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オリヴィアの推測通り、ティアナは地下道の中にいたそうだ。
けれども、いくら聞いてもティアナは口を割ろうとはせず、だんまりを決め込んでいるという。
ティアナはひとまず部屋で謹慎が言い渡されて、常に監視がつけられることになった。尋問は監視官が行うそうだが、ティアナは頑ななのでなかなか白状しないだろうと思われる。
オリヴィアたちはティアナのことを兵と監視官に任せて、宿に戻ることにした。ティアナの捜索はたまたま巻き込まれただけで、オリヴィアたちの本来の目的はフロレンシア姫の視察に付き合うことなのだ。
砂ぼこりまみれになったため、宿に帰ったオリヴィアたちは夕食前に風呂に入ることにする。
テイラーに髪を洗ってもらいながら、オリヴィアは宿で留守番をしていた彼女にフロレンシア姫の様子を訊ねてみた。
「姫の体調はどう?」
「わたくしも詳しくは存じませんが、昼食前に確認したところ、まだ体調がすぐれないので食事は部屋で取るとのことでした。昼食後はお休みになられるとのことでしたので、わたくしは姫の侍女たちと一緒に外へ出ておりまして、詳しくは存じ上げません」
「お買い物に行ってたの?」
「ええ、フロレンシア姫が気晴らしに出かけてくるようにとおっしゃられたらしく、誘われたので一緒に出掛けておりました。いいローズティーを見つけたのでお土産に買ってきましたから、あとでお入れしますね」
「ありがとう。ふふ、ここは本当に薔薇だらけの町ね」
宿で用意されているシャボンも薔薇の香りだ。風呂上がりに髪や体に塗る香油も薔薇。こちらは宿の売店で売っていたから買ってきたものだ。
風呂から上がって髪を乾かした後でドレスに着替える。香油を塗ったからいつもよりも艶々しているプラチナブロンドは、食事のあとは寝るだけなので、整髪料をつけずに、テイラーがサイドで一つにまとめてくれた。
晩餐の時間にあわせて階下のレストランへ向かうと、そこにはサイラスとアランがいた。だがフロレンシア姫の姿はない。少し待ってみたが降りてくる様子がないので、まだ体調がすぐれないのだろう。
「医者を手配したほうがいいかもしれないね」
この後様子を見に行ってみて、医者を呼ぶことを提案しようとサイラスが言う。場合によっては視察を切り上げて王都へ戻った方がいいだろう。
「食事の後に様子を見にって来ますね」
「ああ、頼む。あとで様子を知らせてくれ」
「わかりました」
アランは食事のメニューを持ってきた給仕にフロレンシア姫の部屋に食事を届けるように頼むと、三種類あるメイン料理の中で子羊の赤ワイン煮込みを注文した。オリヴィアとサイラスはチキンのグリルを頼む。メイン料理以外はすべて同じメニューで、前菜の温野菜のサラダと一緒に白ワインが運ばれてくる。
「今日は疲れたな」
白ワインを一気に飲み干して、アランがふーっと息を吐き出した。
「疲れたからと言ってあんまり飲みすぎないほうがいいよ」
「わかっている」
そう言いながらも、アランの手がデキャンタに伸びる。自らワイングラスにお代わりを注いだアランが、二杯目のワインを飲み干したときだった。
先ほどアランがフロレンシア姫の部屋に食事を運ぶよう頼んだ給仕が、真っ青な顔をしてやってきた。
「お食事中申し訳ございません。お連れ様の件で、少々お時間よろしいでしょうか?」
給仕の困惑と焦燥、それから切羽詰まった様子にアランが怪訝そうな顔をして立ち上がる。オリヴィアとサイラスも立とうとしたが、アランが首を横に振ったので、給仕との話は彼に任せることにした。
アランが給仕に連れられてレストランから出ていく。
「どうしたんだろうね。様子がおかしかったけど」
さすがに食事を続ける気にはなれなくて、オリヴィアもサイラスもフォークとナイフをおく。しばらくすると、アランではなく彼の護衛の一人が慌ただしくレストランに駆けこんできた。
「アラン殿下が、サイラス殿下とオリヴィア様を急ぎ呼ぶようにと……」
何かまずいことでもあったのだろうか。
オリヴィアとサイラスは顔を見合わせたのち、護衛官の後を追っていくと、アランは二階の廊下の奥にいた。
二階の廊下は物々しい雰囲気に包まれており、数人の部屋係の姿も見える。
二階に上がったオリヴィアは、フロレンシア姫が宿泊していた部屋の扉が開け放たれていることに気がついた。
わずかに甘ったるい香りがする。
「兄上、何があったの? 姫は……」
「それについては今確認しているところだ。ここでは話せないから、俺の部屋に」
オリヴィアがサイラスに続いてアランの部屋に入ると、彼は扉を閉めて大きく舌打ちする。ひどく苛立っているのがわかって、オリヴィアは思わずびくりとする。
「兄上、オリヴィアが怯えてるから」
見かねたサイラスが口を開けば、アランは小さく「悪い」と答えて、どかりとソファに座った。
サイラスが何があったのかと訊ねると、アランは大きく息を吐いて、短く答える。
「フロレンシア姫が消えた」
オリヴィアは息を呑んだ。











