第三十五話 世界最強の対決
「き、きさまぁぁ―――っ!! 一度ならず二度までも、痛いではないか! 対価を請求した途端踏み倒しに来よって! 貴様それでも戦士か! 恥ずかしいとは思わないのか!」
………住民を差し出せと言われた事にカチンと来てしまったが、確かに攻撃するのは早計だったかもしれない。
というより、端から見たらオレはドラゴン殿に不意打ちを決め、ほぼ一方的に情報を聞き出したのち、対価を踏み倒した形になるのか……。
本当にこのドラゴンは道理を説いてくるな。何故か心にグサリと来る。
しかし、その対価は受け入れられないんだ。
「ドラゴン殿、オレは別に踏み倒したい訳では無い。しかし、我が町の住民を差し出すことはできない。オレは彼女たちを守るためにここに居るのだ」
「ふん! 我の知ったことでは無いっ! 我は腹が減っておるのだ! スタンピードを食い尽くした今、近くに人里があることを知り、それでも食いに行くのを自制して住人を守ると豪語する貴様を立ててやった。これ以上の譲歩は罷り成らん!」
譲歩ときたか…、つまりこのドラゴンからするとサンクチュアリの住民を食べるのは決定事項で、ドラゴンなりにオレに気を遣ってくれたということらしい。
これがドラゴンの考え方か?
ぶっとんでいると思う。
「ドラゴン殿、考えを改めてはくれないか! オレの守る人々をどうか襲わないで欲しい!」
「くどい! 甘い考えを捨てよ! この世界は弱肉強食、対話で解決など成り立つ世界では無い!」
くっ、そのとおりだ。
そもそもオレが【竜語完全理解者】を獲得していなければ対話すら成り立たなかった。本来なら魔物とはスタンピードと等しく対峙する存在、それがこの世界だ。
ドラゴンは考えを改める気は無いようだ。
「いいのか? オレと戦うことに成る、オレはそこら辺の魔物より強いよ」
オレは『竜血覇撃』を受けて甲殻が割れ、血が流れている傷を見ながら言う。
「ふん! 分かっておるわ。我の外甲に傷を付けるどころか痛みを感じさせる存在など久しく居なかった故な。我は言ったはずよ、この世は弱肉強食だとの、我を止めたくば武勇を示せ。王の歩みを止める者がどうなるのか教えてやろう」
……王か。なるほど、こいつは王として引き下がれない、そういう境遇があるのかもしれない。
ドラゴンは言った。武勇を示せと。――いいだろう。
ならば見せてやる。やられても恨まないでくれよ。
「いいだろう。オレもサンクチュアリの王として、武勇を示そう。行くぞ! ――『竜血覇撃』!」
「フンッ!!」
『瞬動術』を発動し一瞬でドラゴンの頭を潜り、急所と思われる首に『竜血覇撃』を放った。
だが、ドラゴンの反射神経はオレの想像を超えていた。
あの巨体でどうしてそんなに素早く動けるんだと驚愕する速度で横にスライドし、回避して見せたのである。
さすがに予想外だったので『瞬動術』の反動で止まることができずかなり距離が空いてしまった。
しかし、さすがにオレよりは遅い。
今度は避けられることを想定すれば追いつけるはずだ。
「オオオオオォォォォ■■―――ッ!!!」
もう一度『瞬動術』を使おうとするとドラゴンが詩のような鳴声を出した。
すると、ドラゴンの周りが何やら青く光る。見た感じオレの結界魔法に似ている気がするが、まさか?
「オオオオオォォォォ■、■■―――ッ!!!」
今度はドラゴンの身体が赤く、いや緋色に輝き始めた!?
まさか緋色のアーツか?
アレは、まずい。止めないと。
『瞬動術』で接近し、『双槍双楯突撃』を使って青く光る壁に接触すると、やはりこれは結界のようだ。強固な壁で突撃が一瞬止まってしまう。
「『シン・ドラゴン・ブレス』ッ!!」
そこへドラゴンがブレスを放ってきた――ってなんだそりゃ!?
