第十三話 男軍女農
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「一つ聞きたい。孤児集団を見捨てたのは何故だ? オレが見つけなければ魔物に食われていたぞ」
オレは身に宿る『稲妻の化身』の威力を高め、嘘偽りは許さないという気迫を出してイガス将軍とサイデン補給隊長に問う。
「ふむ。ハヤト殿のお怒りは最もだ。しかし、我等も出来ぬことがある」
「シハ王国の避難民は十万人。それほどの人口が一気に増えたのだ。孤児を受け入れる余裕はわが国には無かったのです」
それはラーナが予想した内容とほぼ同じだった。イガス将軍は堂々としていたが、サイデン補給隊長は苦々しい表情だ。
「さらに国民の反対も多かったのです」
しかし続くサイデン補給隊長の言葉に耳を疑った。
「わが国は男軍女農。つまり男はすべて軍属で女が食料の生産を担っているのです。労働力という点では足りているのですが、その性質上女性の人口割合が非常に多く、未婚どころか出会いさえ無い者も多いのです。それ故に孤児に渡す男はいないと反対意見も多く、彼女たちを無理に受け入れたとしても、受け入れてくれる場所が確保できませんでした」
聞けば、フォルエン王国は随分昔から男軍女農制度を行っており、男子は幼いころに国がもらい受け兵士として教育、成人後に生産した食料と共に前線に送られていたのだという。
スタンピードとの戦いで戻ってくる兵士は少ない。国が滅亡する規模のスタンピードだと誰も帰ってこないこともあったほどだ。
それ故にフォルエン王国では成人男性一人に対し成人女性十人という対比率を持つらしい。
しかも、男性はスタンピード警戒のため大半が要塞や前線に詰めているため、女性の男性獲得競争は苛烈を極めているという。
国法で軍務が休みの男性は女性と共に生活せよと定められているほどだ。当然のように結婚制度は平民には無いらしい。
まさかそんな理由で見捨てたのかと、黒い気持ちが湧き上がりそうになる。
しかし、この国の女性も必死なのだとサイデン補給隊長は訴えた。
「国民の気持ちを無視して無理に受け入れたとしても、孤児たちは誰一人としてまともに生きられなかったでしょう」
人が一丸とならなければスタンピードに対抗できない大事なときに不和を巻き起こす存在を受け入れることは難しかったのだという。
この世界が地球とは違うのだと改めて実感させられた。
国のメンツとか、体面とかよりも災害の対処を優先する。
たとえ少なくない犠牲が出ようとも。
これがラゴウ元帥のあの鬼気迫る覚悟の正体なのだろう。
気持ちを落ち着かせて『稲妻の化身』の威力を抑える。
「すまないな。話しにくいことを語らせてしまった」
「いいえ。ハヤト殿には知っておいて欲しいことでした」
心苦しそうにサイデン補給隊長が頭を下げた。
イガス将軍は何も語らず目を瞑って沈黙を保っている。
重苦しい空気を払拭するためオレは話を終わらせることにした。
「さて、用も済んだためオレは帰ろう。これらの品、確かに受け取った」
「ほほ、老骨にこの気迫はこたえるわい。では品を馬車に詰め込むかの」
「補給兵は手を離せん。どこか別の部隊から人手を借りよう」
「それには及ばない」
品を運ぶための手配を制止してオレは『空間収納理術』を発動した。
魔方陣が品の上に展開され、そのまま下がって品を飲み込んでいく。
「こ、これは……」
「オレの力の一つだ。他言無用だぞ?」
「う、うむ」
消えた山積みの品々を見て目を見張る二人に軽く口止めする。
条約はあるが、例え広まっても今のオレにはどうとでもなるので『空間収納理術』を見せるくらい問題ない。
また、彼らが理術について何か知っているのか揺さぶる狙いもあった。反応からして彼らは理術について疎いみたいだが。
理術は超越者の向こう側にある術だ。王族のラーナも知らない理術、フォルエン王国には何か情報があるかと思ったが、将軍と補給隊長という古参の二人でも知らないとなると後はフォルエン王家の血筋くらいしか可能性はないだろう。
それでも情報があるかは不明だ。理術に対する理解を深めるにはやはり自分で切磋琢磨するしかないのかもしれない。
広い貴賓室の大部分を占めていた品々を『空間収納理術』に入れ終わると、イガス将軍の案内で要塞の外に出る。
気が付けば日はだいぶ傾きオレンジ色の空が見え始めている。
急いで帰ろう。
「では、また三日後」
「うむ。準備して待っとりますよ」
イガス用軍がフォルエン軍式の礼を取り見送るなか、『瞬動走術』を発動しオレはフォルエン要塞を後にした。
△
日が沈む前に戻ってくることが出来た。
すばやく身だしなみを整え『稲妻の化身』を解除して壁を乗り越える。
「あ、ハヤト様~。お帰り~」
「ただいまシノン。ラーナはどこかな?」
「ラーナ様は調理場じゃないかなぁ~」
着地したところにシノンがいたのでラーナの居場所を聞いて調理場へ行く。
シノンは裁縫班なので調理の手伝いは免除のようだ。しかし、なぜか後ろに着いてくる。
「着いてきても面白くは無いぞ?」
「別にいいんだよ~私はハヤト様と一緒に居たいだけだから~」
そう言って手にしがみついてくるシノン。
まあ、いいか。離すのも可愛そうなので好きにさせる。
しかしシノンが一人でいるなんて珍しい、いつもチカと一緒に居るのに。
チカも調理免除のはずだけどどこ言ったんだろう。
そんなことを考えているうちに建築して豪華になった見た目の調理場に入っていく。
「ただいま。ラーナはいらっしゃるかな」
「あ、ハヤト様! おかえりなさ…い……」
周りに指示を出していたラーナが喜色満面な笑顔で振り向いて、徐々に語尾が小さくなっていった。その視線はシノンが抱きついている腕に向けられている。
「もうシノン! 何していますか、離れなさい!」
「いいじゃない~、まだ反対の手が空いているよ~」
「そ、そういうことではありません! 公衆の場で殿方に抱きつくのはいけないことです!」
「え~、でもラーナ様もたまに抱きついているでしょ~」
「な! いえ、ま、まさか、そんなことは…」
激しく動揺するラーナ、珍しく10歳児に論破されている。
うん。そういえばラーナとはわりと抱き合うことが多い、子どもたちに見られたりもするし、時には子どもたちと一緒に抱きついて来た事もある。抱きついちゃダメとか今更だ。
最近のラーナは情緒不安定になると感情で動いてしまう事がある。今朝はスタンピードに攻められたばかりだからまだ不安定なんだろう。
「ラーナ落ち着いてください。ほらシノンも離れる」
「うっ、失礼いたしました…」
「はーい。じゃ、また後でねハヤト様ラーナ様~」
うな垂れてラーナが謝罪を口にして、それを気にした風も無く笑顔で調理場からシノンが去っていった。
「こほん。改めて、お帰りなさいませハヤト様」
「ただいま戻りました」
さっきの失態を無かったかのように満面の笑顔を向けてくるラーナに笑顔を返す。
少し頬を赤らめているのが可愛らしい。
「報告があるので夕食後時間を取ってもらっても良いですか?」
「もちろんですわ。その様子ではうまくいったのですね?」
「ええ。とりあえずは、ですが。それも後でお伝えします」
「はい」
その後屋敷に帰り風呂に入って夕食をいただいた。
明日の朝はフォルエン軍からもらった果物を出すつもりだ。俺一人だけ楽しむのは悪いので今日は我慢する。明日が楽しみだ、きっとみんな喜んでくれるだろう。
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