第三十六話 『子どもたちの聖域』-エピローグ-
長い夜が明ける。
地平線が明るくなって来た頃、最後のワイバーンが落とされた。
この周囲に立っている者はもうオレしかいない。
辺り一帯に魔物の死骸が溢れており、それを見てようやく緊張の糸がほどけていく。
「――終わった・・・・・・のか?」
その言葉が自分の口から出たのだと解った瞬間、仰向けに倒れてしまった。
身体が脱力感に支配されていた。
光っていた身体も徐々に薄くなっていく。
MPは、もうほぼ無くなってしまった。
最後の方は生きている魔力タンクが無くなってしまったので“竜牙槍”と“竜頭楯”を手に近接戦闘で戦うしか無かった。鎧もまた半壊になってしまったし。ギリギリだったな。
とても疲れたよ。
しかし、休んでいる暇は無い。
早く帰らないと。
朝ご飯は作り置きしていない。
子どもたちがお腹を空かせてしまう。
「うっ、――『体力回復』」
自然回復した先から『体力回復』を使って身体にむち打って立ち上がり、辺り一帯に広がった魔物の死骸を『空間収納理術』へ収納していく。
“休景の龍湖”に沈んでいる魔物は後で回収しよう。
ワイバーンを回収するだけで朝日が完全に顔を出してしまったからね。
急がないと。
さて、作戦の大成功をラーナに伝えに行こう。
鎧など武具全てを一度収納し、身だしなみを整えて。
大勝利という吉報を届けにラーナの待つ拠点に帰還した。
「あ!」
最初オレに気がついたのは結界の側に来ていたルミだった。
結界内に入ると、側にはたくさんの子どもたちが布団を敷いてここで待っていたことが解った。
その中で子どもたちの隙間をすり抜けて飛び込んで来た影があった――ラーナだ。
「ハヤト様――っ!」
目を真っ赤にして涙を流すラーナが強く抱きしめてくる。
「わ、と…ラーナ?」
「遅かったです! みんな、みんな心配していたんですから!」
「……はい。心配をおかけしました。・・・ごめんね」
「うぅ~~っ」
ラーナの後ろに腕を回して抱きしめ返す。
「おかえりなさいです!」
「大丈夫?」
「お怪我はありませんか?」
それを見て、なんとルミ、メティ、エリルゥイスまで横から抱きしめてきた。
メティとエリルゥイスがオレの身体に怪我が無いか確かめるようにペタペタ触っている。
ああ、この子たちにはオレが何をしていたのかバレていたらしい。
三人の意外な行動に目を白黒させていると、他の子どもたちが集まってきた。
「むう、ずるい」
「セイナちゃんうしろ! うしろがまだ空いてるよ~!」
「ん。回り込む」
「あ、おいていかないで~」
何やら勘違いしたセイナとミリアが背中側にくっついてきた。
「で、出遅れたわ!」
「大丈夫~、まだ唇は空いてるよ~」
「そうね! おかえりのキスは私がいただくわ!」
「わたしもいただくわ~」
今度は何を思ったのかチカが首に抱きつこうとしてくるが、ラーナに「ダメに決まっています!」と怒られていた。逃げようとしたシノンも捕まってお説教が始まってしまう。
小さな子たちはいつも通り足にひっついてきて押しくらまんじゅう状態になった。
「はは、ははは」
思わず笑った。
大変だったが、オレはこの子たちを、この子たちの新しい居場所を守ることが出来たんだ。
改めて実感が沸いてきた。
ああ、うれしいな。やっぱりここは…いい。すごく心が温かくなる。
「あ、ハヤトしゃま泣いてる?」
「ほんとう? おなかいたいの?」
「だいじょぶ?」
「――はは、大丈夫だよ。この涙は、嬉し涙だからね」
上目遣いで覗き込んでくる小さな子の頭を撫でながら安心させるように微笑みかける。
どうやら少し、涙もろくなってしまったようだ。
――でも、頑張ったし、今は少しくらい良いよね。
こちらの様子を見たルミとメティとエリルゥイスが子どもたちを連れて行ってくれた。
気を遣わせてしまったようだ。
後でお礼を言っておこう。大人が泣く姿なんてあまり子どもに見せたくは無いからね。
場所を移動し、改めてラーナと二人きりになり吉報を報告した。
「ほ、本当に? あ、あの“国滅の厄災”を全て倒してきたの?」
大勝利の報告がよほど衝撃的だったのかラーナの言葉遣いが素に戻っている。
「はい。数日前から準備を進めてスタンピードの進路を誘導し―――」
再度作戦の概要を説明しながら、トラブルがありつつもそれがどんな結果に繋がったのか報告していくと、最後には放心したラーナが出来上がってしまった。
どうしようか。
放心状態のラーナが可愛くてもう少し見ていたい。
いつもなら声を掛けて紳士に起こすくらいはするのだけど、今日くらいはラーナに和んでも良い気がする。珍しい表情だしね。
「――はっ。なんだかとんでもない事を聞いた気がしたわ」
「全部事実ですよ」
「え? な、は、ハヤト様! いつから見ていたのですか!?」
いつからも何も最初からいたでしょ?
