第十話 シハヤトーナ聖王国へようこそ
「シハヤトーナ聖王国、城塞都市サンクチュアリへようこそ。歓迎しますわシア」
シハヤトーナ聖王城、玉座の間にて。
そう言ってシステリア王女一行を出迎えたのは最愛の妻ラーナだ。
「やはり、あなただったのですねラーナ。いえ、ご無礼をしました聖王陛下、改めて挨拶申し上げます。フォルエン大農業王国が第三王女、システリナ・エルヴァナエナ・フォルエンと申します。預かりと成る身でございますがシハヤトーナ聖王国の発展のため最大限尽力させていただきます」
ラーナのまるで友人を出迎えるような姿勢にシステリナ王女もつられるが、すぐに姿勢を正して膝をついた。
知り合いだったのか?
お互いの口ぶりからして親しい間柄だったようだとわかる。
以前システリナ王女を預かると勝手に決めたことをラーナに報告したときは、うーんとひとしきり悩んだ後、よろしいかと思いますと肯定されて胃がキリキリした記憶しか無かったから分からなかったけれど。
考えてみれば隣国だし仲は悪くなかったのだろう。
一方ラーナの事をまったく教えていなかったシステリナ王女は、ラーナの姿を見たとき驚きと納得の顔をしていた。
何を納得したのか不明だけれど、ラーナの行動力からして何か納得できる要素があったのだろうと推測する。
それが納得できるほどの間柄だったのだろう。
「んんっ、シハヤトーナ聖王国が【聖女】。ライナスリィル・エルトナヴァ・シハヤトーナが歓迎しますわ」
喉の調子を整えてラーナが改めて歓迎の言葉を言う。
そして、また友人に向けるような柔らかい眼をして話し出した。
「シア、元気そうでよかった」
「ライナスリィル陛下も、生きておられるなら手紙の一つでもいただきたかったです」
「仕方なかったの。私が生きていることが知れると周りに迷惑が掛かるもの」
「サンクチュアリにですか。やはりフォルエンに来る気は無いのですね」
「ええ。私の居場所はハヤト様の隣だもの」
「…うらやましいですね」
ラーナの砕けた口調なんて初めて聞いた。
いや、わりと聞いている気もするが、アレはラーナが動揺したり興奮したりした時に出る素だ。いつもは一歩身を引いた位置で話すラーナが友人と話すときは素の口調になっている。
何だろうこの気持ちは、まさか、この気持ちがNTRか!?
アホな事を考えていると、ふと柔らかい物が腕に当たった。
ハッとして腕を見るとラーナがいつの間にか近くまで来て抱きついていた。
その視線は、友人に自分の幸せを自慢するような満面の笑みで。
視線の先のシステリナ王女が若干困ったような、うらやましいような表情をしている。
「ここでは話しにくいわ、場所を移しましょう? せっかくシアと再会できたのよ。いっぱいお話ししたいわ」
ラーナが少し困った調子で言う。
確かにここは玉座の間、ここで王と友人のごとく話すのは砕けすぎだろう。たとえ臣下がまったく居なくても。
生真面目なシステリナ王女ならなおさらここでは堅い姿勢を崩さないと思うしね。
それを不満に思ったラーナが自室に連れ出そうとしていた。セトルのことも自慢したいのかもしれない。産後すぐということで今回は挨拶だけのつもりだったが、せっかく友人との再会だ。水を差すのもはばかられる。
しかたない。と一息してラーナの意を汲んでオレは提案した
「では、荷物は運んでおきましょう。シア…、システリナ王女は歓迎の宴の準備ができるまでラーナの部屋で過ごしてはいかがですか?」
システリナ王女の事をラーナにつられてシアと愛称で呼んだ瞬間ラーナの視線がクルンとこちらを向いたので訂正する。
ラーナの向ける視線に背中がゾクゾクした。システリナ王女は苦笑している。
結局オレの提案が採用されることになり、ラーナと護衛を一人連れたシステリナ王女はラーナの部屋に向かっていった。別れ際にラーナにアイコンタクトで無理はしないでね? と伝えるとパチリとウインクが返ってきた。
