第二十六話 和やかな日常
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「わークシだー」
「みせてみせて!」
「はは、たくさん作ったからみんなで仲良く使ってね」
解体作業を終えて加工作業をしていたとき、メティのボサボサの髪が眼に入ったのでクシを作ってみた。
魔物の骨を【加工技師】の『加工切断』で繊切りにして湾曲した肋骨に『合成』したシンプルなものだが、子どもたちの評価は上々だ。
「ルミたち専用、ですか?」
「高級」
「とても綺麗ですわね」
いつも手伝ってくれるルミ、メティ、エリルゥイスには【造形技師】をだいぶ活用した“ヤゴス”の角から作った黒い光沢のあるクシを一人一つずつ渡した。
朝手伝ってくれた十歳四人組にも少しグレードを落としたクシを一人一つずつ渡す。
「ラーナ、いつもありがとう。これからもオレを支えて欲しい」
そう言いながらグリーンドラゴンの甲殻から削り出した黄緑色のクシをラーナにプレゼントする。
ラーナにはとても感謝しているので今自分に出来る最高傑作を贈った。
「わ、私はこれからもずっとハヤト様を支えることを、ち、誓います!」
ラーナが何故か仰々しくクシを受け取る。
しかし、それをキラキラした視線がたくさん見つめているので、この反応は正解なのだろう。この世界ではクシにまつわる何か逸話があるのかもしれない。
「ラーナ様いいな~」
「あこがれるよね」
子どもたちがきゃっきゃ騒ぎながらクシを渡し合いっこしている姿を見てそう思った。
まあクシでみんなの笑顔が見れるなら、作ってよかったよ。
その後の夕食は手伝いの立候補がたくさん増えた。
クシ効果は絶大だったようだ。
あまり多く居ても調理場が混雑してしまうので8歳以下の子どもたちには小さい子のお守りを頼んでおいた。
9歳児以上の三十名に各班を作り、仕事を教えていく。
なんか学生時代を思い出すな。
『火形成』を使って石板の下に火を燃やし続ければ他の子でも肉が焼けるので、オレは【魔流操士】を意識しながら『火形成』を維持して、焼く係をメティ班長の班に任せて他の班を回った。
これは、燃料さえあればオレの手を使わなくても食事ができるな。
切実に木材が欲しい。
昨日と同様かそれ以上に騒がしくなった夕食が終わった。
手伝ってくれた子にはオレの【調理士】補正が火を噴いた料理を食べさせてあげた。
同じ肉でも職業補正が入ると本当に味が激変する、手伝い組は大喜びだった。
「あの、ハヤト様、よろしければ今日もいいでしょうか?」
「もちろん。かまいませんよ」
床に着く前、若干顔を赤くしたラーナが声をかけてきた。
昨日と同様、胸を貸して欲しいということだろう。
夜になってみんなが寝静まると、ラーナは不安に襲われるようだ。
「ハヤト様の腕の中は心が安らぎます」
「ラーナのお役に立てるのならいくらでもお貸ししますよ」
優しく抱きしめてあげるとラーナの強ばった身体が徐々に溶けていく。
本当に、こんなことで不安が取れるならいくらでも胸を貸していい。
オレもこの世界に来た頃は人肌が恋しかった、ラーナの気持ちも少しは解るつもりだ。
辛いとき、不安に思うときは誰かに頼っていいのだ。
ラーナの不安はよほど大きかったらしく、なかなか離れたがらなかったため、一緒にラーナの寝室に行ってそのまま二人で眠った。
もちろん中学生くらいの子に手を出すような事はしなかったとここに言っておく。
「今日のメニューは鶏肉だよ。みんなで仲良く食べてね」
「とりにく~」
「とりさんもおいしい~」
次の日の朝、昨日夕食を手伝ってくれた子たちが作った朝食に舌鼓を打つ。
“ギガントダッチョウ”は鶏のテールのようなジューシーさとコリコリっとした食感のするお肉でとても美味しかった。ただ二千人分の食事を作るためほぼ三羽すべて使ってしまったのでもう残っていない。残念、また狩れたら良いなと思う。
午前中は昨日と同じく下水工事や加工に時間を費やした。
魔力が貴重なので、昨日とは違い工事はスコップを使って掘り進めた。
ちなみにこのスコップは“マンモー”の頭蓋骨をベースに加工した巨大スコップで、オレの馬力と組み合わせれば並みの重機より十数倍速い工事が可能だ。
《職業【穴掘士】を獲得しました》
