第二十五話 悪魔の三つ首戦
オレたちが拠点にしている場所より南側はフォルエン王国があり、最近までこの辺りはフォルエン王国の軍が哨戒していたため魔物は少ない。
元々のシハ王国とフォルエン王国の間にあるためこの辺りは魔物があまり見られないのだ。それも昨日だいぶ狩ってしまったので、今後はシハ王国の北にまで足を伸ばすことになる。『三歩走術』は少しMPを食うが必要経費と割り切るしか無いな。じゃなければ遠すぎる。
『長距離探知』によればシハ王国の北側にある魔物反応はやはり多いのでそこまでまっすぐ走る。
お! 『長距離探知』が大物を捉えた。
早速近づいてみると、それは体長20メートルを超えるエミューに似た鳥の魔物だった。
種名は“ギガントダッチョウ”レベル36~38。
ギラついた金ぴかの眼をしたそいつが三羽、何故か争っていた。
これは漁夫の利を得るチャンスと思い、【斥候】や【隠密】をフルで発動しながら隠れて近づき、レベルが一番高かった“ギガントダッチョウ”に『速射大槍』を首に打ち込んで刺殺する。
突然の襲撃者にギラついた眼をさらにギラギラさせながら怒る“ギガントダッチョウ”たち。
動揺した隙にもう一羽を仕留めにかかったが、さすが高レベル。鋭いくちばしによる反撃が思いのほか速く、仕留められなかった。
相手に完全に補足されているため、もう【隠密】などのハイド系は意味をなさない。
魔法は使いたくないのでアーツのみで戦うしか無いが、楯が無いのが辛い。
上からの連続くちばし突きは高速で重い。槍ではとても受けられない。回避に専念することでなんとか避け続ける。
もう一羽は虎視眈々とオレが体勢を崩すのを待っている節があり、下手に距離を開けることが出来ない。
だが、連続くちばし突きにも慣れてきた。元【大戦士】の『見切り』が良い仕事をしている。
タイミングを合わせて顔の側面に【剛脚士】の『剛回し蹴り』を打ち込んだ。こちらの体勢が崩れる。
その隙にもう一羽が鋭い蹴りを放ってきた。まるで大砲のような迫力で迫ってくる蹴りを『速射大槍』で迎え打ち、ギリギリのところで相殺する。
“竜牙槍”が受けた衝撃がビリビリと腕に伝わってきた。
まさか相殺されるとは思わなかったであろう“ギガントダッチョウ”が片足でバランスを崩したのでそのまま追撃。
【剛脚士】の『剛足刀蹴り』、【大戦士】の『大打撃』、【武闘士】の『急所撃』を合わせた一撃を胴体に打ち込んだ。体長20メートルオーバーの巨体がまるでボールのように吹っ飛ぶ。
まさかこれほど豪快に吹っ飛ぶとは思わなかったので驚いた。
ログに“ギガントダッチョウ”を倒したと流れるのを見て我に返る。
まだ戦闘中だ。振り返ればラストの“ギガントダッチョウ”がまた連続くちばし突きを仕掛けるところだった。
それはさっき見切ったし、もう一羽の牽制が無くなった今では脅威では無く、カウンター気味に『速射大槍』を眉間に打ち込んで仕留めることに成功した。
『空間収納理術』に三羽を回収する。
吹っ飛んだ一羽は羽が一部ダメになってしまっていた。次からは注意しよう。
それにやはり槍だけで狩りに来たのはダメだった。
せめて鎧と楯は装備してこないと今回みたいな事になったとき非常に危険だ。オレは自分が強くなりすぎて油断していたようだ。今後は戒めよう。
ラーナと約束したのにだいぶ無茶をしてしまった。
これはいけないな。
今後のことを考えると、破損している鎧と楯の修理が急務だ。
「それほど遠くはないし、昨日拠点に置いてきたリュックを回収しよう」
強い敵は避け、レベル一桁ばかりを選んで蹴り倒しながら昨日の拠点まで行く。
【移動術師】が優秀で移動開始から十数分で到着する。
中は荒らされていなかった。完璧に岩にカモフラージュしていたので当然だ。
リュックとその他諸々この二ヶ月で作ってきた道具を回収する。
昨日まで『空間収納理術』を持っていなかったのでたいした量はないが、足しにはなるだろう。
その後、何か資源は無いかと探し回ったが、やはり魔物しかいなかった。
シハ王国王都にも何か使える物が残されていないかと寄ってみたけれど、未だ火は沈下せず王都は火の海のままだった。
結界を発動すれば探索は出来るが魔力の消費が激しいので断念する。
仕方ないのでできる限り魔物を狩り続け、時間が来たため帰還した。
「みんなただいま」
「あ! ハヤト様!」
「ハヤトしゃま~」
「おかえりー!」
結界に潜ると小さい子たちがわらわら寄ってきて足にひっついた。
独身で一人暮らしだったためか、その光景に何か温かい物が溢れてきた気がする。
「お帰りなさいハヤト様。無事でよかったです」
「ラーナ、ただいま戻りました。ちゃんと無事ですよ」
少し赤い顔をして出迎えてくれるラーナ。
ちょっと無茶をしたことは内緒にして怪我も無く無事であることをアピールする。
今回はラーナも大丈夫なようだ。さっきみたいに暴走していない。
「解体する」
「ハヤト様、また手伝わせてくださいですわ」
メティとエリルゥイスが手伝いを名乗り出てくれたのでありがたくお願いすることにした。
そのまま二人を連れて解体場に行き『空間収納理術』から“ギガントダッチョウ”を一羽取り出した。入口の魔方陣ギリギリの大きさのダッチョウが出てきてテーブルが埋もれてしまった。
「わ!」
「お、大きいですわね、ってこれは・・・、もしかして“悪魔の三つ首”ではありませんか!?」
「“悪魔の三つ首”?」
エリルゥイスの話では、とあるスタンピードの時、防壁を超える高い首を使い軍に甚大な被害をもたらした三羽の魔物がいたらしい。
防壁を無視して繰り出されるくちばしに多くの兵士が食べられ、その所業から“悪魔の三つ首”と呼ばれるようになったのだそうだ。
結局その三羽はその一戦からスタンピードを離れ、野性に還ってシハ王国の国土内に度々現れるようになったとのことだ。
ちなみにメティは知らなかったらしく寝ぼけ眼を三割くらい見開いてオレを尊敬の眼差しで見つめている。
「ハヤト様すごい」
「とてつもない偉業ですわ! シハ王国軍が幾度対峙しても倒せなかった“悪魔の三つ首”の一角を倒してしまわれるなんて!」
実は三羽全て倒したのだが、それほどの強敵と対峙したと知れたらまたラーナに心配をかけると思い自重した。後の二羽は誰にも見られないようにシェルターでも作って解体しよう。
しかし、エリルゥイスはとても情報通のようだ。
何故そんなに詳しいのか尋ねかけるが、ひとまず自重しておく。
【鑑定士】によれば元男爵令嬢だと判明しているので多分それに関係があるのだろう。
ラーナにも感情を考慮してまだ過去の詮索はしていないのだ、ここでエリルゥイスにそれを聞くのは、何故かラーナに不義理な気がした。身の上話はラーナから、何故かそんな感情が芽生えてしまっている。
テンションが上がっている二人を落ち着かせて、また“ポンズキ”を渡しておく。
テーブルから溢れている“ギガントダッチョウ”を退けてスペースを譲り、二人がさっきよりうまく解体していくのを見守りながら、オレも解体作業を開始した。
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