第五話 異世界で飛ぶのは鳥だけとは限らない
ブクマありがとうございます!
今日も頑張っていきますよ!
初ブクマで嬉しかったのでちょっと長め。
本日一話目 二十分後くらいに次話投稿します。
「地面で直寝するものじゃないな」
簡易拠点から出たオレは朝日を浴びながらそう思った。
割と冷えるし、体はガッチガチに硬くなっていたので、今は体をほぐしているのだ。
体が暖まったところで『水生成』で顔を洗って水分補給し、簡単に髪を整えてから走り出す。
今日は何とか人里にたどり着きたいと思っているのだ。
じっと留まっている暇は無い。
しかし、昼ごろまで走ってみたが人里どころか建物一つ見つけることは出来なかった。
さすがに腹が減った。
こんなに走っているのに草木一本生えていないのである。
明らかにおかしい。普通植物がこんなに見つからないなんてあるはず無いんだが。
せめて木の実でもいいから欲しい。
しかしこの世界は無情だ。本当に何も無い。このままではモンスターを食うことになりそうだ。
そんなことを考えながら空を見上げると一羽の大きな鳥が羽ばたいていた。
「鳥なら、食べられるかな…」
―――後に後悔したのだが、多分この時のオレはどうかしてたんだと思う。
わけの分からない世界に突然連れていかれて、食料も無く腹がペコペコで、さらになんか職業という余計な力を持ってしまったがために、自棄…というか暴走していたのだろう。
少し前にモンスターに挑んだら命が危ないとちゃんと考えていたはずなのに。
「落ちてこい鳥ッ!」
なるべく大きな石ころを拾って『投石』を使用しつつ思いっきり鳥に投げつけた。
その石は職業補正を得て高速で正確に飛び、狙った通り見事に目標に直撃して、そしてガンッという金属に当たったような音を響かせながら弾かれた。
「え?」
何かの見間違えかと思った。
だってそうだろう、鳥は…いや、鳥と思っていた奴は、こっちを見た奴の顔は、ゲームなんかに登場するドラゴンのような見た目をしていたのだから。
ここは地球じゃない。空を飛ぶ者が鳥だけとは限らない。
オレがこの世界に迷い込んで二日目、とても大事なことを学んだ。
――GGGYYYAAAAAAAAAAAAAA——!!!!
「!!?」
ドラゴンのような生物が大きく咆哮する。
一瞬で全身に寒気が走った。
完全に敵意を持った視線が全身を貫き、足がすくんで震えだす。
ヤバい。あんなのに攻撃されたらひとたまりもない!
どうすれば許して、いや先に襲い掛かったのはオレだ、許してもらえるわけがない。
目をドラゴンから離せないままどうすればいいのかを考える。
倒す? いや『投石』が弾かれたんだ、ゲームで言えば超高レベルなのは間違いない。
オレはたくさんの職業は持っているがどれも低レベルの役立たず。
倒せる確率は万に一つあるかわからない。なら逃げるしかない!
だが、思っていることとは裏腹に、震える足はまるで地面に飲み込まれたかのように動かなかった。
ドラゴンは瞬く間に急降下し、ついで低空を滑空しながら高速で突っ込んできた。
まるで高速で大型トラックが突っ込んできたような迫力だった。そのアギトで食われなくてもぶつかっただけで木っ端のごとく跳ね飛ばされオレの命は散るだろうと一瞬で理解できる。
たとえ足が動いたとしても避けられる自信は無かった。
「『バリア』!」
オレは咄嗟の機転で『バリア』の魔法を発動することに成功した。
一瞬でオレとドラゴンの間に浮かぶ半透明の障壁。オレを守ってくれる可能性のある最後の手段。
だが、そんなオレの期待は文字通り一瞬で砕け散った。
「ガッハッ!!?」
衝撃で吹き飛んだのだと理解したのは十数メートルを転がってようやく止まった時だった。
全身に焼けるような感覚が廻った、それが痛みだと理解する前に『回復』を発動する。
遅れてくる痛みに呻いている暇もなくオレはドラゴンを探した。
だが探す意味はあまりなかったようだ。
何しろ、すぐオレの前で今まさに齧りつこうとするドラゴンがいたのだから。
「!!? 『バリア』!!」
寸前で『バリア』が間に合いバンッと固い物同士がぶつかり合う音が響く。
先ほどの突進には屈したが、今回は砕けずドラゴンのアギトを防いでくれた。
ドラゴンはうっとおしそうに吠え、次いで爪で『バリア』を切り裂いた。
圧倒的な威力、バリアが紙のように簡単に裂かれるのを横目に、オレは【走者】のアーツ『ダッシュ』で駆けた。
体の痛みにかまっている暇なんて無かった。
あの場に留まり続ければ間違いなく食われる。
あまりの衝撃でいつの間にか足は動くようになっていたのが助かった。
あいつは地面に降りたため速度は著しく落ちるだろう。近くに岩場が見えた、あそこに隠れれば逃げきれる可能性はある。
嫌な予感がした。オレは必死に足を動かしながら後ろを振り向くと、大口を開けているドラゴンが見えた、その口内は橙色に光っている。
