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芋くさ令嬢ですが悪役令息を助けたら気に入られました  作者: 桜あげは 
本編

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45/120

44:芋くさ夫人、ワイバーンをもらう

 辺境スートレナの領主の屋敷に、ナゼル様が雇った護衛の人がやって来た。

 どうやら、ジュリアン様の紹介みたいだ。辺境勤務希望だなんて珍しいな。

 一人行動しがちな私のために、外出時に同行できる人間をとナゼル様が付けてくれた。

 

「トッレ・トルベルトであります!」

 

 暗めの茶髪に、深い森を思わせる緑色の瞳。そして、筋肉に覆われた大きな体!

 ……ものすごく、強そうだ。

 

「アニエス、トッレは王都で騎士として活躍していたんだよ。街に出たいときは、必ず彼を連れて行ってね」

 

 ナゼル様から圧を感じた私は「はい」と素直に頷いた。今まで、勝手に近場を出歩いていたので、とても心配されているのだと思う。

 というわけで、ナゼル様が仕事の間、私はさっそく外出することにした。

 実は、前々から行きたい場所があったのだ。

 

「今日は騎獣小屋へ向かいます!」

 

 街の中心……砦のすぐ近くに、普段私たちが利用する騎獣の小屋が建っている。

 毎回お世話になっている可愛いワイバーンも、そこにいた。

 馬車で特に問題なく道を進み、騎獣小屋に到着する。

 予め連絡をしていたため、飼育員さんが私たちを小屋の中に案内してくれた。

 

 トッレは騎獣に乗った経験があるそうで、嬉しそうに天馬がいる一角を覗いている。

 私は、いつもの青いワイバーンのもとへ向かった。

 この子はシャリテという名前の雌で、赤いワイバーンの雄と番なのだという。雄はカプリスという名前だそうだ。

 

「そうだ、タラン村の知り合いからアニエス様に預かり物が届いております。前に柵を直してもらったお礼だとかで、ここへ来られることを伝えたら、ぜひお渡しして欲しいと……」

 

 そう言って、飼育員さんは小屋の奥を指さす。

 

「こちらです。どうぞ、お受け取りください」

「えっと、この子は……?」

 

 目の前にいたのは、まだ若い桃色のワイバーンだった。目はコバルトブルーで、光の加減によって、尻尾がレモン色に輝いている。

 

「訓練を終えたばかりのワイバーンです。シャリテの産んだ子ですよ」

「可愛い……」

「アニエス様はシャリテを気に入ってくださっていますが、彼女は砦の騎獣ですし、ワイバーンの番は引き離せないので」

 

 私は飼育員さんの言葉に頷いた。

 皆が使う騎獣を奪うつもりはないし、ワイバーンの生態で一度番になった雄と雌を引き離せないのは知っている。

 それに、シャリテが首を上下に動かし、私に桃色のワイバーンの方へ向かうよう促したのだ。

 

「いいの?」

「はい、良ければ名付けてやってください。ちなみに雄です」

「それじゃあ、『ジェニ』はどう?」

 

 桃色のワイバーンに近づいた私は、窺うように顔をのぞき込む。

 ワイバーンはキュルルと鳴いて、頭を上下に動かした。これは肯定の意を表しているのだそう。ワイバーンはとても賢い騎獣なのだ。

 

「良かった。ジェニ、これからよろしくね」

 

 ジェニはブンブンとまた頭を動かした。

 

「屋敷の厩舎を整備しますので、それまではここでジェニを預かっていただけますか?」

「もちろんです。よろしければ、騎乗の講師をおつけしましょうか?」

「えっ?」

「ここスートレナでは、女性も騎獣に乗ることが多いのです」

 

 それは、願ってもない提案だった。実は、前々から自分で騎獣に乗れればなあと思っていたのだ。

 

「嬉しいです、よろしくお願いします」

「ワイバーンは天馬よりも騎乗時の癖が強いですが、慣れれば平気ですよ」

 

 はっはっはと朗らかに笑う飼育員さん。当然、彼もワイバーンに乗れるのだろう。

 

「ちょうど、最適な講師がおります。今は小屋の外で天馬を散歩させているはず……」

 

 そう言って、飼育員さんは裏口から小屋を出る。私も彼の後に続いた。

 

「おーい、ちょっと騎獣の講師を頼みたいのだが」

 

 広場で天馬と歩いていたのは……

 

「あれ、トニー?」

 

 辺境へ来た当初、ナゼル様に意地悪をしてきたトニー・フォーンだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あわわ、ナゼル様がトニーに嫉妬しちゃう・・・
[一言] 近々、モブ…他人視点か?
[一言] わぁ〜! 桃色のワイバーンで、女子力〜淑女らし〜! ……って騙されませんぜ!?
感想一覧
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