どうやら記憶が抜け落ちるほどの衝撃だったらしい。
「うう、恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわ」
「いえいえ、とても可愛かったですよ」
「え? か、かわ!? ほ、本当ですか?」
「はい。自分がラーナに嘘を言ったことはありませんから」
本当に今日のラーナは可愛い反応をする。オレもいつもなら自制しているところ、今日はスタンピード討滅と徹夜の影響で少しハイになっているようだ。口が滑ってしまう。
真っ赤な顔をして「うぅ~」と初心な反応もするラーナがまた良い。
いくらでも口が滑ってしまいそうになる。
しかし、辱めてラーナに嫌われては叶わないので自制心を総動員して話をリセットする。
「こちらでは何か問題はありましたか?」
「い、いえ。数匹の魔物が結界の外にいたという報告は受けましたが何も手は出さず去って行ったようです。子どもたちもほとんど怯えた様子もありませんでした」
どうやらこの近辺の魔物はこの結界に手を出すと危険だと認識したようだ。
そのまま当たって砕けて資源になってくれた方が助かるのに、残念だ。
いや、今は資源が潤沢にあるから別にいいのか。
貧乏人気質が抜けないな。
「それはよかったです。子どもたちも、ここが安全なのだとわかってくれたのですね」
「ええ。みんなハヤト様に感謝していると思いますよ」
このスタンピード討滅作戦中、MP温存のためあまり子どもたちを相手にしてあげられなかった。せいぜい布団の作製くらいだ。おかげで全ての子たちに布団を提供する事ができたが、風呂は水浴びになってしまったし、小物も作ってあげられなかった。
しかし、これからはMPも余裕があるし、【土木大匠理術師・建築属】や【大理術賢者・救導属】といった頼もしいジョブも得た。
これからはここもどんどん発展していくだろう。
……ここ、か。
「ラーナ、以前この場所の名前を決めて欲しいと言ってましたよね」
「はい。ハヤト様のお決めになった城塞都市の名はいつまでも語り継がれるでしょう。今日のことでそう確信いたしました。ハヤト様、何か良い名がありましたか?」
ここ数日、ずっと考えてきた。
何も無い土地で魔物の脅威にさらされつつも、結界で守られた地。
この場所にはどんな名が合うだろうかと。
そして考え抜いた案と、先ほどラーナが言った、『子どもたちも怯えない場所』という言葉で、名は決まった。
「ええ。子どもたちを、守り、救い、導く。そんな意味を込めて“子どもたちの聖域”と呼ぶのはどうでしょう?」
――第一章 “子どもたちの聖域”偏――
-完-
第一章 “子どもたちの聖域”偏 無事完結しました!
どうでしたでしょう? 読者様が楽しめていたら幸いです!
ここまで来れたのも読者様が応援してくださったおかげです!
本当にありがとうございました!
また、新たにレビューもいただきました!!
まっきー様、レビューありがとうございます\(^o^)/とってもうれしいです!
おかげさまでブクマが、ブクマが、なんかすごい増えています!!?
今朝起きてみたら46件!? 一昨日まで21件だったのに!? pt218、こっちも倍近く増えてる!!
さらに『日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングBEST300』部門で248位!?
ありがとうございます!ありがとうございます!
これから二日ほど幕間を挟み、30日からは第二章の投稿へ入る予定でしたが…、また記念祭、開いちゃいますかね!?
ということで、記念祭開きます。とはいえ筆休め期間は欲しいので7月30日に第二章の一話から三話を投稿いたします!
今後も読んでくださったらうれしいです! 応援もよろしくお願いいたします!
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります。




