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「ハインリーベ伯爵家?」
「はい。どこかで聞き覚えがある気がするんです。でも、二年前にアラン殿下とレバノールに外交に行ったときにお会いした方の中にハインリーベ伯爵はいらっしゃらなかったはずなので、どこでその名を聞いたのか思い出せなくて……」
次の日の昼。
オリヴィアたちは王都へ向けて出発した。
オリヴィアの乗った馬車にはアランとサイラスの二人が同乗していて、フロレンシア姫たちは別の馬車に乗っている。姫とレギオンの逃亡を防ぐため、ザックフィル伯爵領の兵士も借りた。連れてきた護衛官の人数だけでは心もとなかったからだ。
馬車が動き出してしばらくして、昨日からどうしても気になっていた「ハインリーベ伯爵」の名前を出すと、アランが首をひねりつつ答える。
「確かに二年前にレバノールに行ったときにはハインリーベ伯爵とは会っていない。私はハインリーベ伯爵の名前ははじめて聞いたが……、気のせいではないのか?」
「そう、でしょうか……。どこかで聞いたことがある名前なんですが」
すると考え込んでいたサイラスが、ふと顔を上げた。
「オリヴィアが聞いたことがある気がするなら、もしかしたら、我が国と縁がある伯爵家なのかもしれないね」
サイラスのその一言で、オリヴィアはハッと顔を上げた。
「それです! 思い出しました! 少し前に、王家預かりになっている爵位を調べたことがあるんですが、そこに記載があったはずです!」
「うちにはハインリーベ伯爵家なんて存在しないぞ」
アランが怪訝そうな顔をする。オリヴィアは首を振った。
「違います、そうではなくて。ええっと、ヴェルディル侯爵家です!」
「ヴェルディル侯爵家? 跡を継ぐ者がいなくなって、三十年前に廃れたあの?」
もうじき身分を返上する予定とはいえ、さすが長年王太子を名乗っただけのことはある。アランはすぐに思い出したようだ。
ヴェルディル侯爵家は三十年前に当主がなくなり、後継ぎとなる縁者が誰もいなかったために王家預かりになっている侯爵家である。ブリオールでは爵位を継げるものは当主から数えて六親等以内で、該当する人が国内に誰もいなかったのだ。
「そのヴェルディル侯爵家とレバノール国のハインリーベ伯爵家に何のつながりがある?」
「亡くなられた当主のお父様のお姉様がハインリーベ伯爵家に嫁がれています」
オリヴィアが即答すると、アランが妙な顔をした。
「お前……、そんなことまで調べているのか……」
アランは完全にあきれ顔だが、サイラスは苦笑した。
「オリヴィアだから。興味を持てばなんでも調べるんだよね」
「どうしてそんなことに興味が持てるんだ」
「こ、これはたまたまです……。ヴェルディル侯爵家の先代――亡くなられた当主のお父様が、その、熱病の研究をされていた方で、調べているうちに、本当にたまたま……」
ついでに侯爵家について調べているうちに見つけた情報で、オリヴィア自身それほど興味を覚えなかったから、今まですっかり忘れていたのだ。
「で、そのハインリーベ伯爵家がヴェルディル侯爵家と関係があったからなんだというんだ」
「調べて見ないとわかりませんが……、レギオン護衛官が、当主の方から六親等以内に入る可能性があります」
「なるほど、それで?」
「もしレギオン護衛官がヴェルディル侯爵家を継ぐことができれば……そうなれば、フロレンシア姫との結婚を後押しできませんか?」
「…………はあ」
アランが大きく息を吐き出した。
サイラスが笑って、オリヴィアの頭を撫でる。
「なんとなく予想はしてたけど、オリヴィアはやっぱり黙っていなかったね、兄上」
アランはぐったりと座席に背中を預けた。
「だからと言って予想外だ。……言っておくが、父上とレバノール国王を説得するには、骨が折れるぞ」











