第三十四話 エビルキングドラゴンの情報
「ギャロオオオオオオオオオ!!!!!!」
《職業【竜語完全理解者】を獲得しました》
「痛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっ!!!!!!」
エビルキングドラゴンが突然の痛みに吼えた。
瞬間、職業覚醒のログが流れる。
――ん? なんだこれ竜語…理解?
どうやらエビルキングドラゴンの鳴き声が言葉として理解できるようになったようだ。
マジか…、魔物は知性の無い、対話が通じない相手だと思っていたのに…。
竜だから? 高レベルだからだろうか?
いや、とにかく想定外ではあったが言葉が通じるなら対話で引いて貰うのも有りかも―――。
「――いきなり不意打ちしてきたのは誰だぁーっ!!!!!」
数キロ離れたここまで良く響く声でドラゴンさんが吼える。
いや、やっぱり対話は無理かもしれない。
ドラゴンさんはとてもお怒りのようだった。
先制の一撃、奴が食事に夢中になっている隙に放った『彗星槍』は首の根元部分に突き刺さった。
そう、刺さっただけだ。“キングハイコボルト”の胸を一撃で貫通して、そのまま雲を突き破って空の彼方に消えた『彗星槍』の一撃を無防備に喰らって刺さっただけだった。
こいつ、とんでもなく固いな。
でも、ドラゴンさんからするととても痛かったようで、首に刺さったままのランスを何とかしようと手を伸ばしている、が残念ながら短すぎて届いていない。
「うおぉぉー! よりによって一番手が届かないところを! 痛い、痛いぞこんちくしょー!」
どうしよう。
スタンピードが言葉を話すなんて、これまで不明だったスタンピードの情報を知る最大のチャンスなはずなのに、よりによって怒らせてしまうとは。
――失敗したかな。
倒してしまうか?
いやいや、これはチャンスだ。倒すのは少し待とう。
なら捕獲するか?
見れば痛みで少々暴れているドラゴンの足下ではスタンピードが余波で大変なことになっていた。
あれを捕獲するのか…。すごく大変そうだ。
レベル100に加え、転がるだけで車がぺしゃんこに成りそうなほどの質量。
全力で戦わなければこちらもただではすまないだろう。
倒してしまうほうが遥かに簡単だ。
しかし、大きなチャンスであることは間違いない。
本当、どうしようか。
オレは今後の行動を決めかねていた。
しかし、状況は刻一刻と動いている。
「見つけたぞ! そんなところに隠れていたか!」
しまった見つかった!
オレは『透気身術』で気配を消して逃げようと試みるが。
「ふん! 竜の眼にまやかしなぞ通じんわ! くらえぇ“ドラゴンブレス”っ!!!!」
―――げっ!
なんだあれは!
火炎放射系ではなく、レーザービーム系の極太ブレスが一瞬で迫ってきた。
「――『瞬動術』!」
一歩だけ超速で動ける『瞬動術』を使いその場を緊急離脱する。この理術は小回りはきかないし、着地が非常に難しいが、一瞬で移動できるので『瞬動走術』を使うより緊急離脱する際には重宝している。
瞬く間に二百メートル移動した瞬間、ブレスがオレの居た場所を通り過ぎていった。
見れば、ドラゴンからオレの位置の直線上に居た魔物が全て丸焦げに成っている。
余波で周囲が火の海だ。もちろん燃えているのはスタンピードたち。
今の一撃だけで数千はやられたのでは無いだろうか?
かくいうオレも熱波で鎧の所々が焦げてしまっている。
ステータスが低かったら多分オレもあの周囲の魔物と同様発火していただろう。
ステータスが高くて助かった。
「避けるなぁぁぁ!!」
んな無茶な。
「――すまないドラゴン殿、ランスを投げたのは謝ろう!」
あんなブレスをそう何度も撃たれては叶わない。
オレはダメ元で対話を試みる。
ざわめくスタンピードがうるさいので『静聴』を使おう。
これでかき消されず声がドラゴンの元まで届くだろう。
「――しかし聞いて欲しい、この先にはオレの住む町がある。そこへドラゴン殿を近づけるわけには行かないのだ」
「ふん! スタンピードの後をつけてみれば、まだ人里が残っていたとは驚きよ! しかも我が竜語を操る戦士がいるとは興味深い! しかし、我は竜王! 王の身に傷を付けておきながら許されると思っているのか!」
く、まさかドラゴンに道理を説かれるとは。
しかし、こいつは気になることを言っていた。
――『スタンピードの後をつけてみれば』?
エビルキングドラゴンはスタンピードの一部では無いのか?
