第二十話 職業覚醒の共通点探し
今日は農作業日和だ。
フォルエン王国から帰還した日の午後。
オレはとある事情で屋敷に居づらくなってしまったため、設計図を確認しながら畑を作っていた。
今までステータスの底上げくらいしか役割がなかった【農業士】をフルに使用し、マンモースコップで地面を掘り返していく。
作業に勇者装備一式を着て汚してはいけないので予め作っておいた農作業用の作業着を着ておいた。
土は踏み固められて乾燥しすぎたカッチカチの状態だったので、まず解す作業から始める。
職業補正のおかげですぐ解されていく土に満足しながらテンポよく作業をしていく。
次に【農業士】第一のアーツ『大気凝縮』を使い、空気に魔力を混ぜながら地面に叩きつける。
原理はよくわからないが、囁きによるとこれをすることで植物が成長するための栄養素を注入できるらしい。
それを土を解したばかりの畑に注入していき、水を撒いて湿らせる。
囁きの頃合いを見計らって手に入れたばかりの小麦の種靱を植えていく。
最後に畑の形を整え、看板…の代わりに小麦をモチーフにした石像を置いて完成だ。
サンクチュアリの子たちは文字が分からないので目印に石像を使っている。子どもたちはこの石像を見て、この畑で小麦を作っていると分かるわけだ。
しかし、畑を作るなんて大仕事をものの二時間程度で終わらせてしまうなんて、本当職業というのはすごいなあ。
さて、一度作って勝手がわかったので畑を量産しよう。次は野菜だ。
と思ったところでオレを呼ぶ声に気が付いた。
見れば、いつの間にかたくさんの子たちが見学している。
オレは【洗濯技師】の『叩き落とし』で軽く服の汚れを落としてきれいにすると子どもたちの元へ向かった。
「ハヤト様、この畑はハヤト様が作ったの?」
「すごい~」
「何が育つの~?」
「入ってもいい~?」
「この畑は小麦が育つんだ。育ったらみんなで食べるんだよ。後で畑の管理の仕方を教えるから頑張ってみんなで育てようね。教える前に畑に入っちゃダメだよ?」
一斉に話しかけてきた子たちに畑のことを説明する。
何故かみんな手伝いたそうにうずうずしていたため、急ぎジョウロを作成した。
「さ、みんなで水を撒こうか」
「やる!」
「私も!」
水の入った大きな桶を用意し、ジョウロを何組か作って子どもたちに渡す。
最初はオレが付き添って、どのくらい水を撒くのか、どこに撒くのか、水を撒く基準などを教えていく。
子どもたちは重いジョウロを二人掛かりで頑張って持ち運んで、キャイキャイはしゃぎながら水を撒いていった。
みんな、大変な作業なのに楽しそうだ。
一通り水撒きが終わった頃、また唐突にそれは来た。
《ハヤトの【大理術賢者・救導属】が発動しました》
ログが流れたとたん数人の子がびくりとして、虚空に目を上げて動かなくなる。
これは、また職業に覚醒した子が出たようだ。
訊いてみると、今日手伝ってもらった子のうち8歳以上の子、三人が初級職【農業見習い】に覚醒したらしい。
ワイワイと騒ぐ覚醒した子に、祝いの言葉を贈った。
しかし、覚醒しなかった子が少し悲しそうだ。彼女たちは一緒に作業していたのにかかわらず職業覚醒者に成れなかった。それは悔しいし、悲しいだろうな。
だが、本当にオレの【大理術賢者・救導属】が発動する基準が分からない。覚醒した彼女たちと、覚醒しなかった彼女たちとの違いは何なんだ?
頭を悩ませていると、一人の子がこう言った。
「やっぱりハヤト様をいっぱい手伝うと職業覚醒者になれるのよ!」
たくさん手伝うと職業に覚醒する?
ハタと思いだす。そうだ、確かに今覚醒した三人はよく手伝いに来てくれる気立てのいい子たちだった。解体や調理作業に積極的に手伝ってくれたことを覚えている。
手伝いの質と量が関係している?
それともオレと一緒に居た時間?
職業覚醒した時、大体の場合オレが作業を教えている時だ。
その時、今までたくさん手伝ってくれた子が職業に覚醒する?
いや、確か【裁縫見習い】に覚醒した子の中にはそれほど手伝いに積極的ではなかった子もいたはずだ。
解体作業で腹を開くのは上手いけれど他がへたっぴという子で、解体作業時任される腹裂き係が嫌で、しばらく手伝いに参加していなかった。裁縫作業の時他の子に連れられて珍しく参加し、一度の参加で【裁縫見習い】を獲得していた。
ということは手伝いはあまり関係ないということになる。
しかし、何らかの関係性はあるはずだ。
覚醒した子たちに共通した、なんらかの…作業…?
――そうか。作業、解体作業だ。
ラーナを除くすべての子が魔物を解体する作業に多く参加している。
解体作業に何らかの、職業に覚醒するための秘密が隠されているに違いない。
なんとなく、確信があった。
翌日。
オレは畑作りを後回しにして子どもたちを連れ、解体場に向かった。
以前は結界だけ張った室内なのか室外なのか良く分からない場所であった解体場も、今はリフォームされ立派な建物の中に設えている。
隣には巨大な倉庫のような巨大冷凍庫を建造中で、今後解体した肉をここに保存しておこうと計画中だ。
今のところオレが冷凍庫の氷を手動で作らなければ成らないので、出来ればオレがいなくても自動で冷凍できる機能を拵えたい。
問題は動力を動かすエネルギーが無い点だ。
蒸気機関でも作ろうかと思ったけれど、それを動かすための燃料も無いので現在建設がストップしている。
もし魔物を家畜化出来たらランニングマシンに乗せて走らせて動力の替わりを勤めてもらおうかな。
解体場に入ると子どもたちにこれから解体を手伝って欲しい旨を伝える。
もちろん任意参加なので解体が怖い、出来ないという子は戻ってもらった。
彼女たちをぬか喜びさせるのも忍びないので、まだ職業に覚醒するための実験というのは黙っている。
「じゃあ、解体用のナイフを渡すね。危ないから言われたことをちゃんと守って、怪我の無いように作業しよう」
「「は~い」」
“ポンズキ”を初めとする小型の魔物を取り出して各一人ずつ渡し、一人ひとりに教えながら解体作業を行った。
初めての子もいるので初日は各自一匹のみ解体だ。
ナイフを持たせる都合上、参加させるのは7歳以上の子、幼い子は戻ってもらうか見学してもらった。初めての子はおっかなびっくりで中々作業が進まないので、彼女たちの後ろに回り手を取りながらやり方を実地で教えていく。
途中泣き出してしまう子もいたけれど、何とか半分以上の子が解体に成功した。
そして解体が終わった頃、オレの読みが正しければそろそろ来ると思うのだが…。
《ハヤトの【大理術賢者・救導属】が発動しました》
やっぱりきたな。
作品を読んで「面白かった」「がんばれ」「楽しめた」と思われましたら、ブックマークと↓の星をタップして応援よろしくお願いします!
作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




