第三十一話 正式建国
賛否両論有りそうです。それでも突き進みたい。
ラーナ懐妊の噂は瞬く間に町中に広がった。
城塞都市サンクチュアリはお祝いムード一色だ。
以前のフォルエン軍の戦勝祝いにも負けてはいないほど騒がしく、多くの子が城の前で「おめでとう~」と叫んでいる。
こんなに大勢の子どもたちにお祝いしてもらってオレもラーナも幸せ者だ。
これは盛大にお返ししないといけないだろうとラーナと話し合い、今日は急遽祭り…いや、宴を開催することにした。
今こそ、職業補正を最大限引き出したオレの本気を見せるとき!
今まで溜めに溜めた高級食料、金額にしてワイバード十本分を使い宴に出す料理を作りまくる。
午前中はラーナと一緒に居たので、お昼には残念ながら間に合わなかったが、オレがごちそうを作ると瞬く間に町中に広がり、子どもたちは昼ご飯抜きでオレの食事を待ってくれている。
大体午後三時頃、ようやく住民が一斉に食べても無くならないほどの料理が出来上がったので、職人街に設けた場にテーブルを立食形式にして配置し、皆に手伝って貰い料理を並べていく。
ルミに手を引かれたラーナがステージに上がり、オレと一緒に皆にお礼の言葉を返した。
「今日はお祝いの言葉ありがとう。皆の祝福とても嬉しいわ」
「お祝いのお礼にたくさんの料理を用意した。みんなも楽しんで欲しい。では、みんなグラスは持ったかい? いくよ? かんぱーい!」
「「「「かんぱーい~」」」」
フォルエン王国からの交易品で、この世界では高価な果実ジュースを子どもたちに盛大に振る舞った。
みんな笑顔で乾杯して飲んでいる。
宴も始まり、高級料理に舌鼓を打った。
おお! これは美味しい! 我ながら良い出来に仕上がっていると思う。
子どもたちなんて取りあいだ。
見る見るうちに料理が減っていく。
特に肉料理が人気なようだ。
うちの子どもたちは何でこうも肉好きばかりなのだろう。普段お肉ばかり食べさせていたせいだろうか?
とはいえ今日は宴の最中だ、お小言は言いこなしだろう、後日にでも野菜をいっぱい食べさせようと心に決める。
「ルミもいつもありがとう。これからもラーナを支えてあげて欲しい」
「はい、もちろんです!」
今回ラーナの妊娠が分かった背景にはルミの活躍があった。
ラーナの話によると、ここしばらく月のものが来ていないとルミに相談したら、ルミが【補佐見習い】でなんとか成らないかと頑張ってくれたそうだ。
そして今日の朝、ルミは驚くことに自力で【助産見習い】に覚醒し、ラーナが妊娠していることを確認したのだという。
もしかしたら【補佐見習い】に引っ張られたのかもしれないが、【大理術賢者・救導属】に頼らず職業覚醒するとはすごいことだ。
オレもラーナもいつも補佐してくれるルミには感謝している。
初めて会ったとき、年長でそれなりに話が通じるという理由で補佐役に任命されたルミがここまで素晴らしい成長を遂げるとは、あの時は考えもしなかった。
今度、何かで報いてあげよう。
「ハヤト様、以前お願いしていた国の名前、決まりましたか? よろしければこの場で発表したいのですが」
宴も盛り上がる中ラーナがオレの腕に手を添えて言う。
う…。ちゃんといくつか候補はあるがずいぶんいきなりだ。
宴も思いつきのいきなりだったが、今この場にはサンクチュアリの民全員が揃っている、国の名前を発表するのにも都合が良いとラーナは考えたのだろう。
結婚して二ヶ月余り、国の名前を決めてと言われてからもうそんなに経つのか。
名前を決めるのは苦手だ。
特に歴史に名を残すような名前を決めるなんて時間がいくら合っても足りない。
しかし、ずいぶん待たせてしまったしそろそろ決めないといけないか…。
あまり自信が無いのだけど…、ラーナにいくつか絞った候補をこっそり耳打ちする。
果たしてお気に召す物があるだろうか?
「ハヤト様! それ、それにしましょう! すごく良いと思います!」
四つ目、最後の候補を言ったらすごい食いつきが返ってきた、キラキラした瞳からすごく気に入った事がうかがえる。しかし、
「ほ、本当に良いのですか? 少し恥ずかしいかと思ったのですけれど」
「とんでもない素晴らしいです! 私とハヤト様が建国した国という事がとてもよく現れていると思います」
それはオレとラーナの名前から取ったからね。
まさかこんなに気に入るとは思わなかったけど。
というか、本当にこの名前でいくの? その、候補に絞っといて何なんだけど、やっぱりやめた方が、後で黒歴史というか、後悔するかもしれないよ?
「ハヤト様がお決めに成った名前ですもの、後悔なんてしませんわ。サンクチュアリも、とても良い名前だと思いますもの」
それは嬉しいのですけど…。
と、オレが戸惑っている内にラーナとルミが子どもたちを集め始めた。
今まで国に名前が無くても別に不自由はしなかったのだからもうちょっと考えましょうとラーナに訊いてみるも、ふふふっと笑うだけだ、どうやらラーナは下がる気は無いらしい。
「皆さん聞いてください。現在“城塞都市サンクチュアリ”が所属している国は名前が在りませんでした。しかし、ハヤト様が素晴らしい名前を考えてくださいました。この場を借りてその名前を発表したく思いますわ!」
「お~」
「国の名前?」
「それってすごいこと?」
「サンクチュアリは名前じゃ無いの?」
「名前変わっちゃう?」
うん。ちょっと子どもたちには国の名前だとか所属だとか早かったみたいだ。皆ちんぷんかんぷんで、中にはサンクチュアリの名前が変わると思っている子も居る。
そんな中、ラーナが丁寧に演説し、サンクチュアリは町の名前、これから言うのは国の名前と説明していく。
これも【王】の補正なのか、とりあえずサンクチュアリの名前は変わらない事だけは分かってくれたようだ。
「では発表します。“シハヤトーナ王国”。城塞都市サンクチュアリの所属する私たちの国家はこれより“シハヤトーナ王国”に決定します!」
「「「「お~!!」」」」
うん。子どもたちもいきなり言われてもわかんないよね。ははっ。
子どもたちはなんとなく声を上げているけれど、ちゃんとわかっている子は一割も居ないと思う。
“シハヤトーナ王国”、まさかこれが採用されるとは。
ラーナの故郷であるシハ王国の土地に聳えるハヤトとラーナが作った国ということでこの名前を付けたのだけど、やっぱり少し恥ずかしい。しかし、決定してしまったものは、もう覆せない。諦めて慣れるよう頑張ろう。
ラーナのあんな嬉しそうな笑顔を見たら本気でやめさせることなんてできないからね。
こうして、“シハヤトーナ王国”は正式に建国された。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




