第四話 近づく距離感
数日が経ち、無事孤児二千人が住むための家々が完成した。
今まで野晒しだった子どもたちは家を建てたらとっても喜んでくれた。
今のところ家具も何もないし、食事も巨大な食堂の施設でみんな一緒に食べるため寝るくらいにしか使わないが、都市計画の第一歩だ。
ちなみに家々を作るにあたって色々トラブルがあった。
たとえばすべての家が同じ姿形なので、どれが自分の家かわからなくなったり、「君の家は三軒奥の家だよ」と教えたら数がわからず「三ってなにー?」と聞き返されたり、色々あった。
結局すべての家に動物の形をした置物を置いて目印にすることで解決した。
迷子が出たら、「君は牛さんの家だよ。山羊さんの家の隣だよ」なんて教えることになるだろう。
動物がわからない子もいたけれど、そこは他の子たちと探検しているうちに覚えてくれたようだ。
家が立ち並んだことで一気に町っぽくなったサンクチュアリを見ていると近寄ってくる影があった――ラーナだ。
「すばらしい光景ですわね」
「はい。がんばった甲斐がありました。ですが、まだまだこれからです」
「あんまり根を詰めすぎないでくださいね。十数日でこれだけの発展をしただけでも十分驚異的なことなのですから」
労わる言葉を口にしながらオレのすぐ隣に来るラーナ。最近距離が近い気がするのは気のせいだろうか? 手の甲とか少し動かすだけで当たりそうなのだけど。
ドギマギしそうなのを気合を入れなおして押し留めつつ、ラーナの方にチラッと視線を送るとこちらを向いたラーナと目が合ってしまった。
「…………」
「…………」
無言の時が何故か心地よい空間を生み出す。
とても近くで上目遣いで見上げてくるラーナの青い瞳に吸い込まれそうだ。
少し視線を下げれば最近ふっくらとしてきた唇にも目が留まりそうになってしまう。
「はふぅ…」
「!」
ぷるんとしたラーナの唇から吐息が漏れてドキッとした。思わず背筋が伸びる。
見るとラーナの頬が高揚している?
「ラー…ナ…?」
「あ、すみません! ハヤト様のご尊顔につい見とれてしまって! その、穏やかながらも前を見据える瞳がとても凜々しいなと思いまして!」
早口で言い訳なのか自爆なのかラーナが捲し立てる。
……そんなストレートに好意をぶつけられては、心臓が高鳴ってしまう。
オレも何か言葉を返した方が良いのだろうか?
「……その、ラーナも、とても美しいと思っていますよ。それにいつも子どもたちの面倒を見て貰い、自分の相談にも乗って貰って、とても感謝しています」
「はうっ」
オレのセリフに顔を真っ赤に染めるラーナ。
―――まるで恋する乙女のようだ。
ここで、足を踏み出してみてもよいのではないか。
いや、待て。ラーナはまだ中学生くらいの歳だ、本当に踏み出していいのか?
一度止めてしまうと一歩が踏み出せず前へ進むのを躊躇してしまう。
そんなとき近くで子どもの泣き声が聞こえた。
きょとんとして顔を見合わせ、
「行きましょう…」
「はい」
二人で我に返り、泣き声の元へ向かった。
3歳児の子どもが転んで怪我をしてしまったみたいだったので『回復』を使って即座に傷を癒やした。
泣き虫も引っ込んで笑顔になり、3歳児は他の子たちのところに戻っていく。
残念ながらラーナとの良い雰囲気は終わりのようだ。
少し残念に思う。
お互い苦笑して、そのまま歩き出す。
「そういえば、ラーナに見て貰いたい物があるのですよ」
「なんでしょうか?」
「これです」
オレは『空間収納理術』から取り出した、壺に入った薄黄色の液体を見せる。
「これは“ゼリーオイル”と名付けました。スタンピードで倒したスライムの魔物をベースに魔物から出る油や燃える毛などを『錬金魔法』で配合したものです」
つまりこれはゼリー状の燃せる油だ。
料理の時どうしてもオレが魔法で火を担当しなくてはならないのをどうにかできないかと考えた末、開発に成功した念願の燃料である。
調理場に赴き実際に見て貰う。
お玉で壺のゼリーをすくい取って竈へ入れるとプルンと揺れるゼリーは溶け出すこと無くその場に張り付いた。そこに火打ちの顎を持つ魔物から作製した火打ち棒をぶつけると、“ゼリーオイル”が勢いよく燃え出す。少しゼリーを多く入れすぎたかもしれない。ラーナにお披露目するのに少し見栄を張ってしまった。
「わぁ――」
「これでオレが少し離れていても食事が出来ますよ。各家々で自炊も出来るようになりますし便利です」
「これは皆さんも喜びますよ」
喜色を浮かべて燃える火を見つめるラーナを見て、建築と平行して進めていた甲斐があったと思う。
「料理をするのですか?」
そこへルミが入ってきた。
火を付けているのを見て料理を手伝いに来たのかもしれない。
「あ、そうです。ハヤト様、ちゃんと料理もできるか確かめないといけません」
火が燃えるだけでは足りない事に気づいたラーナがオレに料理を作ろうと提案する。
そういえば“ゼリーオイル”を作ったは良いけれどそれで食事が出来るのかは試していなかった。不手際を反省し、ラーナの提案を了承、早速肉を取り出して捌いていく。
「では、私が焼いていきますね」
「ラーナ様お手伝いします」
ちなみにラーナが肉を焼くのは初めてだったりする。
大丈夫だろうか? 火傷や怪我をしないだろうか。
「もう、ハヤト様は心配性です。ちゃんと出来ますよ」
オレの気持ちが視線に乗ってしまったのかラーナが苦笑しながら言う。
それでも心配は心配だ。視線をルミの方に向ける。ルミ、フォローは頼んだ。オレの気持ちが通じたのかルミがこくんと頷いた。
《ハヤトの【大理術賢者・救導属】が発動しました》
――あ。また・・・。
ログが流れると同時にラーナとルミの二人がびくりと反応する。
どこかで見た光景だ。
二人が虚空に視線を固定し目を見開いている。
「ラーナ、もしかして・・・」
「はい。私も職業に覚醒したようですわ」
ラーナに問いかけると、やはり予想通りの答えが返ってきた。
ルミは驚きすぎて固まっているところを見るに、おそらく彼女も何かしらの職業に覚醒したのだろう。
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