《職業【農業士】を獲得しました》
《職業【環境整地技師】を獲得しました》
いくつかの職業を得たことでスピードが格段に上がる。
特に【環境整地技師】の職業が良い働きをする。
『土形成』や【土木技師】の技能で土を固め形を作っていく作業をこの【環境整地技師】一つで賄うことが出来る他、スピードも数倍速く、魔法ではないため消費MPも少ない。
ちなみに下水の到着点はシハ王国東にある巨大な枯れた湖にしてある。
ラーナの話では昔は立派で豊かでとても見晴らしの良い湖だったとか。大昔水龍が作った寝床と言われている事から“休景の龍湖”と呼ばれていたという、しかしスタンピードの影響で30年前に上流の河川が破壊され水源がほぼ無くなってしまった。それでもシハ王国の貴重な水源として利用され続け貯水量が激減。現在はほぼ枯れてしまったらしい。
シハ王国も滅び、もう使われていないので少し手を入れて、そこを利用させてもらうことにしたのだ。
数週間かかると思われた下水を通す工事が僅か二日で終わってしまった。
この調子なら一部の区画は今日にでも建物を作る事が出来るだろう。
どの建物を建てるかでラーナの意見を採用し、まずは水浴び用の施設を作ることに決まっている。
子どもたちはずいぶん小汚くなっている。衛生面的にも女の子的にも早急の開発が求められているのだ。
午後は狩りに出かける。
毛皮布団は順調に数を増やしているがまだまだ数が足りていない。
建設も大事だが毎日の狩りも大事だ。
残った魔力をかなり消費し、“竜頭楯”と“幼緑竜完全体一式”の鎧を【修復魔法士】の魔法で修復し、ようやくオレのフル装備を元に戻すことができたので、早速着替えて出発しよう。予備が無いのが少し心許ないが時間も魔力も無いのでもう少し落ち着いてから作ろうと思う。
あと、出発する前にラーナに声をかけておかないと、また心配させてしまうかも。
「ラーナ。これから狩りに出向きます」
「まあ、ハヤト様の装備、直ったのですね! とても凜々しいです!」
「ありがとうございます。これならラーナに心配をおかけすることも無いでしょう?」
「はい。・・・・・・もしかして昨日何かありましたか?」
う、ラーナの目が何か無茶なことしましたね? とこちらを見つめている気がする。
この話はやぶ蛇だったか。
「特に問題ありませんでしたよ。ラーナから力を貰いましたからね」
その力がラーナを抱きしめた事だというニュアンスは通じたようでラーナが瞬時に顔を赤く染める。
「ハヤト様それは言ってはいけないことです」
「おや、これは失礼いたしました」
うまくごまかせたようなのでツッコまれないうちに出発する。
後ろから「もぉ~~」というラーナの恥ずかしそうな声と、「あ・・・れ? ラーナ様、かわいい、です」というルミの呟きの声を【斥候】が拾ってきた。
今日は以前オレが大量の素材を、持ち運ぶのが億劫になって置いてきた拠点に取りに行こうと思っている。
昨日回収したリュックの中身が予想以上に有用だったのだ。二ヶ月間サバイバルしてきた日用品や工具の類いは本当に助かった。
しかし持っている素材が微妙。そこで二ヶ月間で狩った大物の厳選された素材をたっぷり含んだ拠点に取りに行こうと思い至った。
場所はシハ王国に到着する四日ほど前の拠点だったはず。
今のオレなら往復で三時間掛からないだろう判断だ。
「――ん? なんだろうこの反応?」
もう少しで目的の拠点にたどり着けるというところで『長距離探知』に大きな反応があった。
一部が敵性反応で真っ赤になっている。この反応、最近見たことがある。
確かめる必要を感じて進路をやや変更する。
すると、それが十五万からなる魔物の群集であることが確認できた。
これは、そう。
「スタンピード・・・・・・。この間討滅したばかりなのに・・・もう?」
自分の口から無意識に動揺の声が漏れた。
オレは少し甘く考えていたのかもしれない。この世界の国々のほとんどを滅ぼしたスタンピード。『スタンピードは倒しても倒しても終わりの無い災害です』とラーナの言葉を思いだす。
倒してもたった数日でこの数がまた襲ってくる。それこそが、災害なのだ。
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