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終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第三章 託す希望と託された未来

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第六話 スタンピード発生からの歴史 後編



「世界神樹周辺にある国々がすべて滅びたことにより魔石の供給が止まり、世界は深刻なエネルギー不足と成る」


 ラゴウ元帥の語りは続く。

 スタンピードで国々が滅んでいく現象が浸透し始め、真っ先に問題になったのが、エネルギー問題だった。

 この世界は、異世界ファンタジーのお約束通り魔石という純エネルギー物質の存在があった。


 この世界の魔石は魔物の体内からではなく地中から採掘される。

 それも多くがとある場所からでしか採掘できない。

 その場所というのが、オレは知らなかったが世界神樹ユグドラシルの周囲だったらしい。

 後で知ったことだが、大陸から採掘される魔石の九十%が世界神樹の周囲で採掘され、大神教国ユグシルがその採掘権をすべて持っていたようだ。


 しかし、その魔石の最大の輸出国であった大神教国ユグシルが滅びたことにより供給がストップ。

 採掘場の周辺には魔物が大量に跋扈しており当然ながら近づくことも出来ない。


 そして、この世界では当時、魔石からエネルギーを抽出して利用する、魔道具技術が主流だった。

 魔石の供給がストップしたことにより、世界は深刻なエネルギー不足へと発展した。


「文明は後退を余儀なくされ、多くの兵器、兵装が使用できず、スタンピードへの対応能力を失った」


 オレは見たことは無かったが昔は魔石を使った魔道兵装という武具が主流だったようだ。

 職業覚醒者は百人に一人しか生まれない。そのため、軍を強化するためには単純に兵器を作った方が現実的だった。


 しかし、これはエネルギー不足により徐々に使い物にならなくなっていき、魔石を使わない大剣や槍などの原始的な武器に移行されていった。

 それによりスタンピードの被害も増していくことになる。


 人々の生活も魔石エネルギーが密接に使用されていたようで、当時は大混乱に陥ったようだ。

 日本風に言えば電気、ガス、水道などのライフラインが無くなるに(ひと)しい。

 当時の人々は相当困ったことだろう。

 ちなみにフォルエン王国やシハ王国は元々輸出国から最も離れた場所にあり、輸送費で国庫が溶けるため魔石を使わない文化が発達していたようでさほど影響も無かったらしい。


「各国は力を合わせこの災害に立ち向かった。スタンピード発生から5年目、各国の超越者を集めスタンピードを食い止める組織“ハーマゲドン”を結成する」


 ハーマゲドンは世界各国から集められた二十人の超越者を中心に作られた組織だ。

 超越者の力は知ってのとおりすさまじく、スタンピードですら簡単に蹴散らしてくれる。


 彼ら彼女らが常駐したのが“大帝国アシエリスラ”。

 この国は大陸北を支配していた大神教国ユグシルとほぼ同等規模の国力を持っていたらしい。

 当時は北の大国ユグシルと南大国ハダイを合わせて三大大国と言われていた、大神教国ユグシルと大魔道国ハダイは魔石の輸出入の関係で仲が悪く、大帝国アシエリスラが間に立って北と南のバランスを担っていたとされている。


 そんな大国の一つを最終防衛ラインとし、スタンピードの防衛が始まった。

 しかし、初期はうまくいかず、大帝国アシエリスラから北にあった国は最初の4年でほぼ飲み込まれ地図から消えてしまった。

 それほど、当時の人々にとってスタンピードという物が脅威だったのだ。

 この頃はまだスタンピードの原因を突き止め、これを排除しようと攻勢に出向くことがままあった。

 しかし、それはすべて失敗に終わってしまう。

 これにより、貴重な戦力が深刻なダメージを受けたらしい。

 超越者も五人帰らず、人類は厳しい防衛を余儀なくされた。

 しかし、それがきっかけで人類は防衛に力を入れることになり、超越者集団のおかげで何とか立て直すことに成功する。


「“ハーマゲドン”の活躍により、人類は束の間の休息を得た。その間30年。この期間に対スタンピード戦の知恵と戦う力を蓄えた。だが、再び攻勢へ出る直前、“国殺しの邪竜王”がアシエリスラを滅ぼした」


