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終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第一章 子どもたちの聖域

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第三十話 ”国滅の厄災”討滅作戦を開始する

レビュー&初ランキング入り記念祭を開催中。本日三話更新。

本日二話目!


前に一話更新してあります。そちらをお読みになってから読んでください。

三話目は18時に更新します!

「拠点の名前も早く決めないと、いつまでも名前無しのままだと不便だよなぁ」


 ラーナに作戦を伝えた翌朝、遅延作戦のため工事を行いながらそう呟く。

 昨日の話し合いの後、最近習慣化してきたラーナを抱きしめて寝た時に「早く名前を決めてくださいね」と言われてしまった。

 しかし、良い名前が思い浮かばない。

 城塞都市の名前付けは歴史に残るほど重要なことだ。この世界に未来があるのかは解らないが軽はずみな名前は良くないだろう。

 む、難しいな。


「『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』」


 一端考えを外に追い出して今は作業に集中しよう。

 『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』で昨日貯めた大量の土を吐き出して土嚢の要領で壁を作っていく。

 【土木技師】で軽く形を整えた後【結界魔法士】の元第十一の魔法『巨壁(ジャイアン)結界(トバリアー)』を張って完成だ。

 『巨壁(ジャイアン)結界(トバリアー)』は『結界(バリア)』の上位互換で巨大な壁型の結界を作る魔法だ。

 これを至る所に配置してスタンピードをまるで迷路の道のように蛇行させて足止め迂回させるのが目的だ。

 【魔払属】のおかげで強度は格段に増しているし、レベル20以下の魔物に壊されるような物ではない。MPの消費もさほど多くは無いし、侵攻を止めるではなく進路をそらす程度なら最適なものだ。

 土盛りは『巨壁(ジャイアン)結界(トバリアー)』が半透明なため、魔物にわかりやすくここに壁があると教える役割がある。


 本来なら遅延作戦は推奨されない。

 それはスタンピードが合流したり、次のスタンピードとの間隔が狭まることで兵士を休ませる時間が取れなくなるためだ。

 しかし、オレはむしろ合流させたいと思っている。

 十五万の後ろにはさらに十五万以上の魔物が侵攻している。


 総じて三十万。これを一網打尽にして討滅するのがオレの作戦だ。


 遅延作戦の迷路壁が半分ほど出来上がった頃、スタンピードの先頭が迷路壁に到達した。

 一時作業を中断してハイドを全開にして様子を(うかが)う。

 ここが重要なポイントだ。誘導が出来るか否かで作戦が大きく変わってしまう。理屈と経験上出来ると確信しているのだが、特殊な魔物というイレギュラーな存在がいるため油断は禁物だ。


「――ん? これは・・・細長くなっている?」


 スタンピードは昨日の状態と一変していた。

 見渡す限り端が見えないくらい大きく広がっていたスタンピードが今日はかなり細い縦列で侵攻していた。


「何があったんだ? この辺は起伏の無い平地だし縦列で侵攻してくる必要は無いはず。何か理由があるのか。進路の変更は・・・よし、うまくいっているな」


 スタンピードは迷路壁に接触した後、壁沿いに進み始めた。

 縦列で侵攻しているので先頭の密度は薄く、思ったより簡単に進路を逸らすことができた。先頭が進路を変更すれば後ろの魔物たちも続く。

 たまに壁を無視して突っ込んだ魔物はHPをごっそり持って行かれて弾かれていた。

 それを見て、この壁は触れちゃいけないものだ、迂回しようと判断してくれたようだ。それでいい。


 問題なさそうなので、今のうちに一晩で隊列を変更した理由を探りに行こう、としたところで壁に弾かれた魔物にたくさんの魔物が群がるのを見て足を止めた。


「――ん? 魔物が魔物を食っているのか?」


 HPがごっそり持って行かれ重傷になった魔物が他の獣型魔物に群がられて食われていた。

 ああ、素材がもったいないと最初に考えてしまうのはオレもこの世界にだいぶ染まってきた証だろう。

 しかし、食事で百ほどの魔物が足を止めている光景を見て、なんとなく何故この隊列になってしまったのか予想が付いた。


 確かめてみると昨日オレが五千もの魔物を倒しその倍は重軽傷を負わせたのが原因だった。弱肉強食で食い食われ、広がっていたスタンピードが『流星(ソウジ)(ュン)(キス)(ター)』の破壊後に群がった結果、隊列が細くなってしまったらしい。


