第二十七話 迫る厄災と守るべき日常
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では、本日の話、どうぞ!
「スタンピードがまた現れたのですか!」
「はい。場所はシハ王国北、徒歩・・・四日くらいの所に約十五万の魔物の群集を見つけました。南に進行しています、五日後にはここにたどり着く可能性があります」
「そんな・・・」
オレの報告を聞いたラーナがひどく動揺する。
無理もない、命がけでスタンピードを倒滅したのが二日前のことだ。
あの“聖炎”を使ってまで道連れにした規模の災害が、たった数日で再来するなど悪夢でしかない。
スタンピードは獣系と爬虫類系で進行スピードは速く、猶予はあまり残されていない。
オレはスタンピードを発見し、ある程度観察してできるだけ情報を集めた後、例の拠点で素材の山を回収してまっすぐ戻ってきていた。
その足ですぐにラーナを呼んで会議の場を設け、先の報告をしているところだ。
「ハヤト様、このスタンピードは“国滅の厄災”と呼ばれるものかもしれません」
「“国滅の厄災”・・・ですか?」
顔色が悪いラーナが説明してくれる。
「スタンピードが起こり始めて約80年。国々はスタンピードのあらゆる記録をとってきました。そして、スタンピードの規模には43のパターンがあることを発見しました。“国滅の厄災”というのはその最悪のパターンの一つです」
ラーナが教えてくれたのはこの世界のスタンピードの歴史だった。
スタンピードが起こるたび、そのスタンピードを記録し、対策を練ることで生き残ってきたのだという。
「スタンピードの多くは五万以下の規模で一部隊で侵攻してきますが、スタンピードは倒せば一ヶ月は安泰です。しかし、“国滅の厄災”は十五万以上の規模で十部隊が二ヶ月にも渡って侵攻してきます。数は合計二百万ほどになり、数に飲み込まれ多くの国がこれに滅ぼされました」
故に“国滅の厄災”と呼ばれるようになったのだという。
「“国滅の厄災”は数日ごとに十五万以上の部隊が押し寄せてきます」
すさまじい規模だ。シハ王国もこのスタンピードに飲み込まれてしまった一つなのだろう。そして、最も厄介なのは、その部隊数。十部隊の部隊に分かれ数日ごとに援軍としてやってくるため、国の最終手段《聖静浄化》で滅ぼしきれないことが多いとラーナは言う。
そして残った援軍がさらに南下し、準備の整っていなかった次の国まで滅ぼしてしまったというケースも過去にはあったのだという。
まさに今のオレたちと同じケースだな。
「対策は、何をしたら良いのですか?」
「部隊数を分けているのを逆手にとります。集まれば百万でも分かれているうちは各個撃破が可能ですから。援軍が到着する前に部隊を倒滅しきる、それを繰り返すのが最良と言われています。ただ、十数万の魔物を数日以内に倒すためには多くの兵士と軍備が必要になりますし、日を追うごとに疲弊して、最後は瓦解してしまうことも少なくないため、“国滅の厄災”時は周辺国すべてがその対応に当たるのが条約で決まっていました。ですが・・・」
周辺国、というとフォルエン王国か、あまりこの国に良い感情はない。
シハ王国が“国滅の厄災”に襲われていた時も援軍には来ていなかったようだし。
いや、途中まで来ていたってルミが言っていたっけ。援軍が到着する前にシハ王国が滅んでしまったため、避難民の誘導を優先した、のかもしれない。
しかし、各個撃破か。
十五万の魔物相手に挑むのはとてもではないが無謀だろう。
ラーナも一応説明はしたが絶対行かないでくださいと内心思っているって顔をしている。
「フォルエン王国が助けてくれると思いますか?」
「・・・いえ。相手の魔物の数が数ですから、野戦には出ないと思います。要塞から防衛戦をした方が遙かに被害を抑えられますし」
フォルエン王国の要塞はここの南、スタンピードは北。
やはり助けは来ないとみるべきだろう。
それにフォルエン王国はここには孤児しかいないと思っているからね。
