第十九話 男の肩身が狭いこともある
宰相はオレのお土産を大層気に入ったようで、それはもう大事そうに抱えて帰っていった。
あの様子なら次合った時何かしらの取引に応じてくれるだろう。
子どもたちの荷物もちゃんと返却してくれるとも約束してくれた。
本日持ってきた長剣は三本。残り二本をそれぞれラゴウ元帥とイガス将軍へ渡す。
「ほう。見事」
「ほほ、シャタール陽王国随一の鍛治師だったガンジル氏の作品を思い起こさせますな。すばらしい剣じゃ。本当に貰ってしまっても良いのかのう、国宝並みじゃぞ?」
「かまわない」
二人も長剣ワイバードを気に入ってくれたようだ。
ラゴウ元帥が持つ身の丈もある大剣と比べるとだいぶ小さいのでメイン武器としては使えないだろうが、イガス将軍は腰に吊るしてある長剣とほぼ同じ大きさだ。きっと役立ててくれるだろう。
しかしまさか国宝並みと言われるとは思わなかった。
確かシャタール陽王国というのはシハ王国の北にあった三番目の国で、約20年前スタンピードによって滅びた国だ。オレが初めて訪れた国でもある。
滅んだ国の随一の鍛治師と遜色ない出来なら国宝と言われても仕方ない。
「宰相が迷惑をかけたな」
「すまんのうハヤト殿、宰相はどこから嗅ぎつけたのか会談に無理矢理割って入ってきたのじゃ」
落ち着いたところで御二人から謝罪を受けた。
彼らも宰相がこの会談に参加することは反対だったようだ。
しかし、オレに渡す謝礼品や依頼をするために本国に物資の補給を申請したところ、許可するが代わりにオレに会わせろと宰相が捻じ込んできて、断りきれなかったらしい。
「まあ、あの宰相はアレでやり手じゃ。この長剣ワイバードを手にする機会、逃しはせんじゃろう」
オレが宰相に土産を上げた理由を正確に理解しているイガス将軍がそう付け加えた。
「では、そろそろ暇する」
「そうか。――イガス将軍、送れ」
「はっ。行ってまいろう。――ではハヤト殿今日の分の品だけでもお持ち帰りしますかな?」
「ああ。頼むとしよう」
頃合を見計らって退出し、サイデン補給隊長の下に向かう。
例の貴賓室に入ると、先日と同じように物資が脇においてあった。先日に比べると微々たる量だが、今回用意してもらったのはこれからのサンクチュアリの発展に必要なものなので早めに用意してもらった。
「こちらは近くの農場からいただいた小麦の種靭です。こちらは染物に使う塗料ですね――」
サイデン補給隊長が一つ一つ丁寧に物資の詰まった箱を開けて説明してくれる。
そう、今回用意してもらったメインは小麦の種靭だ。
ラーナが【王】を使えるようになったため、結界内なら魔物に食べられず作物が育てられるようになる。今までほこりを被っていた【農業士】がやっと役に立つときが来た。
「確かに受け取った」
物資を『空間収納理術』へ収納して、用意してくれたサイデン補給隊長に礼をいい、帰ろうかと思ったところで『長距離探知』に引っかかる魔物がいた、しかもわりと近くに。
「あれは…?」
貴賓室の窓の外、フォルエンの大壁の内側に魔物がいた。しかもかなり大きい。トリケラトプスみたいな形で象を超える大きさの恐竜のような魔物だ。
何で大壁の内側に魔物がいるんだ?
『長距離探知』は魔物レーダーみたいなものなので大壁の内側か外側かは見分けが付かない。なので今まで気がつかなかったみたいだ。
「ん? ほほ、あれは“バロン”ですじゃ。おとなしい上に馬の数十倍の馬力を持つため重い荷を運搬する作業に重宝しての」
「魔物を家畜化しているのか」
「はい。“バロン”を初め、数種類の魔物の家畜化に成功し、ああやって荷運びなどの重労働に使っているのです。魔物は動物より相当力持ちですから」
魔物にはレベルがあるので動物よりステータスは高い。
馬を視てもレベルは無かったからそういうことなんだと思う。
「とは言っても繁殖はさせられませんし【魔物使い】系統の職業を持つものにしか家畜化は出来ませんからまだまだ数は少ないのですが」
「【魔物使い】か…」
サイデン補給隊長の説明に耳を傾けながら、サンクチュアリでの魔物家畜化計画を想像する。重労働が出来るのは助かる、サンクチュアリには子どもしか居ないから、どうしてもオレ一人では支えきれない時は来る。その時のため家畜化計画を進めるのは良いかもしれない。
「為になる話を聞かせて貰った」
「手が空いている時ならもう少し詳しく説明できるのですが」
「今度改めて聞こう。楽しみにしている」
サイデン補給隊長は説明好きのようだ。しかし、先日のスタンピードの後処理がまだ残っているとのことで残念そうにしていた。
そんなサイデン補給隊長に礼を言い今度聞かせて貰う約束を取り付ける。
その後、イガス将軍に見送られながらフォルエン要塞から帰還した。
△
サンクチュアリの外壁を飛び越えて中に入る。
目ざとくそれを見つけた子どもたちに挨拶しながら自分の屋敷に帰った。
昨日の今日なのでラーナがとても心配だ。ルミに任せきりにしてこのまま仕事をするというのもどうかと思うので、午後の時間はラーナと過ごそうと思う。
新婚だしね。
ラーナの部屋の前に立ち止まりノックをしようとしたところで手が止まった。
部屋の中にある反応が一つや二つどころでは無く、ちょっと数え切れないくらいの子たちが居るようだ。
「―――そしてハヤト様が、なるべく優しくしますから、と言ってくれて……」
「そ、それで、ハヤト様は、ハヤト様は何をされたのですか!?」
「ごくり」
「これは、本当に聞いてしまっても良いものなのでしょうか…」
「退出?」
「い、いえ! せっかくラーナ様が話されているのですから、き、聞かせて頂きますわ!」
中から聞こえる話し声に一瞬で固まった。
状況を素早く把握。どうやらラーナが昨日の話をみんなに聞かせてあげているらしい。
どうしよう……。とんでもない状況に出くわしてしまった。しかもわりと盛り上がっているようだ。
このまま中に入ったらすっごく気まずいと思われる。
でもこのままラーナの話が進行するのは少しまずい気がする。
中に入るか、立ち去るか……。
「―――そのままゆっくり、優しい手つきでベッドに押し倒してくれて―――」
オレはくるりと反転。
わっ、と部屋の中から歓声が響く中、そっと足音を立てないようその場から離れた。
女所帯が九割九分九厘を誇るサンクチュアリでは男の肩身が狭いこともあるとオレはこの時初めて知ったのだった。
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