 これは好都合だ。

 昨日はあまりに広範囲だったため遠距離攻撃で削るくらいしか出来なかったが、これなら側面から食い破る事も可能だ。


「『双槍(ツインズ)双楯(チャージ)突撃(クワトロ)』!」


 【竜槍楯理術師・戦技属】第一の理術は突進力に特化した必殺技だ。

 発動中ほぼ直線しか移動できないが正面に居れば列車レベルの突進をくらい、周りにも強力な衝撃波を巻き起こす。そのため突進中に攻撃を食らう心配がほぼ皆無、正直反則的に強いと思う。

 しかし、発動中はMPがガンガン減っていくため、長距離走行はできない。昨日の広範囲に仕掛けていれば、途中でMPが尽きてスタンピードの中に孤立していただろう。


 『双槍(ツインズ)双楯(チャージ)突撃(クワトロ)』を使い、スタンピードの側面に突撃した。

 魔物たちはたいした抵抗も出来ず弾き飛ばされ、あるいは踏み潰されていく。


 ―――GYAAAAAAAAAAA!!!

 ―――JAAAAAAAAAAAAA!!!


 魔物たちの悲鳴が吹き荒れる中、巨大な槍と楯の幻影がそれを物ともせず食い破り、長く感じた突撃は、列の反対側に貫通することで終わりを告げた。


 その突撃あとは、さながら暴走列車の通り道のようだった。

 槍と楯の衝撃力で二つの溝が出来、それがまるで線路のように見える。

 魔物はモーゼのように引き裂かれていた。


 たかだか二百メートルほどの距離を走破しただけで千近い撃破報告がログに流れる。

 これでまた遅延作戦が進む。


 吹き飛んだ魔物をできるだけ『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』にしまい込んでいると、オレを目指して百弱の魔物が追いかけてきたので、それも倒して収納する。

 さすがに百程度相手なら遅れは執らない。魔物も全員レベル20以下の個体しかいなかったしね。


 その後も場所を変えて同じ事を繰り返した。

 二回目からは『空間(アイテ)収納(ムボッ)理術(クス)』も併用し、なるべく素材を残さないよう回収もした。

 しかし、走りながらの収納は難しく一割ほどしか回収は出来なかった。


 結局六回『双槍(ツインズ)双楯(チャージ)突撃(クワトロ)』で削った結果、七千近い魔物を撃破できた。

 そのうち千強の魔物は回収してある。

 回収出来なかった魔物はもったいない、しかし魔物が食べて侵攻速度が遅延するため無駄では無い。と自分に言い聞かせて涙を呑んで諦めた。


 【竜槍楯理術師・戦技属】のレベルも昨日今日の大量撃破で20まで上昇した。

 しかし、理術系の職業は高位職だけあってレベルアップが遅い。その代わり上級職業よりステータスの上がり方はすさまじい物がある。

 他にも戦闘職を中心に軒並みレベルが上がった。MP最大値もかなり増えた。


 戦果にほくほくしつつ残りの工事を行いみんなの元へ帰還した。





「おかえりなさいハヤト様、その、すごい数ですね」


 挨拶もそこそこに山のように積み上げられた魔物にラーナが目を丸くする。


「ルミも解体手伝い、ます」

「大量布団」

「この数、いったいどこから来たんですの・・・? もしかして・・・」


 初めての解体に緊張しているルミに、魔物が布団にしか見えていないメティが解体の仕方を教えている。

 エリルゥイスは何かに気がついたようだが、言わないでねとジェスチャーで伝えると、コクコクと頷いて解体作業を手伝いに行ってくれた。


「みんなでやる。がんばる」

「こんな数無理だよ~」

「無理じゃない、やるの」

「ふぇ~ん」


 すばらしい手先でどんどん解体していくセイナが弱音を吐くミリアを捕まえているが、半泣き状態なのでほどほどで解放してあげて欲しい。


「ハヤト様これ手伝ったらごほ~び欲しいな?」

「一緒にお風呂入ろ~」


 チカとシノンがご褒美をねだりながらくっついてきた。

 確かにこの数の解体は大変だろうと魔物の山を見る。手伝ってくれた子にはご褒美を贈るのも良いかもしれない。しかし、一緒にお風呂は危険な香りがするので却下しておいた。別にラーナの視線が怖かったというわけではないよ。


 一緒にお風呂のところで年長組がざわりと反応したように感じたがきっと気のせいだろう。手伝いの立候補が増えたのはこの子たちの善意に違いない。

 今度、贈り物でも用意しておこうと思う。


 オレも解体作業に参加し、みんなも頑張ってくれたおかげで半分が布団になった。

 明日には全員分の布団が完成するだろう。楽しみだ。


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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!

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