違和感 2
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オリヴィアはサイラスの知られざる一面をもう少し聞きたかったが、今日は雑談をしに来たのではないと自分に言い聞かせてティーセットに手を伸ばす。
アベラルドがそんなオリヴィアに面白そうな視線を向けた。
アベラルドは癖のある赤毛に黒い瞳の、なかなか迫力ある見た目をしている男性だ。ルイスやアランに劣らず体格がいいし、眼光は猛禽類のように鋭い。歓迎パーティーの時に挨拶をしたが、非常に近寄りがたい空気をまとっていた。
けれど、今日のアベラルドはそんな中にもどこか気安い雰囲気を漂わせていた。パーティーの時のようなカルツォル国の盛装ではなく、シャツにズボンというラフな格好がそう感じさせるのかもしれないが、表情もどことなく穏やかな気がする。
「俺に要求があるんだってな。勝負に負けてしまったし、アラン殿下と約束した手前、俺個人で飲める要求なら飲んでやろう」
「よ、要求なんてそんな……。ただ、お聞きしたいことと、できれば協力いただきたいことがあるだけで」
「オリヴィア、それを要求と言うんだ。せっかく勝ってやったんだから、遠慮せずにガンガンいけ」
「アラン殿下の言う通りだ。遠慮はいらん」
(……もしかして、この二人、少し性格が似てる……?)
雰囲気だけではなく、事実、今日のアベラルドは気さくだった。
「私は席を外した方がよさそうだね」
ルイスがそう言って、サロンから出て行く。
よくわからないがどこかわくわくしている様子のアランと、楽しそうなアベラルドに横と前から挟まれて、オリヴィアは逆に話を切り出しにくいなと内心ため息だ。
(アベラルド殿下に協力してもらうためにどうやって話を持って行こうか考えてきたのに……これはもう、回りくどいことはせずに単刀直入に行った方が早そうね)
どこまで内情を説明していいのかも迷うが、下手に濁そうとしてもアランが暴露してしまいそうな雰囲気すらある。
それに、アベラルドは三十九歳。オリヴィアの倍以上を生きている大人相手に、小細工などしても無意味かもしれなかった。
「では……、まず、こちらからご確認いただけますか? たぶん、見ていただければわかると思います」
オリヴィアは持参してきた一枚の紙をアベラルドに差し出した。リッツバーグが調べてきた調査報告書である。
アベラルドが報告書を見るのを緊張した面持ちで見つめていると、彼は報告書に視線を落としたまま訊ねてきた。
「これについてコメントする前に一つ。君は、エバンス公爵の味方か否か、どっちかな?」
「エバンス公爵にわたくしが推測している通りの動きがあるのならば、わたくしは絶対にエバンス公爵の味方にはなり得ません。そして、アベラルド殿下もですよね? アベラルド殿下はエバンス公爵家の動きを阻止したいとお考えのはず。違いますか?」
「根拠は?」
「……少し前……カルツォル国の第二王子が、不慮の事故に遭われて意識不明の重体になられたという情報を持っています」
ピクリ、とアベラルドの微かに眉が動いた。
この情報は、リッツバーグの報告書に「真偽不明」という一言が添えられて記載されていたものだ。カルツォル国に商品を輸出しているクローレ商会の内情を探るついでに仕入れてきたものらしい。この情報が正しければ、第二王子の事故にはアベラルドが関係している可能性があった。だからカマをかけてみたが、反応を見るにこの推測は正しかったらしい。
「そしてもう一つ。招待状に書かれていた日付です。とある筋から、あの招待状は偽装されたものではないかという指摘が上がっています。文字もインクも非常に判別しにくかったそうですが、使用している紙の質が少し違うと」
この情報は、イザックが調べさせたものだ。不用意に突っ込むと外交問題に発展するので、疑惑があっても表に出さないと判断した情報らしい。父からも、この情報の取り扱いは充分に注意しろと言われていた。
(でも、ここまで出さないと、アベラルド殿下は釣られてくれない)
情報を隠したままで交渉できる相手ではない。そんな気がした。
アベラルドはオリヴィアを鋭く睨みつけたあとで、ふっと笑った。
「俺の目をまっすぐ見返した女は君が二人目だ。気に入った。いいだろう、知りたい情報があれば提供してやる。そのかわり、交換条件だ」
「アベラルド殿下、それは話が違いますよ。私とのチェスに負けたんですから、オリヴィアに交換条件を突きつけるのはなしです」
アランがすかさず口を挟む。
アベラルドは考える仕草をして、それから指を一本立てた。
「ではこうしよう。おそらく君がたどり着いていないだろう情報を教えてやる。きっと役に立つと思う。これでどうだ?」
「……交換条件次第です」
「なに。簡単なことだ」
アベラルドはニヤリと笑い、そして言った。
「俺は兄を蹴落として王になる。ここに来たのはそのために邪魔な人間を排除しようと思ったからだ」
(やっぱり、第二王子の事故にはアベラルド殿下が絡んでいたのね)
だが、これは核心まで迫るのは危険だ。気づかないふりをしてやり過ごした方がいい。
アベラルド殿下は続ける。
「王になったあと、俺はルノア三国との関係を改善したいと思っている」
ルノア三国とは、ブリオール国、フィラルーシュ国、レバノール国とのことだ。この三国とカルツォル国の間には昔から深い溝がある。
「つまり?」
「君にはその橋渡しになってほしい。アラン殿下は次期王妃は君だろうと言った。ブリオール国の未来の王妃が味方に付くのなら心強い」
オリヴィアが驚いてアランを見ると、彼はちょっとだけ気まずそうに視線を逸らす。
「別に……間違ってないだろう。少なくとも現状で王妃に一番ふさわしいのはお前だ。サイラスも……私より王に向いている」
「と、言うことだ。悪い話じゃないだろう?」
確かに、悪い話ではない。ブリオール国側としても、カルツォル国と関係は頭の痛い種だった。だが、それはあくまでアベラルドが王になったあとの話だ。カルツォル国側のいざこざに巻き込まれるのは困る。
「……殿下が王になるお手伝いはいたしませんよ」
「かまわない。君が持って来た情報だけで、少なくとも第三王子と第二王子は失脚させられる。父上もな。あと残るのは第一王子と第四王子だが、あの二人はこちら側だ。帰国した後、一気に玉座を奪いに行く。俺は狙った獲物は絶対に逃さない主義だ」
「わかりました。ただ、お約束できるのはあくまでわたくし個人です。ブリオール国としてのお約束ではありません。わたくしにはその権限はございませんから。ですので、わたくしができることは限られますが……それでも構いませんか?」
「構わない。俺としてはきっかけさえ作れればそれでいいんだ。そのあとはどちらにせよ俺が各国と信頼関係を結べるかどうかの問題だ。そこまでは頼まない」
アベラルドは報告書をオリヴィアに返して、ふと真顔になった。
「では約束の情報だ。――父上の後宮に、ブリオール国の女が大勢いる。それはすべて『献上品』として連れてこられた女だ。その出所、知りたいだろう?」
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