「『バリア』!!」
咄嗟に『バリア』を張るのとドラゴンがブレスを放ってきたのはほぼ同時だった。
『バリア』はブレスに焼かれてすぐ消えてしまったが、ブレスの威力を減退させ、オレに届くのを防いでくれた。
よし、いいぞ! その間にさらに距離を稼ぐ、岩場まで1分もかからない。ドラゴンとの距離はだいぶ開いている。もう一度ブレスが来てもバリアで防げる。岩場に付いたら【隠密】と【斥候】ジョブのアーツを駆使すれば隠れ潜めることができるだろう。
ドラゴンが空を飛び追いかけて来た。
その時にはオレは岩場に到着していた。
手ごろな岩と岩の間に入り【土魔法士】の『土生成』と【土木技師】の『形成』を使って素早く屋根を作り、上から見えないようにして、ついでに『結界』も張り、【隠密】の『気配稀薄』を使って見つからないよう息を潜める。
すぐ近くでドラゴンの叫び声が聞こえた。
おそらくオレを見失ったのだ。見つかっていたらすぐに突っ込んできてグチャグチャにされているだろう。
このまま諦めてくれればいいのだが。
ドラゴンはオレが思っていたよりも執念深かったらしい。
周囲をブレスで焼き始めたのだ。
いや、あれはブレスというよりも巨大な火炎放射に近かった。
どうやら隠れたオレを燻り出すつもりらしい。く、ドラゴンは頭がいいと言われるが本当だったな。
ついにこっちにも火炎放射が来た。
『結界』を張って火炎放射を防ぐが、火は『結界』を飲み込んで燃やしつくそうとする。
咄嗟に火に魔力を送った。水を操った時のことを思い出しながら火を越させないよう掌握しようとする。
《職業【火魔法士】を獲得しました》
火の掌握に成功し、なんとか火炎放射を抑えることができた。
しかし、ドラゴンの視線は完全にオレに向いていた。
逃げられない。
ならば、戦うしかない。
ステータス欄にある職業を見る。
攻撃に向きそうなのは【投擲士】しか無い。【魔法士】系はまだ『生成』系しか使えず攻撃には使えない。【結界魔法士】の『結界』は接近戦になればすぐに壊れてしまう。
石を思いっきり投げたとしても奴の身体に弾かれ、飛んでいたとしても墜落させることはできない。
唯一倒せそうな可能性のある【崖崩士】は崖が近くに無い。オレの隠れていた岩はこの辺でも一番大きいが直径5mほどで、崩してもドラゴンを生き埋めには出来そうもない。せいぜい脚が埋まるくらいだろう。
当たり前だが武器も無い。職業だって戦闘用の物がほとんどない。MPも残り少ない、『結界』もあと三回しか使えないだろう。
他に、他に使えそうなものは無いのか。
必死に目を凝らしてステータス欄を見る。
こんなよくわからない世界で死ぬなんて、絶対に認められない。
何か、本当に手は無いのか。瞬きする暇すら惜しいとステータスを見続け、そして気が付いた。
そうか。オレはずいぶんと勘違いをしていたらしい。
ステータス欄のとある部分を見て、いかに自分がゲームのシステムという固定概念に囚われていたのだとようやく思い知った。
どうやらオレは、職業というものの真価を見誤っていたらしい。
活路が…、見つかったかもしれない。
前を見ればドラゴンがすぐ側まで迫ってきていた。
迫りくるアギトを見て、オレは賭けに出る。
「『結界』!」
オレは知っている。アギトは『結界』で防げることを。
アギトが『結界』に弾かれ、ドラゴンの勢いが一瞬止まる。
オレはその間にアーツを発動。オレが隠れていた岩の片方を崩す。
「『崩壊』!」
【崖崩士】のアーツ『崩壊』。ほんの少し殴っただけで岩にすさまじい速度で岩に亀裂が入り、そして一気に崩れだした。
その時ドラゴンは邪魔な『結界』を爪で切り裂いたところだった。
視線を上に向け、崩れる岩に目を見開いたように見えた。爪を振りぬいた前のめりの巨体を慌てて後ろへ下がろうとする。だが。
君はそこに居ろ。
「『結界』」
オレは知っている。オレの『結界』は爪で切り裂かないと消えないことを。
下がろうとした後ろに『結界』を張り奴を逃がさない。
後ろに下がれず崩落に巻き込まれるドラゴンが咆哮する。
だが岩があまり大きくなかったため、やはりドラゴンの脚を覆いつくすくらいしかできなかった。しかし翼の一つが巻き込まれ思うように身動きが取れずにいる。
それを見逃さず最後の『結界』をその翼の上に出した。破壊されない限り不動の『結界』は奴が崩落から脱出するのを妨害する。
そしてオレは最後の仕上げに掛かった。
奴が初めて警戒するように唸り声を上げ、オレを睨みつける。
オレは今、崩落させた方の隣の岩、その頂上にいた。その手に直径2mの巨石を持って。
「これで詰みだドラゴン」
そう宣言して、オレはドラゴンの真上に巨石を投げ落としたのだった。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




