ホーガスは既婚者で、もっと言えばその妻はユージーナが子供のころから護衛をしていた護衛官のフォジーだ。結婚して十年も経つのにいまだに鬱陶しいくらいに仲が良くてね。間違いなんて起こらない」
「なるほど、それでしたらかまいません」
エドワールに笑われても平然と微笑み返して、サイラスが大きく頷く。
何の話なのか読めなくて首をひねっていると、ユージーナがくすりと笑って耳打ちして来た。
「サイラス殿下は、外見に似合わずやきもち焼きなのですわね。ふふふ」
「え?」
(やきもち……って、ええ!?)
今のはそう言う意味だったのか。
理解したオリヴィアがぶわっと赤くなると、ユージーナが目を丸くして、サイラスが笑う。
「オリヴィアはこんなに可愛いから、僕としても心配で仕方がないんですよ」
「なるほど確かに、オリヴィアがこれほど照れ屋だったとは知らなかったな」
エドワールに茶化されて、オリヴィアは両手で顔を覆う。
オリヴィアが一人で照れと戦っている間に、それぞれのチームが決定したようだ。
エドワールのチームが、エリザベート、サイラス、コリン、リッツバーグ、それからエドワールの側近三人。
ユージーナのチームが、イーノック、オリヴィア、フォジー、ホーガス、イーノックの友人の侯爵が一人と伯爵一人、そしておまけでオリヴィアの侍女のテイラーだ。
互いがどこを調査したのかと言う情報共有は、オリヴィアとサイラスが行う。
「それでは、父上が『選定の儀式』の開始を宣言した後……捜索は明日からにしよう。私たちは城の西側から調べることにするよ」
「それではわたくしたちは東側から調べて回りますわ」
「せっかくだ、それらしく競争してみるかい?」
「あら、そんなことを言ってもよろしいの? 負けて悔しがるのはお兄様の方ではなくて?」
「ユージーナが私に勝ったことがあるかい?」
「今回はチーム戦ですのよ。わたくしにはイーノックやオリヴィア様がついていますもの」
「こちらにはエリザベートとサイラス殿下がいる。なるほど、面白い。負けたら勝った方の言うことを何でも一つ聞くというのでどうだ」
「いいですわね。乗りましたわ」
エドワールとユージーナが何やら勝手に競争をはじめた。
その様子をエリザベートもイーノックもにこにこ笑って眺めている。
オリヴィアはこっそり嘆息した。
(はあ……なんかとっても、面倒なことになりそうな予感がするわ)
どうかそんな予感は当たりませんようにと、オリヴィアは心の中で祈ったのだった。
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7月1日に発売予定のノベル2巻ともども、よろしくお願いいたします☆











