表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第一章 子どもたちの聖域

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/126

第十六話 取り残された二千人の幼女

 王都を脱出し、周囲にモンスターが居ないことを確認すると、改めて振り返り王都を見た。

 《聖静浄化》は無事使われ、“聖炎”はモンスターをすべて焼き払った。

 これでシハ王国国民が避難しているフォルエン王国にスタンピードが襲うことはないだろう。


「終わりましたね」

「あ、そうね。いえ! そうですね!」


 落ち着いてくると塔での事を思い出したのかラーナが狼狽しだした。


「落ち着いてください。大丈夫ですから」

「はうぅ…」


 ラーナからすると、あの状況で脱出できるとは思っていなかっただろうから、最後に心の丈をぶつけてしまったのだろう。

 恥ずかしそうに真っ赤になって縮こまる彼女は、さっきの気丈な姿とのギャップがすごい。

 端的に言えば大変魅力的だ。


 オレはロリコンに落ちるつもりはないので深呼吸して心を落ち着かせる。


「そろそろ立てそうですか?」

「ごめんなさい。もう少しだけ…」


 大脱出を経験してしまったラーナは腰に力が入らないようで再びお姫様抱っこ継続中だ。

 役得なので問題はない。


「この後ラーナは、いえライナスリィル様は――」

「ラーナで結構ですわ。これからも気軽にラーナとお呼びくださいませ」


 愛称は塔でだけと言われていたのを思い出したので訂正したら強い口調で押し切られてしまった。


「では、お言葉に甘えて。ラーナはこの後どうするつもりなのですか?」

「どう、とは?」


 うまく質問の意図が伝わらなかったようだ。

 オレが聞きたいのは、ラーナの今後の身の上だ。

 命を捨てる覚悟を持って塔に赴いた彼女に行く場所帰る場所があるのか聞きたかった。

 そう伝えると彼女は表情を引き締めた。


「まずはフォルエン王国に参ります。私はフォルエン王国へ避難中に舞い戻ってしまったので。向こうに住む場所は確保してありますから」

「そうですか。では送りますよ」

「え! よろしいのですか」


 オレの言葉にラーナが前のめりに聞いてくるが、こんな荒野のど真ん中に美少女置いてさよならなんてしないよ。

 それに、フォルエン王国には人が多くいるらしいのでオレの目的にも合致する。

 単純にラーナと別れたくないという気持ちもあるしね。


 ラーナがまだ歩けないとの事なので、お姫様抱っこのまま進路をフォルエン王国に向けて走ることにした。


「その、王都から脱出だけではなくフォルエン王国まで送っていただけるなんて――。ハヤト様、ありがとうございますわ」

「――どういたしまして。では、少し強めに走りますのでしっかり掴まっていてください」


 ラーナをお姫様抱っこしながら走り出す。

 両手が塞がっているが途中襲ってくるモンスターはすべて蹴り倒す。

 すべて一撃でノックアウトしてしまうほど、今の俺はパワーアップしているのだ。

 しかし一戸建てくらいの巨体をもつ“マンモー”という猪型モンスターと途中で出会ったがさすがにこいつは無視した。


《職業【剛脚士】を獲得しました》

《職業【武闘士】を獲得しました》


 思わず二つのジョブが手に入ってしまった。

 あと【運搬士】がもうすぐカンストしそうだ。

 お姫様抱っこって熟練度の質高そうだから、なのかな?


「ハヤト様は、私をお見送りしていただいた後、いかがされるのですが? 確か人を探しているとの事でしたが」


 腕の中のラーナが上目遣いで聞いてくる。


「そうですね、特には決めていませんが、路銀も無いので二の次になるかもしれません」


 元の世界に帰る方法探しと言っても困惑されるだけだろう。


「で、でしたら私の護衛を継続するというのはいかがでしょうか? 先ほどの依頼の報酬もまだですし、住むところなど一等地がご用意できると思います!」


 ラーナが言ってくれた提案は悪くない、いや正直ありがたい。

 地球への帰還はどう考えても一朝一夕で解決することではないし、長い目で見ると少し腰を落ち着ける必要がありそうだ。

 何しろまだこの世界の事も何にも分かっていないのだから。


「そうですね、では――――ん?」

「ハヤト様?」

「ラーナ、あれを見てください。人がいます」


 『長距離探知』に反応した人の数は大体二千人ほどいて、思わず話を中断させてしまった。

 しかし、どうもおかしい。

 ラーナもオレの視線の先を見て気が付いたみたいだ。


「子ども?」

「だけ…。みたいですね。こんな荒野の真ん中でどうしたのでしょうか」


 フォルエン王国にはまだまだ距離があるのに、荒野の真ん中で身を寄せ合っていたのは二千人の子どもの集団だった。

 見たところ大人はいない。【鑑定士】によると11歳から3歳の女児二千人と出た。

 女児? え、これ全員がか? しかも11歳から3歳児だけ?


