第二十一話 頼らせて欲しい
職業【加工技師】は有能だ。
このジョブが無ければオレは未だに地べたにそのまま寝ていただろう。
倒した魔物の毛皮をその日のうちに布団として使えるようになるまで加工してしまう。
おかげで“マンモー”の毛皮はすでに布団に成っている。
ラーナとルミと共に『周囲魔払結界』に戻ってきた。
さっき食事の時助けてくれた年長組の子たちに声を掛けて小さい子を集めてもらう。
一戸建てクラスの巨体を持つ“マンモー”とはいえさすがに二千人の布団には足りないので小さい子だけでも使ってもらうことにした。
さすがに3歳児に土の上に直寝は可愛そうだ。
今後毛皮を手に入れたら随時大きい子たちにも配るから、今回は小さい子優先で寝床に使おうと思う。
敷いたとたんゴロゴロ寝転がる子どもたち。
「お~き~」
「ふかふかする~」
すっかりアスレチックになってしまった。
まあ、どんなに暴れようとも“マンモー”の毛皮は子どもに破けるものではないので存分に遊ばせてあげよう。
寝るときになったらまた言えばいいしね。
そのまま解体場に戻ると『空間収納理術』から今日狩った魔物たちを取り出して解体加工する。
『空間収納理術』内は状態が変化するようで肉が固くなり始めていた。
しかし【加工技師】や【解体技師】に掛かればどうってことはない。
『合成』を使って新たに毛皮(布団)を量産した。
オレとラーナとルミ用の布団を確保したら、余ったやつは子どもたちに与える。
肉は『空間収納理術』に入れておく。状態が変化すると言っても『防腐』を使っておけば腐らないはずだ。
ちなみに『空間収納理術』に関してラーナに聞いてみたところ、この集団で秘匿するのは無理ということでもう普通に使っている。ただフォルエン王国の軍に知られないよう、子どもたちには無闇に言わないように言っておくとのことだ。
そんなことをしていたらいつの間にか薄暗くなっていた。
何とかすべての加工が終わった。
本当に疲れた。
しかし、肉が固くなり切ってしまえば使いづらくなるので今日中にやるしかなかったのだ。
子どもたちの様子を見に行くと、ほとんどの子は横になっていた。
“マンモー”の毛皮の上には、小さい子がすし詰め状態だ。
狭そうだけど、あれなら寒くはなさそうだ。
6歳以上の子たちはまだ布団の恩恵にありつけていないので、明日は布団作成を頑張ろうと思う。
あと、食器も作らないと。
やることは多いな。
「ハヤト様、やっとみんな眠りましたわ」
「助かりました、ラーナ」
報告に来てくれたラーナにお礼を言う。
ラーナはオレが解体に缶詰めになっていた時、根気よく子どもたちの相手をしてくれていたみたいだ。『体力回復』で少し回復したとはいえ疲れていたのに。
「いえ、何かしていないと、塞ぎこんでしまいそうでしたから」
苦し気な顔をしてそう言うラーナ。
やっぱり。無理して働きすぎだと思ったがその通りだったようだ。
しかし、オレに言ってきたということは、つまりそういうことだろう。
誰かに支えてほしいという、この子なりのSOSだ。
いくら王族とはいえ、まだ中学生くらいの小さな女の子なのだ。
覚悟を持って、決意を秘めて、目的を成し遂げる心を持っていても、ラーナは泣き虫だ。
心の支えが必要なんだ。
彼女もそれを分かっていて、頼ってきた。
なら、ラーナの元気が出るまで、甘えさせよう。
そっと、ラーナを抱きしめてあげる。
ラーナは抱きしめられると落ち着くようだから。
「……落ち着きます」
「よかったです」
「もう少し、強めに抱きしめていただいてもよろしいでしょうか」
「構いませんよ」
ぎゅっとラーナを抱きしめる腕に力を籠める。
するとラーナも抱き返してきた。
ラーナが胸に顔を埋める。
落ち着くまで、しばらくそのまま慰めた。
「あ、ラーナ?」
突然力が抜けたラーナを抱くと、彼女は腕の中で眠っていた。
落ち着いて気が抜けた…、いや緊張が解けたのだろう。
ふう、と息をついてお姫様抱っこで『結界構築』の中に作った寝室へ運ぶ。
一応王族に野宿させるのはまずいだろうとかまくら式拠点を作っておいたのだ。
そのままそこに寝かせて退散しようと思ったのだが、彼女の手が服を握っていて離してくれない。
無理に離させて退散するか少し悩んで、起きた時一人だと不安じゃないだろうかと考える。
寂しさのあまり、じんわり涙腺が緩んでいく光景が目に浮かんだ。
だめだ。こんな子にそんな顔させられない。
普通はダメだろうが、今は非常時。問題は…ないだろう。
と、結論をだしてオレも一緒に寝かせてもらうことにした。
オレも、この子にずいぶん甘くなっているなと苦笑し、ラーナ用に一つしか用意していなかった毛皮(布団)に詰めてもらって一緒に眠る。
こうして何とかあわただしい一日が終わった。
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