第二十三話 職業の真実とこれからの方針
二千人の孤児の面倒を見始めて二日目。
しなければいけないことは多い。
優先順位をつけないとね。
まずは水回りの改善からかな。
建物を作るにしても、なんにしても水回りは大切だ。
病原菌が発生したら目も当てられないし、水に当たれば幼い子は命の危険がある。
だからこそ清潔な環境を整えてあげることが大事だと思う。
というわけで朝食を食べ終わってすぐ、オレはラーナを呼んで会議をしていた。
「——ですので、二千人を生活させるには村が必要だと思います」
「ですが、防衛力の乏しい村ではスタンピードですぐに飲み込まれてしまいます」
「そこは結界に頼ります。自分もどこまでスタンピードに通用するかわかりませんが」
「いえ。戦力はハヤト様に頼っている状態です。しかし、いつまでも結界を張り続けるなんて無茶です」
「……でしたら、城壁を作りますか。頑丈なものを」
「そのほうがよろしいと思います。城塞に囲まれた町を作られるのが良いと考えます」
水回りについて話し合おうとしたら何故か城塞都市を作る話になっていた。
いや、さすがラーナ。
平和な日本で育った大人より、厳しい環境で育った王族の子どもの方が先を見ている。
オレにはそこまで考えつかなかった。
今後、何か決めるときはラーナに相談しようと心に決めた。
ラーナは本当に頭がよくって、度胸があって、決断力もあるので頼りになる。
それにオレのことを超越者と呼ぶこともあるけど、何でも出来るヒーローではなく一人の人間として見ているようで、全部オレ頼りにしないこともすごい。
普通こんな超人がいたら全面的に寄りかかってしまうと思う。
これも育ちの違いだろうか。
オレの半分くらいの歳なのに…。
少し情けない気持ちになってしまったが、これから頑張ろうと気合を入れた。
「あと城塞都市の名前ですね、ハヤト様が御造りになる都市ですから。ハヤト様、名前を考えておいていただけますか?」
「わ、わかりました。良いものを考えておきましょう」
早速難易度の高い宿題が出来てしまってせっかく入れた気合が抜けそうになってしまったが何とか踏ん張った。
うん、がんばろう。
ラーナとの話し合いで城塞都市を作ることに決めたため、まず設計図を作っていく。
元クラフトマンのオレは物作りを日常的に行っていたので設計図をひくのは慣れている。
骨と煤をベースにして【錬金魔法士】で錬成した黒ペンを使って石版に書き込んでいく。
《職業【設計士】を獲得しました》
《職業【測量士】を獲得しました》
《職業【地図技師】を獲得しました》
ラーナと相談しながら何枚かの石版を使って書き進める。
職業のアシストもあって文房具や機器が必要ないのがすごい。ペン一本で直線でも円でもすいすい書ける。
「ハヤト様は絵を書くのがとても上手ですね」
「割と絵を書くのは好きだったのですよ。見かけによらず絵が上手いと知人たちによく言われていました」
「そんな、よくお似合いですのに。その、絵を書く姿、とても凛々しく見えます」
「はは、もう若くは無い歳なので、凛々しいというのは少し恥ずかしいですね」
褒められて少し照れ笑いしてると、ラーナの視線がこっちに向いているのに気が付いた。
「どうかしましたか?」
「いえ、その。とてもお若く見えますので、意外に思っただけです」
「若い、ですか? もう28歳なのですが」
「え? 18くらいに思っていました」
それはいくら何でもお世辞が過ぎるというものだ。
しかし、ラーナは何かに気が付いたようで納得顔をしている。
「たしか伝承では、超越者は肉体の老化を防ぎ全盛期の身体を維持する能力を持ち長寿になると言われています」
「——え?」
ラーナの口からとんでもない言葉が飛び出す。
その話が本当なら、オレ、本当に18歳くらいに見えているのか?
慌てて左手で顔をペタペタ触ってみるが、さすがに触っただけではわからない。
鏡なんてものはないので確かめようがない。
ただ、この世界に来てから体力が異常にあった事を思い出した、すべて職業補正かと思っていたのだが。
それに髭を一度も剃っていない。
オレは髭が生えるのが遅くて22歳まで髭剃りのお世話になったことが無かった。
だとすれば、もしかして本当に若返っている??
ラーナの話では寿命も延びるそうで過去には五百年も生きた人がいるとの事だ。
なんとも、すごい話だ。
「そういえば超越者とはいったいなんのですか?」
ラーナや、その護衛の騎士はオレの事を超越者と言っていたけれど、ステータス欄には超越者なんて言葉は見当たらない。
この機会に知らないことは訊いておこう。
「超越者とは上級職業まで成長し、さらに緋色のアーツを使うことのできる人のことをそう呼びます」
緋色のエフェクトは“第十三”以上のアーツを発動した時に起こる現象だ。
ステータス欄で見るとアーツは最初グレー表記で使用不可だったものが、レベルが上がると次第に使えるようになる。
“第十二”まではレベル50までに大体覚えられるが“第十三”以上はレベル75以上じゃないと使えない。職業によってバラつきはあるけど。
さらにレベル50からはかなり育ちにくい仕様になっているようで、オレのジョブは多くがレベル50代で止まっている。
緋色のエフェクトが出る、というより溢れるという表現の方が正しいが、そのアーツ群の威力、能力はすさまじいの一言に尽きる。
まさに必殺技だ。
緋色が使えたら超越者と言われるのも解る。
まあ今となっては理術の方が強いので複雑な気持ちだけれども。
「では上級職業とはなんでしょう?」
「上級職業とは、初級職、基本職、中級職の進化先にある職業の事です。説明が難しいのですが、例えば初級職の【剣使い】は基本職の【剣士】に進化します。【剣士】が進化すると中級職【軽剣士】【重剣士】【二刀剣士】【細剣士】など別名特化職と呼ばれるものに進化します。これをすべて極めると上級職業に進化することができます」
ラーナの説明は地球時代ではとてもなじみ深いものだった。
しかし、オレはこの世界で進化というものを体験したのは理術位階への進化の時だけだ。
基本職や中級職というものにはなった覚えがない。
ログを追いかけてみても該当するものは―――あれ?
それはかなり以前、オレがこの世界に迷い込んだほぼ直後に流れたログだった。
―――《特殊条件『大量撃破』『一騎当千』『初陣英雄』を満たしたため“上級職業”が解禁されました》
進化ではなく解禁?
禁止されているものが解かれた?
オレの疑問が形になる前にラーナの話が進み、疑問が確信に変わった。
「普通、最初は初級職に覚醒するのですが、王侯貴族は最初から基本職に覚醒します」
―――それだ!
だとしたらオレは確認しなければならない。
「ラーナ、例えば【大楯士】ってどこに分類される職業でしょうか?」
「【大楯士】ですか? それは上級職業ですね。とても強力な盾に特化した職業だったかと思います」
―――ああ、やっぱりか。
職業がどうも強すぎると思っていたけれど、本当に強い職業だったらしい。
何故なら、オレが獲得する職業は全部上級職業だったからだ。
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