113:芋くさ夫人の娘の縁談(ルーナ視点)2
いつ見ても華やかな王城の一室に、お見合いの場が用意されている。
普通よりも少し豪華な食事の席に、王妃殿下が自らルーナたちを案内してくれた。
スラリとした身体に凜々しい話し方、珍しい魔法。王妃はルーナの憧れでもある。
今日は父はいなくて、母だけが一緒。向こうも保護者は王妃だけだ。
(国王陛下まで現れたら、食事が喉を通らなかったわ)
母は精神が図太いので、国王や王妃と仲良くやっているけれど、小心者のルーナには無理である。
「アニエス夫人、ルーナ嬢、顔合わせを承諾してくれてありがとう。だが、肝心の馬鹿息子がまだ来ていなくて……」
気まずそうな王妃に同情すると共に、ルーナはエルメについて思いを馳せる。
(ほら、やっぱり。エルメ殿下は私になんて興味がないんだわ)
好かれていると思っていたわけではないが、少し気分が落ち込む。
ルーナの力が必要云々に関しても、どうせ嘘だろう。
(きっとお父様との繋がりが欲しいだけね。嫌んなっちゃう)
ある程度状況を理解しているつもりだったが、心の中でどこか期待していた自分がいたことも否定できない。
そんな希望は今、綺麗に打ち砕かれてしまったけれど。
「そのうち来ると思うから、先に食事を始めてしまおう」
気まずい様子の王妃が提案し、母もルーナも頷く。
使用人たちが前菜を運ぼうと動き出したそのとき、扉が開いて一人のきらびやかな青年が入ってきた。
父親譲りの金髪に母親譲りの薄紫の瞳。背は高くスラリとしていて、申し分のない美青年に見える。子供だった時とはずいぶん様子が違っていた。
しかし、キラキラした外見に反して、彼の顔は無表情で感情が読めない。
どうせ、顔合わせが不服とか、そういう感じだろうとルーナは結論づけた。
(嫌なら最初から、婚約の打診なんて送って来なきゃいいのに。そうしたら、私だってスートレナから遥々王都まで出向いたりしないわよ! というか、「転移」が使えるなら、迎えに来てくれてもいいくらいだし。ここへだって一瞬で移動できるでしょうに)
ルーナのエルメに対する印象がどんどん悪くなっていく。
対するエルメは形式的な挨拶だけして、さっさと席に座ってしまった。
なんともいえない沈黙が落ちる中、食事が運ばれてくる。
勇敢にも最初に口火を切ったのは王妃だった。
「ごほんっ、息子のエルメだ、今年で十七になる。最近まで私の祖国へ留学していた」
「こちらは娘のルーナです。しっかりしていて、いつも私を助けてくれるんです」
ニコニコ答えながらも、母はルーナやエルメの様子を観察しているように見える。
エルメの様子を見て、何か思うところがあったのかも知れない。
食事が始まるも、エルメから何かを話すことはなかった。ルーナも同様だ。
(こんな失礼な人に何を言っても無駄だし)
王妃も母も、顔合わせが上手くいっていない事態に気付いているみたいだった。
食事が終わり、その場で解散することになる。
本当は「あとは若いお二人で」となるところだろうけれど、親同士が「これはないな」と判断してくれた模様。助かる。
母もルーナも立ち上がり、お礼を言って部屋を出ようとした。
しかし、解散する直前になってエルメがガタリと席から立ち上がって、すたすたとルーナの方へ歩いて来る。
「こいつ、借りるぞ」
「へっ?」
母が「はい」とも「いいえ」とも答えないうちに、エルメはルーナを引っ張って部屋を出て行ってしまった。




















