第十六話 『結婚式』
婚約して二日後、結婚式は盛大に行われた。
フォルエン王国から貰った食材が多くあったので前日オレが大量に調理して『空間収納理術』に収納しておき、当日はそれを出して立食形式にして振る舞った。
誰も結婚式なんて知らなかったので子どもたちは単にお祭り感覚だ。
年長組の子がラーナを羨望の眼差しで見つめていたのが印象的だった。
実はあの後ラーナに聞いたのだが、オレを狙う子は多かったらしい。
狙うと言っても結婚的な意味では無く、生々しく言えば身体の関係とのこと。
この世界では結婚制度は廃れて久しい。なので子を残す為に身体の関係のみというのは当たり前の常識のようだ。
シハ王国もスタンピードの被害が拡大してから男が少なくなり結婚自体が難しくなった。6年前に大きなスタンピードの被害に遭い成人男性が激減。次代の子が残せなくなっていった。孤児に2歳児以下が居ないのはそういった事情もあったようだ。
オレを狙っていたのは8歳以上の年長組ほぼ全員、とはいえまだ子どもが作れる身体に成っていないのと、ラーナの睨みによってその企みが実行されることは無かったらしい。
びっくりした。
まさかそんなことになっていようとは。
しかし、オレがラーナと結婚したことで、もう襲われることはありませんよとラーナが言っていた。
オレは王家の配偶者となるし、もし平民が襲えば死罪は免れないと孤児にも分かっているらしい。いや、突っ込みどころが多いな。オレ、子どもたちに襲われそうだったの?
まあ、今は問題ないらしいのでこのことは彼方に葬り忘れよう。
今は仲良く肉以外の食材を使った料理に舌鼓を打って貰う。
宴もたけなわと成って頃良い時、夜なべして作ったステージに上がる。
これは礼拝堂をイメージして作られたオープンステージだ。郷が乗って鐘楼なんてシャレな物まで作ってしまった。
ここでオレとラーナが誓いの言葉を言い、世界に結婚を認めて貰う。
それっぽい白の石盤に誓いの言葉が書いてあり、これを二人で読み上げるのだ。
新郎であるオレは先に壇上に上がり新婦を待つ。
やがて子どもたちの歓声が聞こえてきた。
「ほわわ!」
「きれー」
「すごい素敵だわ」
「ラーナ様――!」
最高のウエディングドレスを着たラーナはこれまでの人生で見た誰よりも美しいと感じた。
子どもたちが夢中で見て、手を振り、歓声を上げる中、ルミに案内される形でオレの前にやってくる。
「ハヤト様。お待たせいたしました…。どうでしょう、似合いますか?」
「もちろんです。思わず見とれて声も出ませんでした」
「ふふ、嬉しいです」
「……ラーナ、すごく美しいです。純白のウエディングドレスとてもよく似合っています。ベールに包まれたその輝く宝石のような金髪も白バラの髪飾りでより一層魅力的です。透き通った青い瞳に今にも吸い込まれそうです」
「もう。……嬉しいです。ハヤト様も良くお似合いですよ」
オレの今の姿は白のタキシードだ。少しキザっぽい感じになってしまったがラーナにとても好評だった。
二人して照れ合う。なんかこそばゆい感じだ。
「お二方様、みんなも楽しみに待っています。そろそろ誓いの言葉を贈りましょう?」
いつまでも見つめ合いそうな雰囲気のオレたちにルミが進める。
「ああ、そうだね。――ラーナ御手を取っても?」
「はい。お願いいたします」
差し出した掌の上にラーナの手が置かれ、そのまま白の石盤までエスコートする。
白の石盤を挟んで反対側にはルミ。
神父はいないので【補佐見習い】を持つルミに神父役を頼んだのだ。ほんと、職業というのは万能だ。
「新郎ハヤト様、新婦ライナスリィル様。あなた方は夫婦として、今後悲しいときも、厳しいときも、嬉しい時も、楽しいときも、共に分かち合い支え合い、愛し合うことを世界神樹ユグドラシル様へ誓いますか?」
ルミは緊張でガチガチになりながら、職業の補正を借りて何とか言い切った。