 防衛を余儀なくされた人類ではあったが、大帝国アシエリスラを楯にスタンピードを食い止めることに成功する。

 周辺国の男集がほぼ全て参加し、スタンピードは討滅されていった。

 それから30年。人類は耐えに耐えた。

 人類は攻勢に出ないことで守られる未来があることを学び、南の国々と対スタンピード連盟条約を結び、大陸一丸と成ってスタンピードの対処に当たった。


 そして今から約40年前、人類は再び攻勢に出ようとしていた。

 すべての国々の軍人が大帝国アシエリスラに集結し、史上例を見ないほど大規模の討伐軍隊が形成された。その数五百万人と言われている。

 これで遠征し、スタンピードの原因を根絶やしにする。

 人類にとって、すべての願いを込めた希望だった。


 だが、その願いは理不尽に破壊された。大帝国アシエリスラに暴食の邪竜王が襲来したために。


 突如襲来した邪竜王に、連合軍とハーマゲドンは勇敢に立ち向かった。

 最終防衛ラインであり、人類の希望を集めた大国を守るために。


 しかし、邪竜王は強かった。

 当時十二人にまで減ってしまったが、超越者組織ハーマゲドンと五百万人を超える混成軍を相手にしてなお、邪竜王が勝った。


 オレも対峙して知ったが、邪竜王は緋色のブレスや魔法を使いこなす、言わば竜族の超越者だ。

 種族的にひ弱で、しかも超越者にすら至っていない人間なんて、邪竜王にとっては虫か、良くてネズミ程度の認識でしかないだろう。窮鼠噛み付く、痛くもない。


 結果、軍は壊滅的被害を受けた。超越者にいたってはすべて、一人残らず邪竜王の腹の中へ飲み込まれ、繁栄と人類の希望の象徴だった“大帝国アシエリスラ”は滅んでしまう。


 人類にとって、最後の希望は潰え、人類に絶望が渦巻いた。その後は…、


「“大魔道国ハダイ”はたった5年で地図より消えた。次にナラグス賢王国、ヴィンダルブ森林国、シャタール陽王国、エイシスシスタ英雄王国、レイオン公国、そしてシハ王国――」


 ラゴウ元帥が険しい表情で重々しく語るのは、その後に地図から消えていった国々の名だ。

 イガス将軍とシステリナ王女は目を瞑り、静かに黙祷を捧げている。

 もしかしたら、知り合いが居たのかもしれない。


 それに倣い、自分も目を瞑る。

 思い出すのは戦果の渦中でラーナを守った全身黄金鎧を着た伯爵と呼ばれていた男、そしてラーナを守って散って逝った護衛たち。

 彼らにラーナを守り通してくれたこと深く感謝し、心の中で礼を言った。


 ラゴウ元帥の話はそこで終わる。

 言外に、次はフォルエン大農園王国だと言っているような気がした。



「できる限り協力は惜しまないと約束しよう。人類の未来のために」


 オレはラゴウ元帥の眼を見つめそう答えた。



 もし、邪竜王が言っていたことが本当で、この世界の唯一神である神が果てていたとしたら、今後どんな災害が起こるかわからない。


 いや、邪竜王は近づけないと言っていた、自分がまだ支配者ではない風なことも言っていた。

 その話しぶりからまだ世界神樹は生きているのかもしれない。

 八十年前、本当に果てていた、もしくは果てそうだったとしたら大陸中にその情報が出回っていなければおかしい。

 しかし、スタンピードを発生させているのが本当に世界神樹だとすれば、何かしら異常をきたしているのは確実だろう。


 もしかすれば、明日にでも世界神樹が果てるかもしれない。

 ラゴウ元帥の語りには、何やらそんな説得力を感じた。


 オレもサンクチュアリを守るだけでは足りない。

 遠い未来、人類が滅びないように全力を注ぐ。

 そう、改めて決意した。



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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 逆鱗に触れなければ交渉の可能性が、って、竜語が解らないと駄目か。
[一言] これじゃあドラゴン殿の存在を明かすわけにはいかないですね。
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