美味しいホットケーキをあなたに
政志君が好きだ。
いつからと聞かれたら、小2の夏休みからずっと。
あの日、家に集まった幼馴染達に私はホットケーキを作った。
それまで何回か作った事があったので、一人でも自信があった。
でもホットプレートで焼き上がったケーキは無残に焦げて散々な出来上がりだった。
『こんなの食べられないよ』
『さすがにこれは…』
隆史と史佳の声に、私は泣きそうだった。
『温度を間違ったんじゃない?』
政志君だけは違った。
作り方の説明書を見ながら、ホットプレートの温度を下げてくれた。
『まだ材料あるよね?
次は上手くいくよ』
『…うん』
私はボールに残っていた生地を再び垂らし、タイマーを合わせた。
みんなはホットケーキを見つめているが、私は政志君の横顔から目が離せなくなっていた。
『美味しい!』
『最初からこうすりゃ良かったんだ』
二人の言葉より、
『上手に出来て良かったね』
政志君の言葉に顔が一気に赤くなった、好きになったのはそれから。
私達は高校生になった。
隆史と史佳、私と政志君、それぞれ別の高校に進んだが交流は続いていた。
政志君と史佳が付き合いだしても、ずっと。
家族から諦めたらと言われたが、どうしても出来なかった。
先に告白したら良かったのだけど、家が隣同士の2人が今まで付き合わなかったんだからと高を括っていた。
付き合いだしたと聞いた時は泣いた。
そして見守ると決めた。
勇気を出さなかった自分が悪い、そう納得した。
しかし隆史はそうじゃなかった。
嫉妬は狂気になって、史佳を口説き、とうとう…
私が気づいた時、既に手遅れだった。
『どうするつもり?』
史佳から隆史の子供を妊娠してしまったと言われ、どうするか聞いても悲劇のヒロイン気取りで話にならなかった。
だから史佳の親に教えてやった。
異変に薄々気づいていたのか、話は早かった。
隆史と史佳の親で話し合いが持たれ、両家は地元から消えた。
噂になるのを恐れたのだろう。
政志君は酷く傷ついた。
自分の親友と彼女の浮気、子供まで作っていたから当然だ。
私は政志君を支えた。
決して自分の気持ちを出さず、幼馴染として。
最近、ようやく政志君は前を見るようになった。
そろそろか。
「私の家に寄らない?」
学校の帰り私は政志君を誘った。
「いいの?」
「ホットケーキを焼くの」
「やった!」
楽しみにしててね、今日の為に銅板のフライパンで何回も練習したから。
必ず美味しいと言わせてみせる。
そして今度こそ言うんだ。
ずっと好きでしたって…




