111:その後の俺ちゃん
灰色の石壁が立ち並ぶ、寒々しい修道院の一角で、ロビンは一人下を向きうずくまっていた。
(うう、なんで、俺ちゃんがこんな目に! それもこれも、ナゼルバートのせいだ!)
刑を言い渡されてすぐ、国の北端にある修道院へと移送されてしまったロビン。
彼にとっての悪夢の始まりだった。
ここ、センプリ修道院は知る人ぞ知る、女人禁制の厳しい修道院だったのだ。
どうして女人禁制なのか。それは、あらゆる煩悩を滅するためである!
修道院の男たちは、日々己の肉体と精神を鍛え、時には仲間同士で肩を寄せ合い、険しい環境下でひたすら徳を積んでいた。
そんな中に、煩悩の塊で女の子が大好きなロビンが、一人放り込まれてしまうなんて、地獄である。
指定された白と濃紺の、おしゃれもへったくれもない衣装を押しつけられ、難しすぎてよくわからない祈りの言葉を毎日強要される。
居眠りは許されず、バレると食事を抜かれる。
反抗したら、めちゃくちゃいかつい鬼のような巨漢の修道士が来て、教会の裏庭で脅された。
貞操の危機を感じ、怖さのあまり、ちびりそうになったのは内緒だ。
得意の魔法も、男相手には使えない……というか、使いたくない。同性の心の内なんて、見たくもないのだ。
そのほかにも、質素な食事がまずすぎたり、ベッドが固すぎたり、部屋が狭すぎたり、野郎と相部屋だったりと不満点は沢山あった。
しかし、質素な生活環境に関して言えば、下層庶民出身のロビンは割と慣れっこだ。
男爵家に拾われるまでは、ここよりも酷い環境で暮らしていた。
刑を下した王族や貴族の連中には、予想できなかったことだろう。
暗い笑みを浮かべると、すぐ近くで怒鳴り声が響いた。
「見つけたぞ、ロビン! 貴様、こんな場所に隠れていたのか!」
「げげっ! バレた! 鬼修道士!」
「この時間は体術訓練を受けろと言ったはずだ! 煩悩を捨てて清貧に生きよ!」
センプリ修道院の修道士は、いざというときに教会や国を守るため、日頃から体を鍛えている。中には、騎士に匹敵する戦闘力を持つ者もいた。
(でも、俺ちゃんは、体術なんて極めたくなーい!)
ロビンは全速力で廊下を走ったが、あっけなく捕まり、ズルズルと訓練場へ引きずられていった。
楽をすることを至上とし、チャラチャラ生きてきたロビンは、運動神経があまりよくない。走るのも遅いし、体術もできない。
無理矢理連れて行かれた先は、むわんとした熱気の漂う、男臭い屋内訓練場だった。
ふんどし姿になったムキムキの修道士たちが汗を流し、湿った体で一生懸命体術訓練に取り組んでいる。
ちなみに、ふんどしとは、遥か東方の異国から伝わったという下着の一種だ。
「フーンッ!」
「テイヤーッ! タァーッ!」
気合いの入ったかけ声が響く中で、ロビンもふんどし姿になれと強要される。
「い、いやだーっ!」
「問答無用! 犯罪に走るような、腐った性根をたたき直せ! 俺が相手になってやる!」
「ひぃーっ!」
服を脱いだ鬼修道士の巨体が迫ってくる。
「俺ちゃん、急な腹痛が……」
「知らん! 改心せよ!」
「ギャァー! 放せーっ!」
ロビンを引きずって走ったからか、中年の鬼修道士はすでに汗をかいており、触れた部分がベタベタヌルヌルする。
(男の汗なんて、気持ち悪いだけだっつーの!)
体術訓練など受けるものかと回れ右すると、むんずと体を掴まれ、ロビンは簡単に床に投げ飛ばされた。
「どうした、ロビン! 少しは反撃してみせよ!」
「無理ぃ~」
いつまでも起き上がらないロビンにしびれを切らせたのか、今度は鬼修道士が覆い被さってくる。
(確かに、体術訓練には寝技も入っているけどさぁ~。これは駄目でしょーーーー!!)
再び貞操の危機を感じるロビンだった。
口絵が公開されました!
http://bit.ly/2SinCor




















