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終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第二章 王国の産声

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第六話 衣服作りとプレゼント



「今日からみんなに布作りをしてもらうね」


 翌日、子どもたちを集めて衣服作りをすることにした。

 みんな今まで着たきりスズメだったけれど、女の子だし換えの衣服を作ろうとずっと考えていた。


 今までは資源不足で断念していたけれど、先日のスタンピードで多くの素材が手に入った。

 【加工技師】や【裁縫技師】の力を借りれば魔物の毛や皮を衣服に仕上げることが出来る。


 しかし、さすがに二千人分は手に余った。そこでラーナから「子どもたちに仕事をさせましょう」という提案があり、最低限の素材作りだけオレが職業の技能を使って加工し、それを使って子どもたちに自身に衣服を作ってもらうことにした。


「わー」

「すごーい!」

「おっきい!」


 昨日魔物素材を加工した毛玉に子どもたちが集まっている。

 さすがに家ほどもある毛玉はインパクトが強い。少し作りすぎたかもしれない。いや、どんな魔物の毛でもフワフワモコモコにしてしまう『(やわ)()加工(かこう)』が楽しすぎたのだ。


 しかし、できればがんばって作った糸車や織機の方を見てもらいたいのだが、子どもたちにとってモコモコは正義のようだ。少し悲しい。


 気を取り直して毛玉から糸をつむいでいく作業を子どもたちに実演しつつ、やり方をレクチャーしていく。


 はしゃいでいる子もいるが多くが真剣に作業していた。

 糸車でのつむぎ方や、つむいだ糸の保管方法。そして糸を織機を使って布に加工していく方法。最後に布を縫い合わせて衣服に加工する方法を教える。


「と、ほら、こうして完成だよ」

「おー!」

「すごく早い、手が見えない!」

「出来たー!」

「すごくすごーい!」

「触らせてー」


 ある程度の手順を教えたら『高速裁縫』による早送りで完成品に仕上げ見せてあげた。


 見本に作ったのは10歳児でも余裕で着れる少し大きめのワンピース。上下を作る余裕がまだないので上下兼用だ。

 完成した新品の服に子どもたちも大興奮だ。


「いいな~」

「フワフワ? モコモコ?」

「うん。私達の服みたいにゴワゴワしてないよ!」

「わたし服欲しいー!」

「わたしも! がんばって作らなきゃ!」


 子どもたちのやる気も上がったようだ。

 7歳以下の子は糸をつむぐ事は出来ても布加工は難しいようだったので役割分担して試行錯誤を繰り返す。

 オレは日中子どもたちに手取り足取り教えつつ、夜は足りない糸車や毛玉や織機をどんどん生産していった。そんなことを十数日繰り返していく。


 その甲斐あって徐々に子どもたちも慣れてきたようだ。

 子どもたちが作ったものはまだ不恰好だが、そこはおいおいだ。


 オレも教える合間の時間を使って小さい子用の服を仕上げていった。

 新しい服を着てはしゃぐ子どもたち。和む。


 結局千着くらい自分で作ることに成ってしまった。まあ最初だからね仕方ないね。

 服作りは時間が掛かるからね。だからラーナもそんな眼で見ないで欲しい。

 うーん、ご機嫌取りが必要かもしれない。



 一段落したところで、オレはひそかに作っていたプレゼントを持ってラーナのいる屋敷に訪れていた。


「ラーナ、少しよろしいでしょうか?」

「まあ、ハヤト様のご用件でしたらいつでもよろしいですよ」


 本気でそう思っていると満面の笑顔を浮かべるラーナ。

 それがうれしくて少しこそばゆい。

 しかし、それがかえって緊張を生んだ。果たしてこのプレゼントで喜んでもらえるだろうか?

 いや、今更怖気づくとは地獄のスタンピードを討滅したオレらしくもない。アレに比べればプレゼントを渡すくらいどうということはないだろう?

