第五話 遠征中でも日常を大切に
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
「ようこそいらっしゃいましたハヤト陛下、ライナスリィル陛下。ハンミリア商会一同、来店されるのを心待ちにしておりました」
そう言って出迎えてくれたのはサンクチュアリ唯一の商会、その会長であるミリアナ会長だ。その後ろに親族の二人が畏まっている。
しかし心待ちにしていたとは少し大げさだ。商会が開店したのは今日のはず。もっと言うならば開店して初めての客が自分とラーナなのだから。
「ふふ、ハヤト様のおかげで無事ハンミリア商会本店をオープン出来た事をお伝えしたかったのです」
「そういうことか。いや、こちらも見に来れなくて申し訳ない。少し忙しくて」
「いいえ、この緊急事態ですもの、仕方ありませんわ。それにしても……」
そこで一旦言いにくそうにミリアナ会長が言葉に詰まったのを見て察するものがあった。
「ああ、この口調はね、実はサンクチュアリではこっちが普通なんだ。あまり気にしないでいただけると助かるよ」
「そうでしたか、わかりましたわ。なるべく気にしないようにいたします」
ミリアナ会長がオレの口調にやりづらそうだ。
すまないとは思うけれど慣れて欲しい。
「もう、ハヤト様。せっかくのお出かけですのに私ではなく他の女性とばっかりお話なさって、拗ねますよ」
「おっと、すみませんラーナ。少し話し込んでしまいました」
ミリアナ会長との親しげな会話に少し拗ねたラーナが可愛いことを言ってくるので手を取って謝った。
「仲がよろしいのですね。嫉妬してしまいます」
「はは、ラーナとは夫婦だからね。恋愛結婚だし、アプローチはご遠慮してくださいね」
「…それは残念です」
本当に残念そうに肩を落とすミリアナ会長。
本心からなのか演技なのか、多分演技だと思うけれど、恋愛経験はあまり無い方なので自信が無い。
「さて、今日はラーナと客として来ました。商品を見せていただいてもよろしいですか?」
「もちろんですわ。フォルエン王国の特産品を山ほど運び入れました。ライナスリィル様も楽しんでいってくだされば幸いですわ」
「ありがとう。早速見させていただきますね、そこの棚に気になるものがありますの。ハヤト様行きましょう」
ラーナが手を引っ張っていくのに身を任せ付いていくと、そこは女性向けの美容品が置いてあった。
そういえば化粧品や美容に使うものは生きていくうえで必要ではないので仕入れたことは無かったなと思い至る。
ラーナは今15歳だし、化粧品は生きていく上で絶対に必要な物でも無いだろうと勝手に考えていたのだが、美容品を真剣に見るその表情を見て認識を改めた。
多分今までは自分を困らせないよう遠慮していたのだろう。
もっとこういう品を仕入れて置けばよかった。
ちなみにだが、ミリアナ会長は商会そのものを移店するにあたって、フォルエンで今まで稼いできた財をすべて物資に変えてきたらしい。
サンクチュアリに来るのがぎりぎりになったのはその辺の調整に時間が掛かったとのことだ。
しかし、そんなことをしても、サンクチュアリ内には売り口がいないだろうに大丈夫なのだろうかとも思ったが、本人曰く「利益を上げることが目的ではありませんもの」とのことだ。
何か別の目的があるらしい。
怖いのであまり聞きたくはないけれど。
まあ、できるだけ手伝いはしたいので、足が早い商品などはオレの『空間収納理術』を倉庫にして預かっている。
『空間収納理術』内では物が劣化しないからね。
あと、この機会に通貨を流通させようと思う。
実は通貨はもう作ってあるのだ。
今は王家とハンミリア商会しか使っていないけれど、子どもたちも通貨の概念は浸透してきた頃なので、徐々に国へ流通させていこうと考えている。
通貨を取り扱う商店が出来たので、子どもたちに通貨を使わせれば自然と覚えてくれるだろう。
そうして職人街の“雑貨工房通り”に立ち並ぶ店も、行く行くは有料化をしていきたいと思う。
閑話休題
「『ハチミツ由来の健康エキスでお肌プルプル』! これにします!」
ラーナは良い化粧品が見つかりホクホク顔だ。
何というか、見出しの説明が地球と変わらなくて少しおかしい。どこの世界でもこういうものは共通なのか。
ラーナの買い物が終わったので、次は自分が選ぶ番、と言っても何があるのかわからないので、まずは商店の中を見て回る。
ラーナと談笑しながらウインドウショッピングを楽しんだ。
本場の高級商店というのは新鮮で、何というか今までより充実したデートをしていると感じた。
ある程度絞り込めたのでオレが商品を選んでいるうちにラーナが先にレジへ向かう。
そこで、ラーナとミリアナ会長が何か話している声を“斥候”が拾ってきてしまった。
「とてもお似合いのご夫婦でうらやましいですわ」
「ハヤト様は最高の人ですから」
「本当に、わたくしたちハンミリア商会員一同そう思いますわ。ハヤト様に懇願し付いて来てよかったです」
「ふふ。それにしてもフォルエン王国随一の大商会、王家専属商会の名誉を畳んでまでシハヤトーナまで移住するなんて思い切りがいいですわね」
「ええ。時として商会とは全財産と命を賭け運命に抗わなければ生き残れません。“機を見るに敏”という言葉もあります。私たちハンミリア商会はシハヤトーナこそ、いえハヤト陛下に着いていくことが生き残る唯一の道だと判断しただけですわ」
「ふふふ。その判断、間違っていませんと宣言しておきましょう」
「ありがとうございます」
おお、ラーナがドヤ顔をするなんて珍しい。
話題の中心が自分だということが少し照れくさいけれど。
期待には応えられるよう全力でがんばるつもりだ。
それはそれとして、いつまでも聞き耳立てているというのは悪いので、今のうちに外の進行の様子をチェックしておこう。
問題が無ければラーナがレジから戻ってくるまでには済むだろう。
『瞬動術』でほぼ一瞬で城のバルコニーに跳び移ると『長距離探知』と“魔眼”で周辺確認して進行ルートと移動城砦のチェックを高速で行い、問題無しと結論が出た瞬間また『瞬動術』を発動してハンミリア商店に着地、何気ない顔で元の位置に戻った。
多分二人には気がつかれてはいないだろう。
ラーナが戻ってきて近づきにくい話題が終わったようなので自分も商品を手に取り買い物を済ませる。
商品の数が有限なので、今日買ったものはあまり多くない。
また時間があるときは足を運ぼうと思う、もちろんラーナとね。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ち申し上げておりますわ」
「ああ、近いうちまた来るよ。ミリアナ会長もなれない生活で大変だと思うけれどがんばって欲しい。何かあれば城に使いを寄越してくれれば対応するから」
「はい。お気遣いいただいてありがとうございますわ」
そう言ってハンミリア商会を出る。
このままラーナと二人で手をつなぎながらサンクチュアリ内の視察、という名の散歩デートへとしゃれ込んだ。
その後はイレギュラーもトラブルも無くデートを無事に終わることが出来た。
またチャンスがあればデートがしたい。
遠征中だけれど、できるだけ日常を崩さず大切にしていきたい。
そう思う。
誤字報告ありがとうございました! 「結界」を変換すると何故か「結果い」になってしまう…。今まで普通に「結界」に変換されていたのに…。今後注意します。
また評価をくださいました方ありがとうございます! ここ二日ほど凹んでいましたが元気が出てきました! 今後も頑張りたいと思います!




