第二十四話 食堂大混雑
「ラーナ、今日の商談がとてもよく纏まりました。食料がたくさん手に入ったので、本日より昼食を導入しようかと思います」
思ったより良い商談が纏まったので、その日のうちに出来るだけ食料を買占め、サンクチュアリに帰還した。
見ればまだ日は高く、昼食を取っても問題ないくらいの時間帯だ。
早速ラーナに確認を取る。
「まあ、すばらしいですわハヤト様。最近は子どもたちもお腹を空かせていることが多くなって気になっていたのです。みんな喜びますよ」
そう、最近になり、少しずつ肉付きが良くなってきた子どもたちだったが、一日二食は育ち盛りの子どもたちには全然足りなかったようだ。
子どもたちのお腹がもっと栄養よこせと言わんばかりに夕方グーグー合唱が行われることも少なくない。
その原因は仕事が増えたからだ。
今までじっとして極力体力と腹を減らさないよう勤めていた子どもたちだったけど、調理係を始め、裁縫係、解体係、最近は畑仕事係など手伝える仕事を増やしたため空腹度が上昇した。
しかし、自給自足が出来ないサンクチュアリでは食料は限られている。
あまり贅沢が出来ない。
スタンピードの魔物も食べられるのは二割程度しかいなかったからだ。
しかし今回、輸入によって一気に食料問題が解決した。
自給自足が出来るまで一日二食でがんばろうと思っていた矢先の光明だ。
今日から三食食べられる。
もう合唱会が開かれることもない。
「というわけで、今日からお昼ご飯を導入するから、調理班の子達、がんばってね」
「「「はい!」」」
場所変わって調理場、いつもの調理班に集合してもらいお昼ごはんを導入すると言ったら諸手を挙げて喜んでくれた。
彼女たちだけ仕事を増やすのはさすがに忍びないのでオレも一緒に昼食の準備を手伝う。あとで調理班の人数を増やすとしよう。
「す、すごく早い!」
「手際良~」
「さすがハヤト様~」
何人かがオレのそばに寄ってきてほめてくれる。
心地よい言葉に耳を傾けつつ手早く百人分サラダを二十皿完成させる。
見学に来た調理班の子どもたちは今まで肉を切る、肉を焼く、肉を盛り付けるくらいしかやることが無かったので【調理師】の囁きの元、彼女たちに調理法を教えていく。
「塩はこれくらい振ってあげて、たくさんあるから節約する必要は無いからね」
調味料も使ったことが無い子が大半なので実地で教えながら味見させて覚えさせる。
「ん~おいしい!」
「塩効いてる!」
「うまうま~」
「こらこら、味見なんだからそんなにパクパク食べない」
よほどおいしかったのか、味見用に取り分けた皿の上があっという間に空になってしまった。
程なくして完成したメニューを見て調理班の子たちの目がキラキラしていた。
きっと今までの焼肉オンリーではない食卓を見て感動しているに違いない。
オレも、久々のまともな食事に顔が綻んでしまう。
お昼ごはん導入を発表してさほど時間が経ってもいないにもかかわらず子どもたちが全員食堂に集まっていた。
今や食堂は大混雑。
さすがに手で食べさせるわけには行かないので、前々から作っていた食器類を出し、そこに取り分けてもらうことにした。
ラーナやルミ、メティ、エリーの最年長が指揮を執り、配膳を手伝ってくれたおかげで徐々に混雑が改善されていく。
「はい。食事を貰ったら空いている席について。各自よく噛んで食べるのよ」
ラーナの言葉を聴いて、おとなしくみんながそろうまで待っていてくれた子たちも食べ始める。
さすがにみんなそろうまで待っていたら冷めちゃうからね。
「押さないで、走らないで、食べ物持っている子がいるので走らないでください」
「危険」
「みなさん慌てなくても大丈夫ですわ。まだまだいっぱいあります、ってハヤト様の配膳にだけ集まらないのっ! ほら、シイさんやカナさんのところは空いていますわよ、って何故誰も移動しないのですの!?」
ルミ、メティ、エリーが混雑緩和に動いてくれるので、ぶつかったり、溢したりする子も出ることは無かった。
年少組の6歳以下の子達など、自分で持っていけない子は年長組みの子が持って行ってあげているようだ。
サンクチュアリの子はみんなで助け合って支えあっている。
年長組の子がやたらとオレの配膳する列に並びたがる気がするのだが、たぶんオレがよそうスピードが速いせいに違いない。
受け取る時やたらと手に触れてくるのが少し気になった。
△
大混雑のお昼を終え、遅れた昼食をとった。
今回の反省点、事前に計画を立てよう。
いや、まさか昼食だけであんな大混雑に発展するとは思わなかった。
今まで肉を大皿に盛って出すだけだったのが失敗した。
少しずつ矯正して食器と配膳に慣れないとまた同じ事を繰り返すだろう。
今日の夕食から少しずつ食器を使うことに慣れさせよう。
午後は農業に精を出す。いや、農業作りに精を出す、かな。
要塞内の設計図はすでに完成しているので、それに従い少しずつ畑を作っていく。
しかし【農業士】のレベルが全然上がらない。
これだけ職業を使えばそこそこレベルが上がるはずなのに、やはりオレの身体に蓄積していた経験値が消費されてしまった影響だろうか…。
どうも、今までは蓄積された経験値があったため、職業を使えばその職業に経験値が還元されていたみたいだと【大理術賢者・救導属】が教えてくれる。
次のスタンピードでは経験値を備蓄したいな。
今後は経験値とレベル、職業について検証していこう。
経験値の貯まる量と消費量を数値化出来れば、効率の良いレベリングと覚醒が出来るはずだ。
さて、レベルは上がらなくても畑は出来る。
城塞都市サンクチュアリの発展はだいぶ進んでいる。
円形に作られた直径十メートルを超える外壁に囲まれ、結界によって覆われた城塞都市サンクチュアリは外敵の心配も無く、最近の子どもたちは明るく笑顔が多くなった印象を受ける。
住宅が建ち並び、野外で過ごす子どもは一人もおらず、皆がどこかしらの住居に住んでいる。
住居登録なんてものは無いので、最近の子どもたちは好きな子たちとグループを組み、好きな住宅にその日の都合によって寝泊まりする住居を転々と変えているようだ。
量産型住居でどこも間取りは同じな上に家具も雑貨もほとんど無いからこそ出来る芸当だね。
最初聞いたときは、何それ? って驚いたものだ。
住宅街の中心地には、解体場、料理場、服飾場、鍛冶場、食堂、銭湯、ステージ、屋敷、城《建設中》、など様々な施設も作られ、町の職人街のような雰囲気も醸し出す町並みが出来てきた。
そしてそこ以外の余った土地、住宅街と外壁の間の部分は全て畑が作られている。自給自足が叶うかどうか微妙な広さだが、そこは今後外壁を崩して広げていこうと考えている。
そして一ヶ月の時が過ぎ、町が第一設計図通りに無事完成する。
それと共に、スタンピードの影が迫っていた。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