 少し『奮い立つ心』に頼りたくなる気持ちを抑えて『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』から例の物を取り出した。


「ラーナに受け取ってもらいたいものがあります。喜んでもらえると良いのですが」


 プレゼントはラーナ用に作った衣服類だ。

 普段着用のワンピースやカジュアルな上下、フォーマルを意識したデザインの物も作ってある。今着ているローブ風の衣装みたいな服もあり、その数は上下合わせて十種類もある。それらは今のオレの職業を全力で使った最高傑作だ。


 サイズは【魔眼理術師】を統合した【大理術賢者・救導属】の能力でこっそり調べたので少し罪悪感がある。怒られないだろうか?

 しかし、どうしても作ってあげたかった。なんとなく服を作りたいからサイズ教えて欲しいと言い出せず、こうしてサプライズ気味になってしまったのが…。


「え? あの、これは?」

「ラーナに着て欲しいと思い作りました。衣服です」

「まあ! ほ、本当にいただいてしまってよろしいのですか?」


 オレの言葉に喜色を表すラーナに頷き、この日のために改装した衣裳部屋にラーナを案内した。まだ服をかける衣装棚やクローゼットくらいしかないが、いつかこの部屋をラーナの服でいっぱいにしてみせる。


「こんなお部屋まで…」

「ラーナには苦労をかけていますから、これくらいさせてください」

「そんな、ハヤト様の方が大変ではありませんか!」

「いつも子どもたちの面倒を見たり、纏めているのはラーナです。保護すると提案したのは自分なのにラーナに大部分を任せてしまいました。これはその感謝の印です」


 子どもたちの面倒を見るのはとても大変だ。


 ラーナは最初気を紛らわすためにやっていたと言っていたが、だいぶ気持ちが落ち着いた今でも文句一つ言わず子どもたちを見て回ってくれている。

 おかげで子どもたちはとても落ち着いていて、泣き叫んだり癇癪を起こしたりする子はほとんどいない。おそらくラーナが以前から持っている何らかの職業のおかげだろう。


 適材適所と言えばその通りだが、言い出した手前任せきりになってしまった償いはするべきだと思う。

 それに、子どもたちのことだけではなく、ラーナには感謝もしているのだ。この世界で最初に出会った人として特別な気持ちもある。


 結局、ラーナはプレゼントした服を受け取ってくれた。

 最初は「もう、ハヤト様はご自分の身がどれほど大切かわかっておられないのですわ」と言って説教モードに入りかけていたが、一着目を試着した時点でそんな不満はどこかに飛んでいってしまったようだ。


「は、ハヤト様、どうでしょうか?」

「とてもよくお似合いですよ。煌びやかの中に清楚さも感じられ、ラーナの魅力をとてもよく引き出しています」

「あ、ありがとうございます。不思議な着物ですね。ハヤト様の国の物でしょうか?」

「はい。自分の国では普段着に使われる物に少しアレンジを加えてファンタジー風にしてみました」

「ふぁんたじー、ですか?」


 自分の作ったものに自分で評価するというのもおかしな話だけど、自分の目に狂いはなかった。ラーナが着替えてお披露目してくれるたび、褒め言葉がツルツル滑っていく。本当、どれを着ても似合う。

 とても可憐で美しいと思う。


 ラーナもとても喜んでくれたようだ。

 鏡がないのが口惜しい。ラーナにも自分が今どんなに美しいか見てもらいたい。

 今度、作れないか試してみようと思う。


「ふわぁ」

「ラーナ様キレ~」

「お姫様みたい」


 その日、ラーナはオレのプレゼントしたドレス風の服で外出し、子どもたちを魅了してしまうなんてトラブルもあったが、プレゼント計画は大成功に終わった。


 それを見て意欲を燃やした服飾担当の子達が技術力を大きく向上させていく。

 そこに【大理術賢者・救導属】が発動してセイナ、ミリア、チカ、シノンを含む八人が【裁縫見習い】を獲得してしまった時は本当に驚いた。

 衣服は着々と作られて、近いうち服以外の布製品や皮製品に手が出せるだろう。

 今後の子どもたちの成長が楽しみだ。

 

 しかし、そろそろ【大理術賢者・救導属】について本格的に調べてみたほうがいいかもしれないな。


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[気になる点] ふと思ったのだが、3~11才の女児が2千人。単純に考えて男児が同数。文明レベルを中世くらいと見て残りの年代を×5とするなら、一国の人口が2万4千人くらい? 一都として見るなら多いけど、…
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