うーんはしゃぎすぎな気がする、大丈夫だとは思うけれど少し気をつけて見ておくとしよう。
御者さんと護衛の方を連れて、一旦荷物を持ってシステリナ王女が休む部屋と護衛兼世話係の方々が使う部屋に案内する。
荷物も持とうかと思ったのだが護衛の方に王族に手伝わせたと知られたら私の首が飛んでしまいますと言われて自重した。
そういえばオレは王族なんだった。サンクチュアリに居ると王族とか平民とかそういう立場の違いがあまり感じないのでうっかりしていた。
世話係の方々はオレに道案内させること自体も恐れ多いと恐縮した様子だった。なんか新鮮な気分だ。
気にしなくて良いのにとは思うけれど、今後こういうことが増えていくだろうからオレも慣れていかないといけないな。
荷物が運び終わると城外の馬宿に馬車を預けに行き、その後三人でラーナの部屋へ向かう。
ノックするとラーナの返事と共に中から扉が開いた。もちろん開けたのはルミだ。
ルミは【補佐】を持っているだけあって動作に迷いが無い。
そこでは王族同士のお茶会が開かれていたが、ルミはしっかりとメイドをしていた。
立派に成ったものだと密かに感嘆とする。
後はスカートの中でプルプル奮えている足を抑えられたら合格だろう。
うん。あとで労っておこうと決めた。
中にはラーナ、システリナ王女のほか、護衛の方とルミ、セトルと産婆のババさんの六人がいた。
ラーナがセトルを抱っこしてあやしている。
「ハヤト様。セトルが今寝たところなのでお静かに願いますわ」
あやしているのではなく寝かしつけていたようだ。
セトルが起きている姿が見られなくて残念だったがタイミング的には良かったかもしれない。黙って頷いて返す。
起さないよう静かな声を心がけて話そう。
「そろそろ宴を開こうと思います。セトルが落ち着いたら移動しましょう」
「分かりましたわ」
宴という、システリナ王女一行の歓迎会。
準備自体はすでに大体が終わっている。あとは食事だけだ、これも『空間収納理術』から取り出すだけなのですぐに終わる。
『空間収納理術』内は時間が止まっているなんてテンプレ能力は無いが、時間経過で物が劣化することは無い。
むしろ修復されるという意味が良く分からない仕様なので食事が冷めたりすることは無い。まあ、便利だし気にしないようにしている。
ちなみに創作物はまた素材に戻るなんてことは無く、作った時の状態で保持されている。
後は取り出して並べるだけ。一瞬で終わるだろう。
セトルを産婆のババさんに任せて七人で移動、広すぎる大部屋に案内する。
「月並みですが、すごいですわね。フォルエンの技師ではちょっと真似できないかもしれませんわ」
そう言ってシステリナ王女が見るのは広間を照らす巨大なシャンデリアだ。
城を作ったとき、ラーナから色々と注文があって、コリコリに拘った自信作だ。
このシャンデリアだけで無限に時間が消費されるのでは? と疑ったほど凝っただけあって素晴らしい出来栄えになったと自負している。最初に見てもらったラーナは感嘆の声を上げて感動でしばらく見惚れて動けなくなったくらいだ。ラーナから見ても特大のすばらしい出来らしい。
喜んでもらえてがんばった甲斐があったよ。
「城もそうでしたけれど、ずいぶん豪華に作ったのですのね。フォルエン城より良い出来ですわ……」
それはもう、プロクラフトマンの血が半端な物を作らせなかったからね。
システリナ王女が知らずに褒めている製作者は実はここに居るのだが、教えると面倒なことになりそうだったので内心ニヤニヤしながらスルーする。
ラーナもニコニコ笑顔でシステリナ王女の感想に答えていた。
さて、しばらくして広間も落ち着いてきたので、システリナ王女の歓迎会を始めよう。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。




