第十七話 大きな決断と覚悟
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「おそらく彼女たちは戦災孤児です」
「孤児、ですか?」
「はい。シハ王国は7年にも渡ってスタンピードと戦ってきました」
オレが放浪の旅人で世間知らずだと話しているのでラーナはかなり掘り下げて教えてくれる。ラーナの気遣いは本当に助かる。
「スタンピードは倒しても倒しても終わりの無い災害です。国を守るため男はほとんどが徴兵され戦果の中帰らぬ人となりました。少なくなった戦力を補充するため今度は女が前線に立つしかありませんでした。親を失った子は多いと聞きます」
すさまじい話だ。
予想の範疇ではあったが、スタンピードはモンスター全てを討伐し終えても、数日も経てばまた押し寄せてくるものらしい。
国は徐々に疲弊していき、モンスターは減るどころか増え続ける。
「フォルエン王国は今シハ王国の避難民で混乱しているでしょう。孤児を受け入れる余裕はないと思います」
「しかし、女児しかいなかったのはなぜですか? 戦災孤児は男児も多くいたはずでしょう?」
まさか子どもだろうと男子はすべて前線に投入していたわけではない。
まだ幼く武器すら満足に持てない子どもだっていたはずだ。
「男児は将来戦力になります。孤児でも国が無理をしてでも引き取るはずです」
「フォルエン王国は戦力を欲しているわけですね…、女児では将来的に戦力になりえないと」
「そうです」
しかしそれは変だ。
この世界は、この世界には“職業”がある。
モンスターと戦う力がある。女だからと戦えない理由にはならないと思う。
「万人が職業覚醒者になれるわけではありませんし、もし職業に覚醒しても男と女では戦力に大きな差がありますから」
「職業覚醒者、ですか?」
聞きなれない単語に思わず聞き返してしまったが、ラーナは職業覚醒者についても丁寧に教えてくれた。
「職業覚醒者とは職業を持った人の事を指します。職業を持つと身体能力が非常に高くなりますから戦争ではとても重要視されています。ですが、職業が芽生える確率は百人に一人と言われているのです」
ラーナの答えに驚く。
職業の恩恵を誰よりも享受している俺にはそれがどんな意味を持つのかよく分かった。
そして、やはり自分のようにお手軽に“職業”を獲得できるのはおかしいのだと納得した。
「昔はもっと多かったようなのですが、近年では職業覚醒者は減少傾向にあるのです。それに、男女の身体能力も戦争では大きな差です。女ではモンスターを一体倒すために男の五倍も犠牲が出ると言われています」
「だから女児だけをおいていったのですか…」
「孤児は、とてもお金がかかります」
そういえば先ほど国が無理をしてでもと言っていた。
考えたことも無かったけど孤児を引き取るというのはそれほど大変なことなのだろう。
「フォルエン王国からの迎え、来ると思いますか?」
「いいえ。おそらく来ないでしょう」
ラーナは自国が守れなかったせいで自責の念を感じているのだろう。
きつく口を結んでいる様子は、彼女たちを助けたい、けれど助けることができないのだと伝わってくる。
オレもこの選択肢はラーナを助けた時よりも深刻で、そしてとんでもない厄介ごとなのだと理解していた。
下手に手を出すと後悔するだけでは済まない。
賢い者なら、このまま彼女たちを見なかった事にしてフォルエン王国に向かうだろう。
だがしかし。
このまま彼女たちを見捨てていいのだろうか。
彼女たちは夜になればモンスターに襲われるだろう。助かる見込みは万に一つもあり得ない。
「ラーナ、フォルエン王国以外の国に行くことはできるでしょうか?」
「ハヤト様…。もうフォルエン王国しか国は残っていないのです。他の国々は全て…」
――なんてこった。
片手でこめかみを押さえ思わず空を仰いだ。
オレは本当にとんでもない世界に連れてこられたみたいだ。
ラーナの話を聞き、足で国々を見てきた限り多くの国がスタンピードで滅んだことはわかっていたけれど、もう本当に最後の一つしか国が残っていないのか。
そりゃあ二ヶ月も彷徨うはずだ。
そして同時に思う。
たとえフォルエン王国に入れたとしても時間の問題だろうと。
スタンピードが終わらない限りフォルエン王国も他の国々と同じ末路をたどる。
何とかして彼女たちを助けてやりたいが、安住の地はこの世に無いのだと改めて知った。
本当に、滅亡間近なんだな、この世界は。
視線を戻し、今度はラーナを見る。
ラーナも彼女たちと同じだ。
一度は自らの命を捨てて、オレに助けられた。でも、近いうちまたスタンピードが起こってフォルエン王国が滅亡した時、今度は助からないだろう。
結局、この世界ではちょっと助けようが、手助けしようが最終的には変わらない。
最後は全てを巻き込んで滅亡する。
こんな少女が死ぬところなんて想像もしたくない。
オレにできるだろうか…。
ステータスを開く。
職業欄にずらりと並ぶジョブの一覧。
本来こっちの人たちはほとんどの人がジョブを持っていないらしい。
ジョブの力はすさまじい。何も持っていない状況から二ヶ月のサバイバルを可能にしたほどだ。
ドラゴンも倒してしまった。
なら、何とかなるのかもしれない。
ならなければジョブを育てればいい。
幸いにも、何故かオレは職業が簡単に手に入る。
そうだな。できるのか。後は覚悟を決めるだけだ。
静かに深呼吸して、オレは決断した。
「? ハヤト様?」
「すみませんラーナ。相談があります」
「は、はい。なんでしょう?」
「彼女たちを助けたいと思います」
ラーナが目を見張る。
「自分はここに残ろうと思います」
「そんな! 無茶ですよ!」
ラーナの否定はよくわかる。
しかし、そんな縋るような顔をしていては説得できませんよ?
「自分には強力なジョブがあります。任せてください」
「ハヤト様……」
「ラーナも、助けたいのでしょう?」
「…そうです。できるならば助けてあげたいです。でも! 亡国の王女にそんな力は…!」
「なら、自分の出番です。超越者が皆を助けてあげますよ」
なるべく軽い口調で、何でもないことだと笑みを浮かべてラーナに言う。
「それで、申し訳ありません。ラーナを送り届けるのは少し待ってからに――」
「いいえ! ハヤト様が残られるのでしたら私も残ります!」
食い気味のラーナの発言に驚いた。
一緒にいてくれたらとは思っていたが王族がこんな何もない荒野に残れるはずがないと思っていたからだ。
「いいのですか? フォルエン王国に帰る場所があるのでしょう?」
「構いません。元々私は戦死したものと思われているはずです。今更向こうに帰っても煙たがられるだけでしょう」
ずいぶん思い切った発言をする。
それでも助かった命に喜んでくれる人もいるだろうに。
いや、亡国の王族は本当に居場所が無いのかもしれない。
とにかく、残ってくれるというのならうれしい限りだ。
「何もないところで申し訳ありません。ラーナのことは精一杯お守りいたします」
「はい。こちらこそわがまま言ってしまいました。御役に立てるかわかりませんがよろしくお願いいたしますハヤト様」
ラーナの笑顔につられて笑いながらしっかりと握手を交わした。
そうと決まれば。頑張らなきゃな。
今後のプランを練りながらラーナと共に子どもたちの元に戻った。
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作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!