「では、自分がなんとかしなければいけませんね」
「ハヤト様・・・。行ってしまうのですか? いくらハヤト様がお強いとはいえ無茶です」
「ラーナも解っているはずです。ここには戦える者は一人しか居ないのですから。任せてくさい」
「・・・・・・」
「大丈夫ですよ。自分も含めて絶対みんなを守りますから」
無言で行かないでと目で訴えるラーナを説得する。
「・・・約束、してくださいますか?」
「もちろん、約束いたします」
ラーナが小指を向ける。
こっちの世界でも約束するときは小指を合わせるのかと少し驚きながら、こちらも小指を交わした。
「絶対、約束守ってくださいね」
その後、時間的にスタンピードへの対策は明日また行うと決めてラーナと別れ、メティとエリルゥイスに手伝って貰って解体作業を行う。
今日は以前手伝ってくれた四人の十歳組のうち二人が作業の手伝いがしたいと申し出てくれたため、新たに二人加わっての解体作業だ。
「できてる?」
「うん、うまいうまい」
「セイナちゃんすごいな~、私全然うまくないよ~」
「そんなことはないよ、初めてにしては上出来だよ」
10歳組とオレがひとまとめで呼んでいる内、ボブくらいの黒髪をしたセイナは手先が器用だった。初めてのはずなのに今日が三回目のメティとエリルゥイスよりうまい。
もう一人、自分のとセイナの解体した“ポンズキ”を見て落ち込んでいるのはミリア。子どもたちの中で最も身長が高いのだが、言動がちょっぴり幼い感じの子だ。
とはいっても解体も初めてにしては人並みくらいには出来ている。
なので教える側のオレはしっかり褒める。
子どもたちにはスタンピードが迫っていることは内緒にしてある。
不安な夜を過ごすこともないので直前まで言わないことにしようとラーナと一緒に決めたのだ。
そのため、オレもスタンピード戦までは日常を意識して過ごすことにした。
「ミリアはもっとがんばる」
「ふえぇ~ん」
「ハヤト様のため」
「う~、がんばる~」
セイナがミリアに発破をかける。
それを微笑ましく見ながら、改めてこの子たちを守ろうと決意した。
解体作業が終わったら子どもたちに料理を任せる。
火だけはオレが『火形成』で維持しなければいけないが、【魔流躁士】のおかげで維持するだけなら多少離れていても別の作業をしながらでも出来るため問題ない。
その間に今朝作ろうと決めていた水浴び場を建設する。
「ハヤト様なにしてんの~」
「おうち建てるの?」
「ここは水浴び用の建物を作るんだよ。危ないから完成するまで近づかないようにね」
「は~い」
場所は調理場のすぐ近くなため多くの子どもたちが何してんだろうと寄ってくる。
少し言い聞かせると8歳以上の年長さんが小さい子たちが邪魔しないよう面倒を見てくれた。子どもたちの成長が目覚しい。
さて、オレもがんばろう。
もう夜なので魔力の温存は最低限にして、節約して溜まった魔力を使い『土形成』で建物の基礎部分から丁寧に仕上げていく。【土木技師】と【大工】のジョブが囁いて建物を完成まで導いてくれる。
適当に作った水飲み場の皿とは違い、【造形技師】を使って綺麗でちゃんとした見た目のデザインに仕上げていく。多少手の込んだ物を作ったのは、スタンピードに壊させないという意思表示みたいなものだ。
建物はいつも作るかまくら型ではなく三角屋根の銭湯のような形でかっこよく仕上がった。百人が入っても余裕があるほど大きな建物になってしまったが、今のオレにとってさほど多く時間はかからない。
「すごいね~」
「早い~?」
「どんどん出来てく~」
子どもたちの賞賛の声が心地良い。
最後に大量の水を入れて完成。の予定だったが、MPが思ったより余っていたので【火魔法士】と【湯銭工】を使ってお湯を入れてあげた。
お湯なら汚れも落ちやすいしね。
ゆっくり疲れを取ってスタンピード戦に備えよう。
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