第十八話 自分に出来ること
現在の状況を整理しようと思う。
シハ王国がスタンピードによって滅亡した。
難民は全てフォルエン王国に流れた。
フォルエン王国は難民の中でも11歳以下の親のいない女児は入国させず、荒野の真ん中に放置した。
それを見かねて、オレとラーナが彼女たち孤児の面倒を見ることにした。
そうなるとまずはいくつかやらなければいけないことがあるな。
「『周囲魔払結界』!」
【結界理術師・魔払属】第二の理術である『周囲魔払結界』は半円状に半径二百メートル強の巨大結界を作り出す理術だ。
これで女児たちを囲めばモンスターと雨風は凌げるだろう。
突然張られた半透明の結界におっかなびっくりの彼女たち。
その中心地にラーナと一緒に行く。
後ろにはこんにちはと挨拶してくれてラーナに状況説明もしてくれた少女も一緒に来てもらっていた。
これは今後彼女たちと仲良くする上で必要なことだと思ったからだ。
「みんな注目!」
集団の中心地に立つと手をたたいてみんなの注目を集めた。
ちょうどいいアーツが有ったので【英雄】の『清聴』を使って皆に声を届ける。
「初めまして。自分はハヤトっていうんだ。こちらはライナスリィル。これからみんなと一緒に過ごすから仲良くしてほしい」
まずは自己紹介する。ラーナは愛称ではなく普通の名前だ。敬称は抜いてほしいとは彼女からの要望だった。紹介した時ぺこりと小さくお辞儀をするラーナ。
女児たちはみんな疲れきっていて覇気が無い。
でもアーツのおかげで皆注目してくれるし、話も聞いてくれているようだ。
分かりやすいように少し砕けた口調を意識しておく。
「次にこの結界はモンスターを通さない。この外に出ると危ないから絶対に外には出ないようにね。小さい子が外に出そうになったら誰か停めてあげてね」
次に結界についてを説明する。
これがこのコミュニティの生命線だ。
結界の外に出なければ大まかな脅威は排除できる。
この結界が使えなければオレは彼女たちの面倒を見ようなど考えなかったかもしれない。
さて、次は衣食住についてだけど。衣類は後回し。まずは食事だ。
「食事は一日に二回を予定している」
食事のところで注目度がアップした。
彼女たちは相当おなかが減っているらしい。
うーん。これ以上長話を続けるのはやめておこうか。
「とりあえず話はここまで。改めてよろしくね」
『静聴』を切って振り返る。
「ラーナ、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ハヤト様のお願いでしたら何でも聞きましょう」
何でも、という部分に苦笑しつつもこれからの予定を話す。
「自分はこれからいくつかの作業を行い、その後は食料の調達に向かいます。ラーナはここでいくつか確認していただきたい事があるので、この子と一緒にその作業を」
「わかりましたわ」
一緒に来てもらった女の子はこの中でも年長者で、少し緊張しているが受け答えもしっかりしている。ラーナの補佐にいいだろう。
「君の名前を聞いてもいいかい?」
「は、はい。ルミと言います」
「ルミか、よろしくね。早速で悪いんだがラーナの作業を手伝って欲しいんだ」
「はい。聞いて、ました。お兄さんたちが私たちみんなを助けてくれるん、ですよね?」
ルミの質問に安心しろと意識した笑顔を作りながら力強く頷く。
「ああ、まかせろ!」
問題は多い。
だが、決めたことだ。最後までやり通してみせるさ。
そのあと、すぐに水場を作って回った。
何しろ二千人だ。
ここは荒野で川や井戸なんて無いし、水場を作るのは最も急務だったのだ。
ぐるりと結界の中を回って巨大な皿のような水場を作る。
【土魔法士】第四の魔法『土形成』と【土木技師】を使い数分で一つ完成する。
頑丈で石のように堅く、そして水に溶けない。さわり心地もなめらかな仕様だ。
中に【水魔法士】第三の魔法『放水』でジャバジャバ水を注いでいく。
「ひゃぁ~」
「すごいー!」
「水いっぱいでてる!」
「魔法使いだー!」
子どもたちの称賛と驚愕の声が心地いい。
しかし注いでいる最中に子どもたちが押しかけてきたのには焦った。
いくら「何個も作るから待ってて」と言っても聞いてくれない。
勢い余って皿の中に落っこちてしまう小さな子まで居たほどだ。
その子はルミがすぐに助け出したので事なきを得た。
ちょっと水を注ぐのは早かったかもしれない。
二個目三個目の水場を作る時にはまず形だけを作って注意事項を説明した。
「落ちたら危ないから前のめりにならないこと。水は両手で掬って飲んでね、顔を水に漬けないように。いっぱい作るからみんなで仲良く飲んでね」
説明した甲斐があって子どもたちも大分落ち着いて飲んでくれるようになった。
多分【指導者】がいい働きをしてくれたんだと思う。
あと近いうちに柄杓でも作って置こう。
いつまでも手で掬っては飲むのはかわいそうだしね。
水場は十五箇所作った。
水を持ち運べるように『土形成』で桶も作ったが、重すぎて女児一人では持てない物になってしまった。だが改良は後回しだ。
水場のうち一カ所はオレとラーナが使う用に作った。
さすがに元王族のラーナを子どもたちと一緒に水掬いさせるわけにはいかない。
少し高い段差を作って小さな皿を設置。コップも用意しておいた。
子どもたちにはこの水場は使わないようにと言い聞かせておく。
水場を作ったことにより子どもたちからの見る目が変わったように思う。
「みんな私たちが保護者だってわかってくれたのでしょうか?」
「子どもには言って聞かせるより行動で見せた方がわかりやすかったみたいですね」
子どもたちを見渡しながらラーナが訊いてきたので肯定する。
「次は食事です。みんなお腹が空いてるみたいですから」
「食事・・・。でも食料なんてどこで調達するのですか?」
「もしかしたらラーナには忌避感があるかもしれませんが、魔物肉を狩ってこようかと思っています」
お金も無く、買える場所もないので選択肢は無い。
しかし、今気がついたがもしかしたら王族のラーナには忌避感があるかもしれないのであらかじめ聞いてみる。
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございますわ」
心配は杞憂だったようだ。
ラーナの話ではスタンピードのせいで世界的に食糧難が起こり、たとえ王族でも魔物肉を食用に採用していたらしい。
それなら安心して狩りに出かけられそうだ。
そのあとも、治療が必要な子どもに回復魔法をかけたり、いくつかの必要な建物を作っておき、ラーナとルミにいくつかの仕事を任せ、オレは一人狩りに出かけた。
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