第八話 騎王槍楯勇者“人竜一体”
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黒き淀みの中心地、スタンピードの溢れる口にそれはいた。
“魔眼”の『分析』『千里眼』を使って目視で確認する。
分析結果は――“堕ちた世界神樹ユグドラシル・世界滅亡”LV100。
予想していたとは言え、その分析結果に怯んだ。
堕ちた世界神樹ユグドラシル。
何から堕ちたのか、その姿は神と呼ばれる神々しい存在とは遙か無縁に見えた。
樹高200m、葉は無く枯れ木の枝が虚しく空に伸びており、樹皮は剥がれて濃い紫の木部が露出している。
足下、いや下半分は膨大な魔物の山が形成され、その魔物の山の中心地に埋もれるようにして“堕ちた世界神樹”が聳えている。
そして、絶えず枯れ枝から膨大な魔物が生まれ落ち、スタンピードとなる魔物が量産されていた。
「あれが、本当にわたくしたちの神なのですか?」
「間違いありません」
「そんな…。この目で見ても信じられません…」
その光景を城のバルコニーから見たシステリナ王女は呆然としながら震え、オレの服の端を掴んだ。
ラーナも今まで信仰してきた神のなれの果てに大きく動揺している。
「まず、あの枝をなんとかしなければなりませんね」
この世界の人間では無い自分にとって、神への思い入れは少ない。
だから冷静にスタンピードを発生させている枝をなんとかしなければと意見を述べた。
しかし、その意見は彼女たちの耳に入らなかった様子だ。
それほど、ショックが大きいのだろう。
だが、今はショックを受けている場合では無い。
「ラーナ、システリナ王女。しっかりしてください!」
オレの声にハッとして二人の顔がこちらを向く。
「ここはもう敵地です。アレはもう世界神樹ユグドラシルではありません。世界神樹のなれの果てでありスタンピードを生み出す元凶、魔物です! ここでスタンピードを止めなければ、世界は本当に滅亡してしまいます!」
『静聴』を使って発破を掛ける。
彼女たちにとって、神が死んだというのはどれほどの衝撃だったのかオレには想像も出来ないけれど、ここはすでに敵地のど真ん中であり、回りは魔物が積み上がったスタンピードの大地で覆われ、オレが取り除かなければ移動城砦とて動けなくなってしまうような魔境の極地だ。
彼女たちにはとても酷かもしれないけれど、悲しむのは、動揺するのは後でも出来る。
今は、あのスタンピードの元凶を一刻も早く止める事が重要だ。
そしてそのためには、二人が必要だ。
「ラーナ、君の力が必要だ。――システリナ王女、サンクチュアリの事、任せる」
いつもの丁寧なしゃべり方ではなく、世界を相手にする“勇者”としての言葉遣いを意識しながら二人に声を届けた。
「そうですね。…ふー、少し落ち着いてきました。もう大丈夫です」
「ご心配おかけいたしまして申し訳ありませんでしたわ」
彼女たちの目から動揺の色が消え、決意の炎が現れた。
「ラーナ、危ないことをさせます。でも必ずオレがラーナを守るから」
「ふふ。ハヤト様が守ってくださるなら、そこは危険な場所ではありませんわ。ハヤト様が必ず私を守ってくださると分かっていますもの。ですから、どこへでもついて行きますわ」
「――オレ、ラーナと結婚できて良かったよ」
「私もです。ハヤト様は世界で一番の、私の王子様ですわ」
感極まってラーナと抱きしめ合う。
ラーナと愛を囁き合ってお互いに勇気をもらい、ラーナの手を取った。
「うらやましいですわ…」
「ふふ、シアも、これが終わったらなでなでくらいならさせてあげますから」
「報酬が少なくありません?」
「私の夫になでなでして貰えるのですよ? 少ないはず無いでしょう?」
「はあ、恋は盲目とはよく言いますわ。ですが、楽しみにしていますわ」
よく分からないが二人の緊張や動揺はかなり解けたようだ。
これから世界の命運が決定する重大な決戦が始まる。
なでなでする権利くらいならいくらでも贈呈しよう。
「では、ラーナ。スタンピードを止めましょう」
「はい。ハヤト様。私たちで世界を救いましょう」
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
ラーナにいつもの挨拶をして、オレはバルコニーから飛び出した。
「セイペルゴン! 準備は良いか!」
「おう、マスター! いつでも行けるよマスター!」
城の近くで待機していたセイペルゴンの背中に飛び移る。
オレは先日ずっと育ててきた【上位騎手】がやっとカンストし、【騎手術師】に進化したことでセイペルゴンに騎乗出来るようになった。
しかもその後に続きが有り、
《規定量の経験値が蓄積されました。伝説職業【■■槍楯勇者・聖■属】から結合変化の要請がありました》
《【■■槍楯勇者・聖■属】【騎手術師】【聖騎士】【調教術師】【竜語完全理解者】【王太守】を結合させることで【騎王槍楯勇者・聖竜属】に変化しました》
《【騎王槍楯勇者・聖竜属】に変化したことで封印されていた能力の一部が開放されます》
【勇者】ジョブの虫食いだった部分がジョブニオンを経て開放されたのだ。
これにより、レベルが再びカンストして以前より増して騎乗しにくくなったセイペルゴンに難なく騎乗できるようになり、属性のおかげでオレが槍と楯を使うと加護を受けて聖属性の能力が乗るようになった。
そして、この聖属性というのが、このスタンピードを討滅するための鍵になる。
「――飛べ! セイペルゴン! 目標、“堕ちた世界神樹ユグドラシル”! この世界のスタンピードを止めるんだ!」
「まかせろマスター! 最強のマスターと我、セイペルゴンがいるのだ、負ける道理は無い!」
グッと力強く跳び立つセイペルゴン。
結界を抜けたところで翼を広げ一気に急上昇する。
一気に世界神樹を越す標高まで昇るとオレは伝技を発動した。
「――【騎王槍楯勇者・聖竜属】第二の伝技『人竜一体勇者変身』」
『人竜一体勇者変身』はオレとセイペルゴンが全身勇者装備に変身する伝技だ。
各種バフの強化はもちろん、緋技『稲妻の化身』とほぼ同じく身体中に稲妻が駆け巡って金色に光り輝き、強化された“竜牙槍”“竜頭楯”が自動で装備される。
それは騎竜であるセイペルゴンにも適用され、ドラゴンなのに強化された全身防具を装着されて黄金に輝き、右手に巨大“竜牙槍”を左手に巨大“竜頭楯”を装備している。
人馬一体ならぬ“人竜一体”の強化技だ。
準備は整った。
“堕ちた世界神樹”の周りを飛び回っている暗黒色の魔物がこっちに向かって集まってきている。
「――行くよ!」
オレの宣言と共にセイペルゴンが超加速で魔物の集団に突っ込んだ。