「世界神樹ユグドラシル様へ誓います。今後何があろうとも、スタンピードが何度押し寄せようともラーナを守り抜いてみせる」
「世界神樹ユグドラシル様へ誓います。例えどんな苦難が来ようとも、ハヤト様と一緒ならきっと乗り越えられると信じています」
ラーナと共に共に歩んでいくことを誓い合う。
誓いの言葉は、この世界を構成し支えていると言われている世界神樹ユグドラシル様へ奉納することで世界に結婚したと認められる。
《特殊条件を満たしたため特別職業【王太守】を獲得しました》
ログが流れると同時にラーナがピクンと反応した。おそらくラーナの方でも誓いが受理され何らかの能力が開放されたのだろう。
無事、ここにオレとラーナが結婚したことが世界に認められた。
また二人で見詰め合う。
頬を染め、どこかポーっとしたラーナの肩に手を乗せる。
「では、誓いの口付けを――」
ルミが促し、ラーナが目を閉じる。
子どもたちの注目度がすさまじく上がった気がした。なんとなく緊張感が漂い、足が震えそうになる。
ぐっと力を籠めて振り払う。ここで気後れするわけにはいかない。
ゆっくり近づいていく、ラーナの顔が大きくなるに連れて心臓の音が大きく響いた。
本当に、ラーナは美しい。
そして唇同士が触れた。
とたん子どもたちから爆発したような歓声が上がった。
「わー!」
「素敵―!」
「おめでとうー!」
「か、感動しましたわ…、はうぅ…」
「わ、エリー倒れた」
「大変! 大変!」
子どもたちの歓声に混じって何人か感動で気を失った子が出たようだ。
助けに行ってあげたいけど、新郎が抜けるわけにはいかない。
まあ興奮しすぎただけみたいなので後でもいいだろうたぶん。
鐘楼がカラーンカラーンと鳴り、オレたちは少しテレ合いながら子どもたちから祝福を貰った。
その後、新郎新婦が手をつないで城塞都市サンクチュアリの中を歩き、ここに住む全員に結婚したことをアピールする。この世界の王族の一般的な結婚パレードに習った形だ。
とは言っても子どもたち全員参列してくれたので特に意味は無い。
子どもたちもワイワイと後に着いてきたので大行進みたいになってしまったのはご愛嬌。
それも終わり閉会の言葉を継げて、結婚式という一大イベントは幕を閉じた。
そしてこの後は次の一大イベントが待っている。
「その、緊張しますね」
「は、はい。私も初めてなもので。粗相が無いか心配です」
夜、ラーナの部屋で寝る。
いつものことだが今日ばかりは勝手が違う。
この世界にも初夜はあるのだ。
現在ウエディングドレスのラーナと共にベッドの上で見つめ合っているが…。
ラーナの身体は、正直言って幼く、壊れてしまわないか心配になる。しかし――。
「大丈夫です【王】や【貴族】を持つ女性はとても安産体質になりますから」
ここでも職業補正は働くようで、子どもが生めるようになればどんなに母体が小さくても流産などの心配は無いらしい。母子共々元気でとても安産なのだとラーナが力説していた。もう少し成長を待ってというオレの意見は却下されてしまった。
「待ちません! スタンピードの脅威はいつ襲ってくるか分かりません、子孫を多く残すのは王家の義務なのです!」
などと言って何とかオレをやる気にさせようとする。
「それとも、私には魅力が足りませんか?」
「そ、そんなこと、ないですよ」
正直ラーナが魅力的すぎて心臓がおかしくなりそうです。
ここまで言わせてしまっては仕方ない。ラーナが魅力でいっぱいだと証明するため、オレも覚悟を決めよう。
「ふう。――辛かったら、言ってください。なるべくやさしくしますから」
「はい。大丈夫ですよ。私は今、幸せでいっぱいですから」
本当に幸せそうな笑顔を浮かべる彼女をゆっくりとベッドに押し倒した。
賛否両論ありそうですが、ゴールインだけは入れたかった!
楽しんでいただけていたら幸いです。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