「あれは11歳から3歳女児だけの集団のようです。これはいったい」

「私にもわかりません。…ハヤト様、少し彼女たちの元に寄ってはいただけますでしょうか?」

「もちろん構いません」


 オレだけでは状況が分からなかったためラーナに話を聞いてみたが、ラーナからしてもこれは異常事態だったようだ。

 オレの経験上でもモンスターに襲われていないのが不思議なくらいだった。


 進路を集団に変更して走る。

 ほどなくして到着するとラーナをそっと下した。


「失礼。あなたたちはこんなところで何をしているのですか?」


 ずいぶん直球に踏み込むラーナに子どもたちが少し怯えてしまったので一旦下がらせて、オレが話をすることにした。


「こんにちは。自分はハヤトっていうんだ。君たちがここにいるのが気になって様子を見に来たんだよ」


 目線を子どもたちに合わせて軽く自己紹介と目的を話して警戒心を解く。

 しかし、彼女たちは警戒よりオレの事が気になるみたいで何故か視線が集まってしまった。


「男の人?」

「うん。男の人」

「こんにちは?」


 うーん。話しかける対象者を絞ったほうが良かったかも。

 一人が答えたら私も、私もとたくさん話しかけられてしまった。

 警戒を解いてもらったのは良いけれど話が前に進まない。


「あなたたち、落ち着きなさい」


 そこへラーナが割って入った。

 不自然に、波が引くように女の子たちが黙り込む。

 何かのアーツだろうか?


「そこのあなた。何故ここにいるのか聞かせてくれる?」


 ラーナが視線を送ったのはこの中では一番年上で11歳と表示された子だ。

 オレにこんにちはと答えてくれた子でもある。


「えっと…はい…。…………私たちは、おいて行かれたの。です…」


 あまり言いたくなさそうだったが、ラーナとオレに視線を向けると、少しずつゆっくりと話してくれた。

 オレが他の女の子たちに「大事な話だから邪魔しちゃだめだよ?」と言って相手している間にラーナが話を聞く。

 オレも【斥候】の能力で子どもたちの相手をしながら話だけ聞いておくことにした。


「私、たちは、フォルエン王国に向かう途中でフォルエンの軍に遭い、ました―――」


 彼女が語ってくれたおかげで、彼女たち子どもの集団がどうして荒野にいたのか見えてきた。


 彼女たちはシハ王国の国民だったが例のスタンピードで王国が壊滅的被害を受け、フォルエン王国に避難していたらしい。

 当時は数万単位の大集団だったという。

 そこへフォルエン王国軍を名乗る集団がやってきて国の偉い人同士で何か話し合いがされたらしい。内容まではわからないようだが、想像はつく。

 数万の難民が来たら軍も動くだろう。

 結果として、いくつかのグループに分かれ、少しずつフォルエン王国に入国していったそうだ。

 そして最後に彼女たちのグループが残り、“迎えが来るまで待つように”と言われて軍は引き上げていったらしい。


「そんな話、有りえるのですか?」


 子どもたちの相手を中断しラーナに聞く。


「ありえない話、ではありません…」


 悲痛な表情のラーナが頷く。


「詳しく聞かせてください。場所を変えさせていただいても?」

「わかりましたわ」


 女児たちの前では言いづらい雰囲気を察して少し離れたところに移動する。

 何か、この世界特有な事情があるのだろうと思いながら、ラーナの話に耳を傾けた。


突然ですが、明日からの投稿時間を朝10時に変更させていただきます。

すみません、よろしくお願いいたします!


作品を読んで「面白かった」「がんばれ」「楽しめた」と思われましたら、ブクマと↓の星をタップして応援よろしくお願いします!


作者、完結までがんばる所存ですが、皆様の応援があるとやる気が燃え上がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お姫様抱っこって長時間やられるとしんどいらしいけどそこはジョブの力かね おんぶの方が楽らしいよ
[気になる点] こういう世界で切り捨てられる難民ったら、年寄りだよな? 次点で戦力にならない少年かな? 若い、というか幼いだけど、女の子なら将来の復興を考えて保護する、よなあ? そうしないということは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