第十八話 量産タイムアタック
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
「ハヤト様、少しお聞きしたいのですが、あの遠くに見える山はなんですか? 昨日朝見た時はありませんでしたわよ?」
いつもの朝、朝食を食べ終わるとシステリナ王女が城のバルコニーから外を眺めてそう言った。まるであなたの仕業ですよね、とでも言っているような雰囲気だ。
その通りだ。だが、それではちょっと面白くない。
「ええ。昨日は結局目標にしていた個数を作り上げることが出来たのですが、予想以上に材料が余っていまして。全部取り出してみたらあのように成ってしまいました」
「……申し訳ありません。私の認識力が不足しているのか意味が良く分かりません。もう少し噛み砕いて説明していただけますか?」
少し端折りすぎたようだ。
頭を下げて謝罪するシステリナ王女に少しだけ罪悪感が芽生える。
それにしてもずいぶん素直に頭を下げる。なんとなく王族というのは謝罪なんて口にしない生き物かと思っていた。
そんな感想を遠回しに言うと、システリナ王女が疲れたような表情をして言う。
「こうしなければ話が先に進みませんので」
どうやらプライドの高い貴族連中を相手にしてきたシステリナ王女流の処世術だったようだ。
結構、苦労しているのかもしれない。
「いえ、自分も大人げがありませんでした。――あの山は、骨鉱山とでも呼んでください。数日中で消えますのでご安心を」
昨日『空間収納理術』から全ての魔物の骨を取り出して『粘成融合』で捏ねたら小山が出来た。
小さな山と言っても城のバルコニーからサンクチュアリの外にあるそれがよく見えるくらいには大きいが。
名前は適当に骨が取れる山ということで付けた。
「何をしているのかは教えていただけないのですか?」
「物作りですよ。これについては多くは教えられないです」
フォルエンに納品する物を作っているとはシステリナ王女には言わないでおく。
システリナ王女が視察の時にやたら目を光らせていたからね、例の高品質の物作り師さんを探しているのは知っているけれど。
見つかったら面倒なことに成りそうなのでそれが自分だという事は話していない。
まあ、骨鉱山を作ったのがオレだという時点で予想は出来ているかもしれないが、現場を押さえられなければ問題ない。
わざわざサンクチュアリの外で作業したのはシステリナ王女がそう簡単に外に出られないからという理由もあるのだ。
システリナ王女の追求をスルーして外に出る。
朝の作業はもう終わっているので気配を消して骨鉱山まで走った。
昨日は捏ねる作業が思いのほか時間が掛かり、目標分しか作れなかった。今日はその十倍は作るつもりだ。
昨日仕上げた試作品兼設計図品である量産型長剣ボンソードを取り出すと、骨鉱山に『粘性融合』を使って捏ねた骨を必要分切り取り、設計図品を元に剣の形にしていく。
慣れてしまえば剣が完成するまで1分掛からない。大量のアーツに加え職業補正が加わったスピードと正確さは自分でも顔が引きつるレベルだ。
同じ物を作り続けているとだんだん楽しくなってきた。
いつの間にかタイムアタックの一人ゲーを始めて、どれだけ最速で質を落とさず作れるかに挑戦してしまっている。
地球に居た頃クラフト作りでもよく同じことしたなぁと感慨にふけってしまった。
お昼。
現在最高タイムは22秒。タイムウォッチは無いけれど【理術大賢者】が時間を教えてくれるのでいちいち手を止めて時間を計る必要が無いのは助かる。
これを夕方には後5秒は縮めたい。だんだんコツを掴んできたような気がするのだ。きっと行けるに違いない。
職業を持っていても使い手の実力が低ければいくら職業の力を引き出しても残念なままだ。ということは、自分の力量がぐんぐん伸びているということだ。俄然やる気が出るね。
軽い食事を頬張りながら没頭して気がつけば夕方。
最高タイムはなんと13秒まで縮まり、1302本の長剣ボンソードが完成した。
ちゃんと鞘付きだ。柄や鞘やエンチャントまでしっかり作って13秒。オレは化け物か?
捥ぎ取った粘土を回転させながら引き延ばし、左手で柄とエンチャントを同時進行しながら右手で鞘と刀身を作るという荒技が可能になってからは一気にタイムが縮まったな。
我ながら人間やめている。地球に居た頃の自分が今の自分を見たらぶん殴るかもしれないね。
そんな事を考えながら城に戻ると、執務室に人の気配がした。どうやらラーナかシステリナ王女がまだ仕事をしているらしい。おかしいな、事務作業はそんなに量は無いはずなのだけど。
そう思い覗いてみると、中にはぐったりとして机に突っ伏すセイナ、ミリア、そしてチカがいた。側にはラーナがセトルを抱っこしている、しかしこの三人は何でここに居るんだ?
「…どういう状況?」
「あ、ハヤト様。おかえりなさいませ」
「ラーナ、ただいま帰りました。…これは、どうしたのですか?」
「実はシアが執務を今のうちから子どもたちに学ばせると言いまして、ちょうどセトルを見に来たこの子たちがその場で採用されました。そのまま執務室で仕事を覚えさせて今に至る形です」
どうやら仕事が少ない今のうちに人材育成をしておこうという事のようだ。引継ぎが終わったばかりから人材育成とは飛ばしているなシステリナ王女。
それで、件の王女様はどこにいるのだろう?
「シアは入浴に行きました。三人ともすごく頑張っていましたので、特別にセトルを近くで見せてあげようと思いまして連れてきたところだったのです」
なるほど。ラーナの言葉に納得する。ラーナが許可したのならオレに否は無いからね。話をしていると力を失っていたセイナが起き上がった。
その視線はオレでもラーナでも無く腕に抱かれたセトルに向いている。
「癒やされる」
「お疲れ様セイナ。大変だったね」
「大変、すごく大変だった」
オレが側に居るのに気がつきもしないとはよほど大変だったのだろう。
遅れてドアの側に居るオレに気がついて手を振ってきたので振り返す。
するとミリアとチカも突っ伏した姿勢から身を起こした。
「うう~。そんなにいっぱい覚えきれないよ~、ミリアには無理だよ~」
「く、頭が痛いわ」
ミリアは泣きべそをかいていてチカは頭を押さえていつもの余裕と大きな態度が失せている。システリナ王女はずいぶんスパルタだったようだ。
その後三人がセトルを見て癒やされた後三人を食肉食堂まで連れて行き他の子たちに任せる。
ラーナの話では週に2,3回手伝いに来て欲しいそうだ。
三人とも元気が根こそぎ奪われているものの、
「大丈夫、やる」
「自信ないけれどセイナちゃんもいるしがんばってみる~」
「ま、ハヤト様の為って言われたら断れないわよ。私に任せなさい」
と、意外にもやる気十分だった。
システリナ王女、さすが優秀と言われるだけある。どんな手で子どもたちのやる気を引き出したのだか。
そんな事を考えながら食肉食堂で食事をする三人と別れ、城に帰った。
それから一週間後、また世界の滅亡が加速する大災害が起こった。
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お手数おかけして申し訳ありません…。
漢字の変換がどうも上手くいきません(_ _)。




