第五話 スタンピード発生からの歴史 前編
夏バテと知恵熱の波状攻撃にさらされるも冷えピタ張ってがんばるます!
「世界神樹が果て、スタンピードが発生している、か」
話を聞き終わったラゴウ元帥から重苦しい言葉が出る。
世界神樹が果てたと聞いてシステリナ王女が酷く動揺しているが、ラゴウ元帥とイガス将軍は難しい顔をするのみだ。
もしかしたら彼らは知っていたか、もしくは予想の範囲内だったのかもしれない。
「ラゴウ元帥とイガス将軍の反応から察するに、世界神樹ユグドラシルがスタンピードの原因だと知っていたのか?」
「然り。そして否でもある」
「はっきりとは分かっておらんかったがのう。何しろ世界神樹までたどり着けぬ。あそこは駆逐されないため魔物が大量に跋扈しておるからの、それに距離的な問題もある」
ラゴウ元帥が肯定とも否定ともつかないと答え、イガス将軍が補足する。
魔物が大量にいるのは分かっていたが、世界神樹が原因で魔物が沸いているとは知らなかったようだ。とはいえ予想はしていた。
問題なのはその原因が調べられるほどの戦力を保有できていないことだ。
「避難民の中には世界神樹ユグドラシルから沸いていると証言した者もいた。しかし、実際の眼で確認した者は居らず噂の範疇を出ない不確かなものだ」
ラゴウ元帥の話だと、過去遥か北から避難してきた民の中にはスタンピードは世界神樹ユグドラシルから発生していると言った者が居たようだが、目撃者というわけではなく曖昧な噂程度の話だったらしい。
しかも非難の相手がこの世界の唯一神ということで噂話をする者も次第に鳴りを潜めたようだ。
それはそうだろう、神様を非難していれば黙っていない者だって現れるだろうし「罰当たりな」、と言って襲われるかもしれない。口を噤む者も多いだろう。
実際フォルエン王国から世界神樹までは遠すぎて真偽のほどは分からないのだ。
いくら声高に主張しようと真実が確かめられないのだから受け止められることは無かった。
世界神樹はこの世界の職業システムを司る神だと言われている。
神に認められたものは職業に覚醒し、様々な恩恵や加護が与えられると信じられているのだ。
地球の神のように見守るだけではなく、こちらの神は実際に力を与えているのでこの世界の住民からすればかなり身近な存在なのだろう。
この世界の人にとって、神が人間を滅ぼすなんて洒落ではすまないのだ。
だがそれも時が経つに連れ忘れ去られていった。
多くの国々が滅び、北の様子が本格的に分からなくなって原因を確かめるどころか毎月訪れるスタンピードから防衛するだけで手一杯に成ってしまったようだ。
「今から80年前、最初のスタンピードにより六つの国が滅びた――」
ラゴウ元帥が重々しい言葉で語りだす。スタンピードの歴史の話だ。
オレも邪竜王の話から気になりラーナからこの世界の歴史は聞いている。
確か、ここより遥か北には世界神樹を信仰する宗教国家が乱立するように建国されていたが、そこに突如としてスタンピードが襲い掛かりわずか一夜にして六つの国が滅んだという、この世界で有名な話らしい。
「――スタンピードに立ち向かうため“大神教国ユグシル”を中心に連盟で原因の究明がなされる」
当時、遥か北にあった一番の大国であった“大神教国ユグシル”。
この国は周辺の国々を属国化して君臨していた大国らしく、滅ぼされた六の国々もまた大神教国ユグシルの属国だった。
スタンピードに危機感を覚えた大神教国ユグシルは敵対していた国々と素早く講和し、連盟でスタンピードの脅威に立ち向かい原因を究明、解決しようとしたらしい。
しかし、その作戦は失敗に終わった。
「――“強欲の愚か者”により大神教国ユグシルはその長い歴史に幕を閉じる。飛び火した影響は周辺国すべてを巻き込んだ」
この世界史上最悪と言われる出来事。
大神教国ユグシルは敵対国が多かった。
そんな中スタンピードの脅威にさらされ、当時スタンピードの備えより人々との戦争に重きを置いていた国々はあっという間に滅んでしまう。
危機感を募らせた大神教国ユグシルは一時的に争うことを止め、周辺国と講和して一致団結してスタンピードに立ち向かった。ここまではうまくいっていたように観えた。
周辺の国々の中でも大神教国ユグシルは頭二つ抜けた大国だった。だからユグシルが率いて臨めばすぐに解決すると思われた。裏切りが出なければ…。
ユグシルは裏切りを何より恐れていた。
それ故に周辺国を巻きこんだとも言える。
スタンピードは国を飲み込むほどの規模だ、敵対中に周辺国から横槍を入れられればたとえ大国といえど致命傷に繋がる恐れがあった。
しかしスタンピードで混乱した中、乱れた統治の隙を縫って属国のいくつかが敵対していた周辺国と繋がってしまう。
結果、スタンピードの対応で国が手薄になった隙に内乱が起こってしまう。
さらにはいくつかの周辺国が軍をスタンピードへ向かわせず、そのまま大神教国ユグシルに進攻。
大神教国ユグシルは周辺国、内乱、スタンピードの三つから攻撃され、その長い歴史に幕を閉じてしまう。
スタンピードを利用して、今まで君臨していた大将を下して、当時周辺の国々はさぞ気分が良かったことだろう。
それが、自国はおろか、世界中の人々を絶望へと突き落とす破滅へと続く選択肢とも知らずに。
――結果から言えば、大神教国ユグシルで内乱を起した属国も、周辺国も生き残りはほぼ皆無だ。
何しろスタンピードの対応をせず、まとめ役の総大将を下してしまったのだから。
その後に訪れたのは大混乱だった。何しろ立役者が多すぎてまったく纏まらない。
彼らはスタンピードなんてそっちのけで大神教国ユグシルの分配のことしか頭に無かったのだ。
そこにやってきたスタンピード。
当時対スタンピードなんて想定されていない時代、毎月スタンピードが襲ってくるなんて知らなかった時代。
多くの軍人が野戦でスタンピードと戦い、そして多くの軍人が死んだ。
その時は大神教国ユグシルを守ることが出来た。その時だけは。
現代からするとスタンピードに野戦で挑むなんて考えることすらしない大悪手だ。
毎月放出されるスタンピードに対し、どれだけ犠牲が減らせるかというのが最大の焦点になる。兵を守ってくれる壁が無ければまともにスタンピードと戦えるわけがない。
しかし、当時はスタンピードのことなんてまるで考えもしなかった国々は軍に無駄に犠牲を出した。
ひょっとすれば大神教国ユグシルがまとめ役をしていればスタンピードは終わりを告げていたかもしれない。その機会をこの周囲の国々は自ら潰してしまった。
――大国ユグシルを下したのだ、スタンピードなんて手間取るほどの事では無い。
そう過信して。
気が付いたときにはすでに手遅れだった。
軍はボロボロでスタンピードの原因調査どころか防衛もままならない状態に陥り、押さえきれなくなったスタンピードはダムが決壊したかのような勢いで一気に周辺国を飲み込んだ。
これがこの世界史上最悪の出来事。――“強欲の愚か者”である。
そしてこれがきっかけで、人類はスタンピードの原因を突き止められなくなった。
長くなったので割合。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります




