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終わらないスタンピード  作者: ニシキギ・カエデ
第四章 世界神樹ユグドラシル遠征

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第十話 『終わらないスタンピードの終わり』

読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

少し長め。



 思い出したことがある。


 スタンピードに良く効く特効をオレは見たことがあった。


 それはこの世界に来て初めて人と出会った日、ラーナが《聖静浄化》を発動し、シハ王国が“聖炎”に包まれたあの時。

 聖なる炎に触れた魔物は一瞬で致命傷を負い、そして浄化されて消滅した。


 あの時は自爆という手段ととにかく脱出しないとという危機感に考えている余裕は無かったが、思い起こせば消滅するというのはおかしい。


 しかし、それがおかしくないとすれば、つまりは魔物は聖なる炎による浄化で消滅させることが可能ということだ。


 遠征の途中、スタンピードが滅びた国の首都をまるで避けるように進んでた事を不思議に思っていた。

 あれはおそらく“聖炎”で浄化された土地を避けていたのだと思う。


 その証拠に“大帝国アシエリスラ”から北にある国々は《聖静浄化》を使っていなかったため、スタンピードがそのまま侵入、跡形も無く食い荒らされていた国もあった。


 邪竜王(エビルキングドラゴン)も浄化されるため“世界神樹ユグドラシル”へは近づけないと言っていた。


 つまり聖属性、それも“浄化”で魔物は滅ぼせる。

 そして“堕ちた世界神樹ユグドラシル”もまた魔物。

 聖なる浄化で消滅させる事が出来るだろう。


「――【騎竜槍楯勇者・聖竜属】第九の伝技『聖勇砲ホーリー・ライトニング』!」


 オレの身体から稲妻の巨大な光線が放たれ“堕ちた世界神樹”の枝に直撃する。

 自分の持っている中で一番聖属性の高い伝技『聖勇砲ホーリー・ライトニング』が数本の枝を消滅させた。


 よし!

 手応えを感じた瞬間、セイペルゴンが何かに反応した。


「ぬ!? 離れるぞマスター!」

「ぐっ!」


 一瞬で加速して離脱する。

 さっきまでセイペルゴンが居た位置には無数の枝が伸びていた。

 それは、紛れもなく“堕ちた世界神樹”の攻撃(・・)だった。


 しかもソレを皮切りにしてどんどん枝が増えていく。


「これはっ!」

「ぬう。新しい枝から魔物が生まれて居るぞマスター」


 セイペルゴンの言うとおり、枝がどんどんその数を増やし、新しく伸びた枝の先から新たに魔物を生み出していた。


 ――まずい!


 すぐに『円柱結界(セシリア)』を発動し、新しい枝を囲んで魔物が生まれ落ちるのを阻止する。

 『聖勇砲ホーリー・ライトニング』を使って枝を消滅させていくが、新しい枝が生える方が早い。


 “堕ちた世界神樹”の抵抗が激しくなっている。


「どうするマスター? 手に負えないぞマスター」


 セイペルゴンの言うとおり、手が追いついていない。

 しかもMPがガンガン減っている。

 そう何度も『聖勇砲ホーリー・ライトニング』を撃てば空っぽになってしまいそうだ。

 MPが底をつけばサンクチュアリを覆っている結界も、“堕ちた世界神樹”の枝を覆っている結界も消える。

 それは出来ない。


 どうにかして少ないMPで再生を止めるか、再生が追いつかないほど高威力の攻撃を叩き込む必要があった。

 しかし、どちらにしろ非常に難しい、再生するのが“堕ちた世界神樹”の能力ならば、おそらく止めるすべは無いだろう。

 なら、再生が追いつかないほどの強力な攻撃で消滅させるしかないが、オレの持つ最強の攻撃『聖勇砲ホーリー・ライトニング』でさえ枝数本しか消滅させることが出来なかった。


 何しろ対象が大きすぎて攻撃がまともに届かない。

 試しにセイペルゴンのブレスを使ってもらったが、やはり枝数十本を持っていくのが限界だった。

 それもすぐに再生され、より枝を増やすことになる。

 セイペルゴンのブレスでもこの結果、まったく足りない。


 ――どうする。


 考えを巡らせて、一つ作戦を思いついた。


「セイペルゴン。一度ラーナの元へ戻ろう」

「おう、マスター。作戦は思いついたのかマスター?」

「うん。あんまり巻き込みたく無かったけれど、これはオレの手に余る。応援を頼むよ」

「それがいいマスター。マスターは何でも一人で背負いすぎなんだ。もっと皆に頼った方が喜ばれると思うぞマスター」

「ああ。覚えておくよ。――セイペルゴン、一度離脱する。追跡者を一掃したあとすぐにサンクチュアリに戻る」

「了解したマスター」


 オレの指示にセイペルゴンが一気に加速し南の空に向かって上昇する。


「――『大聖光撃(ザ・ホーリー)』! 『巨壁(ジャイアン)結界(トバリアー)』!」


 振り向きざまに追跡者を『大聖光撃(ザ・ホーリー)』で一掃、『巨壁(ジャイアン)結界(トバリアー)』で行く手を阻んでおいて、そのままサンクチュアリの上空へ。


「少し離れる、セイペルゴンは好きに暴れていてくれ」

「おう。ちょうど腹が減ったところだ」


 セイペルゴンの背中から飛び降りて『瞬動走術』でバルコニーまで走る。


「ラーナ」

「ハヤト様…」


 バルコニーにはラーナがいた。システリナ王女とルミは居ない。きっと城下に降りて子どもたちの世話に勤しんでいるのだろう。

 数秒、ラーナと見つめ合う。

 相変わらず吸い込まれそうな瞳だ。


「何かあったのですね?」

「はい。“堕ちた世界神樹”を倒さなければ成りません。そのためにはラーナの力が必要です」

「ふふ、初めて頼りにされましたわ。そんな辛そうな顔をしないでください。私、ハヤト様に頼っていただけてすごく嬉しいのですから」


 ラーナの表情は穏やかだった。


「ハヤト様が私たちを守るために身を粉にしていたのをいつも心苦しく思っていました。ですから、ハヤト様に頼っていただけて、本当に嬉しいです」

「ラーナ――」


 そこに居たのは、出会ったばかりの守られるだけの姫では無く、自ら戦う決意を瞳に宿した強い王だった。


 感極まってラーナを抱きしめた。

 鎧を着ているので強くしすぎず、ただラーナの温もりを感じられるように。


「ラーナにそう言っていただけてオレも嬉しい。終わらせよう、この終わらないスタンピードを。力を貸してほしい」

「はい。もちろんです!」




 “堕ちた世界神樹”の周囲一帯に山となっていた魔物はすでに綺麗に無くなり、ぽっかりと出来た大きな空間になっていた。

 そしてその空間に進む大きな影が一つ。


 オレたちの国、“移動城砦サンクチュアリ”が“堕ちた世界神樹ユグドラシル”の前へ躍り出る。


 その正面門の上に立つ二つの影、――“移動国家シハヤトーナ”の王。


 【勇者】ハヤトと【聖女】ライナスリィル。



「ラーナ、準備は良いですか?」

「はい。いつでも」


 ラーナの声に不安や恐れの色は無い。

 かなり無茶なことを頼んだはずなのに、ラーナは快く頷いてくれた。

 本当に、頭が下がる思いだ。


「ではラーナ。儀式を始めましょう」


 そう言ってオレが取り出したのはこの国の核。


 ――“シハ王結晶”。


 この世界を平和に導くための最終手段。


 オレの手に持つソレに、ラーナがそっと手をかざす。


「――始めます。——私、シハヤトーナ聖王国聖女ライナスリィル・エルトナヴァ・シハヤトーナが命じます。【聖女】よ、“シハ王結晶”周囲一帯(・・・・)に《聖静浄化》を発動する。儀式陣を構築せよ」


 ラーナと会った日、ラーナが発動した《聖静浄化》。

 強力な魔物消滅を起こす特効攻撃で有り、国を滅ぼす最終手段でもある。


 発動すれば辺り一帯は聖なる炎に包まれ、魔物も、人も、そして国も纏めて滅ぼしてしまう“聖炎”。


 “堕ちた世界神樹ユグドラシル”には滅ぼし(・・・)が必要だ。

 だが、オレだけの力ではそれは不可能だった。

 だから、強力な浄化が必要だ。


 “シハ王結晶”は歴代のシハの王たちが土地を活性化させるために育てた強力な土地そのものの結晶体。

 “シハ王結晶”から生み出される“聖炎”は土地そのものを浄化させ、跡地にすら魔物を寄せ付けない。


 ラーナの儀式の言葉に反応し、“シハ王結晶”が淡い緑色の光を放ちだす。

 結晶の中心地に小さな魔方陣が生まれ、魔力があふれ出そうだ。

 それは以前見た、シハ王国でも出来事の繰り返し、このままではサンクチュアリは“聖炎”に包まれるだろう。



 それを確認してセイペルゴンに指示を出す。


「今だセイペルゴン! 放て!」

「おう! 『シン・セイペルゴン・ホリブロア』!!」


 聖竜帝セイクリッドエンペラードラゴンに進化してからスタンピードの津波を幾度と無く屠ってきたセイペルゴンのレベルはすでにカンストに到達している。

 その最強のドラゴンから放たれた暴虐と浄化の超高威力ブレスが一瞬で“堕ちた世界神樹”の幹に突き刺さった。


 だが、足りない。威力が、範囲が、持続力が。

 ブレスは“堕ちた世界神樹”の幹に大きく穴を開けた。

 だが、それだけだった。すぐに再生の兆候が出始める。

 “堕ちた世界神樹”にはこのくらいの攻撃ではまったくダメージにならないのだろう。


 堕ちたとはいえ、元神を(めっ)するには何もかもがまったく足りなかった。


 だが、これでいい。

 ――オレの狙い、本命を届かせる、その道筋は作られた。


 セイペルゴンのブレスは周囲の魔物を吹き飛ばし、“城塞都市サンクチュアリ”と“堕ちた世界神樹”との間に一瞬だが道を作る。


 オレは手に持つ、今にも“聖炎”を吹き出しそうな“シハ王結晶”を振りかぶる。


「これで、終わりだ! 世界神樹! スタンピード!」


 そしてオレは、“聖炎”を吐き出す寸前の“シハ王結晶”を投擲(・・)した。


「――『水星槍(すいせいそう)』!」


 巨大な槍に見立てた十字架のような台座は見事に槍のアーツを発動させ、緋色に光るエフェクトを発しながら放たれた。“シハ王結晶”が一瞬で“堕ちた世界神樹ユグドラシル”のセイペルゴンが開けた幹の穴に吸い込まれ、突き刺さる。


 直後、“シハ王結晶”から魔方陣が広がり“聖炎”が発動した。


 ―――――!!!


 瞬間、大地が大きく揺れた。


 “聖炎”は“シハ王結晶”を中心に一瞬で広がり、“堕ちた世界神樹ユグドラシル”を包み込むように全体に広がった。

 さらに幹に空いた穴を再生しようとして“シハ王結晶”が“堕ちた世界神樹”の内部に飲み込まれ、内部からも破壊と再生を繰り返した。


「解除」


 同時に生まれ落ちるスタンピードを防ぐために展開していた『世界の狭間陣(ザ・ワールドバリア)』と『円柱結界(セシリア)』を解除すると、落ちてきた魔物が一瞬で浄化されていき、そのほぼ全てが空中で消滅する。


 消滅し、光の粒子となって飛び散る光景を、何故かオレは美しく感じた。


 ―――――!!!


 “聖炎”は魔物に成った“堕ちた世界神樹ユグドラシル”にも有効だった。

 無限に生えていた枝は伸びなくなり、紫色の木部は浄化され、だんだんと薄く、白く、変化していく。

 枝から落ちていた魔物の勢いもほぼ止まった。

 少し落ちてきては居るが、地面と接触する前に浄化されて消滅してしまう。


 “聖炎”は止まらない。

 全てを浄化し尽くすまで、数日燃え続ける。

 シハ王国もそうだった。


 オレたちが“堕ちた世界神樹ユグドラシル”に“聖炎”を使って4日目、とうとう魔物になってしまった堕ちた神は浄化され―――消滅した。




 終わらないスタンピードは、―――終わったのだ。



少ないですが第四章『世界神樹ユグドラシル遠征』偏、これにて終了と成ります!


誤字報告もたくさんいただいてありがとうございます! ありがとうございます!

楽しんでいただけたらうれしいです!


今回も幕間は入れない予定で明日、10月20日より最終章を載せる予定です。

もう終わりが近づいてきましたが、最後まで読んでくださるとうれしいです!

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― 新着の感想 ―
水星槍?彗星槍じゃなくて? 誤字報告じゃないのは意図的なのか誤字なのか不明なため
[一言] 「水星槍!」 ーーパリン 「あっ」
[良い点] 聖静浄化は自爆技という印象があったのでこの使い方は完全に予想外でした。 [気になる点] 聖勇砲が連発出来ないことが問題なのなら、魔流の手術でMPを吸収すれば無限に聖勇砲を撃てませんか。 …
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