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終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第二章 王国の産声

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第八話 フォルエン王国想定外の動き



「スタンピードが進攻してきている?」


 フォルエン王国にスタンピードが激突した次の日、オレは昨日に引き続き偵察に出向こうとしたところ『長距離探知』にスタンピードと思われる反応があった。


 妙なことにフォルエン王国方面から城塞都市サンクチュアリの方向に向かって二万五千が進攻してきているようだ。


 昨日スルーしてフォルエン王国に向かったのにおかしなことだ。

 原因はおそらく、スタンピードの前を走る三つの騎兵。これがなんらかの能力を使い、魔物を誘導している可能性が高い。


 朝食も取らずに外壁に上って目視で確認すると、やはり魔物たちは前を走る騎兵を追いかけている印象を受けた。

 一騎はすでに外壁付近に到達しており、他の二騎がスタンピードに近づ離れずの距離で誘導しながら向かってきている。

 騎兵が装備している兵装は昨日見たフォルエン軍の物に酷似していた。

 これだけわかれば十分だ。


 ――やってくれたね。


 ――『フォルエン王国とは何の縁もないので助けなかったことに文句を言われる筋合いもないしね』先日オレはそう考えていたけれど、それはフォルエン側から見ても同じく何の縁も無いという事。

 それはつまりスタンピードを押し付けたところで国や法的には何の問題もない事を意味する。


 フォルエン王国は昨日のスタンピードで大打撃を受けていたけれど、まさかMPK(こんなこと)を仕出かすとは思わなかった。


 子どもたちを見捨てたりと前から印象は悪かったけれど、今回は最悪だ。

 フォルエン王国とは相手の出方次第で良好な関係も築けるかもしれないと考えていたけれど、こういう出方をされたらこちらにも考えがある。


 まずは戦闘を走る騎兵の元に『瞬動走術』で近づく。


「ム! 何者だ―――グペッ」


《職業【フォルエン国語翻訳者】を獲得しました》

《職業【暗殺者】を獲得しました》

《職業【捕獲者】を獲得しました》


 暗殺なんて失礼な。誰も殺していないよ。

 首にトンと手刀を打ち込み意識を刈り取って捕縛する。

 少しイラっとしていたためか、力加減をミスって骨を砕いてしまった者もいたけれど、元【聖理術師】の『瞬間骨癒』で元通り、だから死んではいないよ。


 一度外壁まで戻って彼らを小結界を作って閉じ込めておき、スタンピード二万五千に向き合った。


 二万五千でも非常に多い。荒野を埋め尽くさんとする大行進だ。

 しかし、ワイバーンや五十万の大行進と比べたらたいした事は……いや、やっぱり多いな。


「『大英雄の滅竜覇道』『大賢者の理術極意』―――『嵐風(ザ・)竜巻(ゲイル)』『大地(ザ・グ)掌握(ランデ)』『火炎(ザ・フ)暴走(レイム)大水支配(ジ・アクア)!」


 今は完全装備をしていないので魔法系で打ち倒す。

 挑発系で逃がさないように敵意を集めて、巨大竜巻、地盤崩壊、火炎と大水の津波がスタンピードを飲み込んだ。

 ワイバーンの時みたいに空も飛んでいない魔物は非常にやりやすく、次々ログが流れていく。


 途中で素材確保を優先する戦術にシフトする余裕まであった。


 自分がどんどんパワーアップしていて心配だ。確実に人間やめてきている。


 結局誰も城塞都市サンクチュアリの外壁にたどり着けないまま、わずか一時間足らずで討滅が完了してしまった。


 『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』に素材を入れる作業のほうが時間がかかったほどだよ。


《規定量の経験値が蓄積されました【古閃大英雄・■竜属】は【古閃大英雄・滅竜属】に変化しました》

《【古閃大英雄・滅竜属】に変化したことで封印されていた能力の一部が開放されます》


 虫食いのように見えなくなっていた文字が開放? されたようだ。


 ……どうやら、また。人外に一歩近づいてしまったらしい。


 ま、今更だけどね。




 △




 新しく得た能力のほうも気になるけれど、まずは優先すべきことがある。


 すでに起きている大罪人を無視して一度サンクチュアリの中に入ると、近くにいたラーナとルミが気がついて走りよってきた。


「ハヤト様ご無事でしょうか!?」

「怪我はないですか!?」

「大丈夫です。怪我一つ無いですよ」


 両手を広げてどこも異常がない事をアピールする。

 ラーナにはスタンピードがやってくることを出かけ際に伝えてあった。

 ルミにもこんなときだからこそラーナのそばにいて支えてあげてと言って共に行動させていた。


「ラーナ、ルミ、ただいま戻りました。そちらは大丈夫でしたか?」

「怪我がなくてよかったです。こちらは異常ありませんでした。ラーナ様がハヤト様をずっと心配してオロオロしていたくらいです」

「ちょ! ルミなんでそんなこと言いますの!?」


 それはね、実はオレがラーナの様子を教えて欲しいと頼んでいたためである。

 ラーナがオレの様子を知りたいと思うように、オレもラーナの事を知りたかったのだ。

 オレが近くにいるとラーナはきっちりしてなかなか素を見せてはくれないからね。


 でもルミ、それはラーナが居ない時にこっそり教えてね?