先ほどのブレスを数倍に太くしたような超極太ブレスが放たれた。
結界魔法で足場を作って『瞬動術』で緊急離脱する。
瞬間、余波で燃える魔物を思いだして慌てて『円柱結界』を発動して身を守った。
超極太ビームブレスがオレの居た場所を通り過ぎ地平線の彼方まで消えていく、途中いくつもの爆発が巻き起こる様子は、極太ブレスの火力の強さを物語っているかのようだ。
何とか結界で防ぐことに成功、再びドラゴンに接近する。
ドラゴン結界は先のブレスで一部穴が空いている、今なら破れない事は無いはずだ。
「――『四大元素波撃』! 『竜血覇撃』!」
【理術大賢者】の高威力砲撃『四大元素波撃』を塞ぎそうな結界の穴に当てるとドラゴン結界にヒビが入ったので『竜血覇撃』で追撃して破壊する。
「ふん! まさかこうも易々と我が竜結界が破られるとはあっぱれよ!」
やはりアレはドラゴン流の結界だったようだ。
まさかドラゴンが結界を使うとは思いもしなかった。
“魔眼”でエビルキングドラゴンを確認してみるが、やはり職業は見られない。
未だ緋色のエフェクトを体中から発しているドラゴンは身体を起こして迎撃する構えを見せている。
――ってドラゴンが構えるな。
「フンッ!」
「『竜血覇撃』! ―――ガハッ!」
ドラゴンに特攻を持つ理術である『竜血覇撃』を放つが、緋色の竜爪に迎撃され、その余波の衝撃でオレは吹っ飛んだ。
「ぐっ!? 『竜血覇撃』が相殺された!? ――そうか、バフかっ!」
エビルキングドラゴンから溢れている見慣れた緋色の光は、おそらく超越級のバフだろう。
ドラゴンが超越級の技使うなよ!
このドラゴンは本当ツッコミどころが多い。
だが、目には目を、バフにはバフを。
「――『大賢者の理術極意』! 『大英雄の滅竜覇道』! 『槍楯勇者の守聖伝説』!」
三大伝説ジョブのバフを最大出力で自分にかける。
以前ワイバーンのスタンピードと戦った時にも出た黄金の光が全身から溢れ出す。
さて、ここからが本番だ。
「貴様、それは緋技ではないな? この光、昔の世界神樹に似た波動を感じる。何者よ貴様」
「自己紹介が遅れた。――オレはハヤト。伝説の勇者であり、伝説の英雄であり、伝説の賢者である存在だ」
金色に光るオレの身体を見てドラゴンが攻撃をやめ訊いてくる。
シハヤトーナ王国の王と名乗りたかったところだけど、多分エビルキングドラゴンが知りたがっているのはそういうことではない気がしたのでこっちを名乗っておいた。
「伝説? まさかそれは伝技なのか? ――ふは、ふはははははっ!! まさか、伝技を使う者が現れたというのか! 果てた世界神樹が最後の力を使った傑作か? ふははははは! 驚いたぞ、伝技を操る者と死合う日が訪れようとはな!」
何か聞き捨てならない情報が飛び出してきた。
ちょっと待って欲しい。
こんな戦いのさなかに新情報なんて言わないで欲しい。
「どういうことだ? 世界神樹に何があったのか?」
「ふふふ、さてな。これから死ぬ者に答えてやる必要もあるまい。しかし、貴重な機会であることも事実。そうだな、我に勝てば教えてやっても良いぞ。我を殺さず、動けないほどに痛み付け、屈服せしめることができればの話だがな」
まったく無茶を言う。
エビルキングドラゴンを屈服させろだって?
一撃で首を落とす方が何十倍も簡単だよ。時間がどれだけ掛かるかもわからない。
しかし、この竜王は一度決めたことは絶対に覆さないと、この数時間の邂逅だけでわかっている。
逆に言えば、屈服させることができれば世界神樹の謎を残らず話してくれるということでもある。
なら、まずはやってみよう。ダメなら倒す。――これでいこう。
「ほう、やる気になったか」
「悪いけど、ここからは本気で行くよ。最強最大の一撃だ。これをやると、ひょっとするとエビルキングドラゴンでも耐えられないかも知れないけど、その時はオレを恨まず成仏して欲しい」
別に出し惜しみしていたわけでは無いが、なんとなく大技というものはここぞと言うときにトドメに使わなくちゃ行けない気がして使っていなかった。
しかし、これを使えば、もしかしたら良い感じにギリギリでドラゴンを死なせず屈服できるかもしれない。当たり所が悪かったら残念だが、正直このドラゴンを時間を掛けて削るのは骨が折れそうどころか失敗する確率の方が高そうなので、全力で行くことにした。
「【古閃大英雄・滅竜属】第八の伝技――――」
この技は竜特攻を持つ伝説職業【古閃大英雄・滅竜属】、今のオレにできる最強技。
フォルエン王国にスタンピードを押しつけられた時、虫食い状態だった■が滅に変化し、属性補正の威力が倍に膨れ上がった。
しかし【滅】の文字が入っているとおり竜を滅してしまうためエビルキングドラゴンが耐えられるかは正直分からない。
「ほう、伝技か! よい、よいぞ! 久しく忘れていた強者との死合いに竜の血が騒いでおるわ! ならば我も最強の緋技で迎え打とう。受けてみよ、――『エビル・キング・ドラゴンブレス』ッ!!」
オレは“竜牙槍”を前に突き出して、それを発動した。
「――――『英雄覇撃・古閃滅竜』っ!!!」
おっふ。誤字報告ありがとうございます! m(_ _)m
いつもいつもお世話になって申し訳ない! これからも精進します!
また、誤字を見つけた場合教えてくださると本当に助かります。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