オレが竜語を話したことでエビルキングドラゴンの興味を引けたようだ、今のうちに情報を引きだそう。
「――攻撃したことは謝る、回復魔法で傷も治そう! 許して欲しいとは言わない。しかし、少しだけ話をできないか?」
効くかどうか分からないが【交渉士】をフル活動して対話を試みる。――すると。
「ふん。まあよかろう。我も久しく会話する機会なぞ無かった故、興が乗った。話してみるがいい」
思いのほかあっさり効いた。
本気か?
いやこれはチャンスだ。
チャンスを生かすんだ。
「――ドラゴン殿はスタンピードを追いかけてきたのですか?」
「ふん、知れた事よ。うまそうな飯どもが大群をなして我の目下を通り過ぎようとしていたのよ、ならば対価として我に美味しくいただかれるのも当然の事よ!」
話していることはよく理解できなかったが、どうやらドラゴンさんはスタンピードとは関係の無い、野生の竜らしい。
そういえば“グリーンドラゴン・幼竜”もスタンピードとは縁がなさそうな感じだった。
“幼竜”みたいに子どものスタンピードというのは見たことが無い。
おそらくこの竜という種はこの世界で繁殖しているファンタジー生物なのだろう。
エビルキングドラゴンは話をして食事の最中だったことを思い出したのか、またスタンピードを食べ始めた。
「――お食事のところ失礼。スタンピードは何故発生しているのかご存じですか? ここ数十年止まらず北から侵攻してくるのですが」
「バクンッ! ふん、なぜ我が教えねばならん、と突っ返してもよいのだがな。まあいいだろう。……我も詳しくは知らんが。しかしスタンピードができる場所なら知っている」
「そ、それはどこですか?」
「――世界神樹よ」
世界神樹? 世界神樹ユグドラシル?
それは、ラーナが信仰する、この世界の唯一神の名前だった。
「奴らはの、時期が来れば世界神樹の周りにわらわら出てきての、方々に散るのよ。それをスタンピードと呼ぶ、らしいな。我はあの浄化の神木に近寄れんが、あの地から出てくるスタンピードは良い食事処よ」
「――ちょ、ちょっと待ってください。世界神樹ユグドラシルは実在するのですか?」
ドラゴンさんの口から出てきたのは衝撃的な話だった。
スタンピードが世界神樹ユグドラシルから沸く?
なら原因は世界神樹ユグドラシルなのか?
いや、そもそも世界神樹ユグドラシルはこの世に実在する木だったのか?
「人種は無知よの。――無論、ここより遙か北の地に聳えておるわ。奴さえいなければ我がこの世界の支配者に成っていただろうに」
後半は別にいらなかったが前半はとても有用な話だった。
そうか…世界神樹ユグドラシル。
オレをこの地に呼んだ原因かもしれないと思っていた、この世界の唯一神。
地球にいた頃の感覚でてっきり地上にはいないと思い込んでいたから詳しく聞いていなかったけれど、ここは異世界だ。
実際に神様が実在し、住んでいる場所があってもおかしくはなかった。
もしこいつを調べることができれば、スタンピードの原因やオレが何故この地に来たのかも分かるかもしれない。
それからも、いくつも話をし、オレが質問し、ドラゴン殿が食べながら答えてくれるという会話が続いた。
とても有用な話がいくつも聞けた。
途中、ドラゴンの食事のせいで散り散りになったスタンピード集めよとドラゴン殿に指示されたが、それくらいならお安いご用だ。
先の怒りは沈んだ様子で、これならば友好的な関係が築けるかもしれない。
ひょっとすると背中に乗せてもらい世界神樹ユグドラシルまで乗せて行ってもらえるかもしれないな。
そんな事を思う。
そして、どう見ても質量以上に摂取して食べた魔物はどこ行ったんだとツッコミたいドラゴン殿が十三万のスタンピードを全て食べ終わった頃、奴は言った。
「――さて、話は終わったな? では王の身体を傷つけた大罪と情報の対価として、貴様の町の住民すべてを差し出すがよい――グハァッ!!!」
「ドラゴン殿、今なんて言った?」
世迷い言を言い出したドラゴン殿に、オレは素早く『空間収納理術』から“竜牙槍”と“竜頭楯”を取り出して『竜血覇撃』を放っていた。
た、たくさんの誤字報告ありがとうございます!
本当に助かります! 作者の未熟な執筆力に手を添えていただき感無量です!
おかげさまで本作はすばらしい作品に生まれ変わりました!
今までどれだけ誤字が多かったのかと思い知り、作者思わず悲鳴をあげてしまいました。ごめんなさい。
しかし今後は……今後こそは…が、がんばりたいと、思いまっす!
これからも読んでくださるとうれしいです!
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