 慌てるラーナを何故か熱のこもった目で見つめるルミに後で言っておこう。


「(やっぱり…ラーナ様かわいいです…)」


 小さく呟いたルミの声を【斥候】系が強化した耳が拾ってきたが、そういうことなら考えなくもない。


「んん…。子どもたちは近くで慌しい事態が起こったので最初怯えていましたが、ハヤト様が出向いてみんなを守ってくださると広めたところ喧騒は落ち着きを見せましたわ」

「ラーナ様が「こういうときはハヤト様をみんなで応援するのよ」と言って子どもたちを集めて祈られていました。そのおかげでみんな大人しく静かにラーナ様に続いていました」

「だからルミ! そんなに詳しく説明しなくてもいいのよっ?」


 こほんと一息入れて場をリセットしたラーナが子どもたちの様子も教えてくれ、ルミがそれに補足を入れてくれる。残念ながらリセットした場は元に戻ってしまったようだが。


 しかし、なるほど。ラーナはオレのために応援してくれていたのか。

 うれしいな。うん。心がじんわりと温かくなってくる。今度お礼をしよう。



 さて、お互いの無事が確認できたところでさっき見てきた情報をラーナとルミにも共有した。


「まさか、フォルエン王国がそんなことを」

「酷い…です」


 今回スタンピードが襲ってきた原因がフォルエン王国が擦り付けてきたためと知った二人はショックを受けている。

 ルミにとっては二回も殺されそうになった相手だ、フォルエン王国に対する印象は最悪だろう。

 ラーナは国同士の付き合いもあったためか俄かには信じられないといった様子だ。


「ラーナ。少し聞いてもよろしいでしょうか?」

「はい。なんでしょう」

「フォルエン王国はここまで非道を行う国、なのでしょうか? それとも、こうしてスタンピードを擦り付けるのは普通の行為なのですか?」


 オレが聞きたかったのはこの世界の常識について、スタンピードは擦り付けることが出来る。そしてそれを行った国はどういったペナルティを蒙るのか? それともなんの罰も受けないのか。そしてフォルエン王国の情報も。


「いえ。とても正気の沙汰とは思えません。周辺国で結んだ条約の中でも非常に重たい罰則が設けられています」

「しかし、実際に行われたということは――」

「はい。もう周辺国は消え、条約も消滅してしまっているのでしょう。しかし、例え条約がなくともスタンピードを押し付けるなんて、ありえないことです」


 ラーナの困惑の表情からこの世界でもそれが異常であることがわかる。


「フォルエン王国は、シハ王国と長く国同士の付き合いがありました。私も多少はフォルエン王国の内情はわかるつもりです。世界一の農業大国で肥えた農地が広がり、最南端の国としてスタンピード発生時から難民、避難民の受け入れに積極的な国です。最前線を他国に任せる代わりに男手と食料を供給して、スタンピードの殲滅に貢献していました。国内では生まれた男子は国が引き取り将来軍務に所属させるため鍛えるのだといいます。私たちシハ王国が7年もの間スタンピードの猛攻を防ぎ続けられたのはフォルエン王国の援助あってのことです。それゆえに今回の事件は本当に信じられません」


 ラーナの話はフォルエン王国のこれまでの印象とまったく正反対なものだった。


 だとすると、これは少なくとも国の総意では無い可能性が出てきた。


 何しろフォルエン王国は一度スタンピードと衝突したのだ。もし最初から押し付ける気だったのだとしたら、わざわざ衝突するなんてしないはずだ。


 考えられるとすれば、当初は押し付ける気など無かったが軍に大きな被害が出たため指揮官などの権力者が独自の采配を振ってスタンピードを外部に押し付けたくらいだろう。


 しかし、スタンピードを城塞都市サンクチュアリに押し付けたことは変わらない。

 近いうちフォルエン王国と接触する必要は感じていたのだし、これから話し合いに向かおうと思う。


 しっかり落とし前をつけさせないとね。



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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!

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