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芋くさ令嬢ですが悪役令息を助けたら気に入られました  作者: 桜あげは 
番外編

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110/120

109:六年後の領主夫人

 辺境へ来て六年が経過した。

 私やナゼル様は、相変わらず充実した日々を送っている。

 

 不毛の地だった辺境スートレナは、今や「豊穣の街」やら「教育の街」やら、いい感じの呼び名がつけられていた。

 屋敷の人員も増え、砦の人材も充実し、魔獣被害も減っている。

 そして、街の至るところに領主夫人像が建てられているのだった。

 

 屋敷のテラスに出た私は、晴れた辺境の空を見上げる。午後の風が気持ちいい。

 すると、庭のほうから小さな足音が二つ近づいてきた。

 

「あらあら」

 

 私は声のするほうへ歩いて行く。

 

「お母様!」

「おかーたまっ!」

 

 テラスに飛び込んできたのは、小さな二人の子供たちだ。

 四歳の長男ソーリスと、三歳の長女ルーナ。私とナゼル様の子供である。

 彼らのあとからは、息を切らせたリリアンヌが走ってきた。

 

「す、すみません……っ、は、速い……っ、やっと、追いつけました……」

 

 実はリリアンヌを、屋敷で働く乳母として雇ったのである。

 改心し、証言に協力してくれた彼女は、施設で真面目に働いて罪を償い、予定よりも早く出所した。

 その後は、トッレの熱烈すぎるプロポーズを毎日受け続け、ついに折れて彼と結婚したのである。そんなリリアンヌにも、三歳の子供がいた。

 子供同士の年が近いし、トッレも屋敷にいるので、乳母をやらないかと誘ったところ、承諾してもらえた。

 リリアンヌ自身の子供も一緒に過ごしている。一人で三人の面倒を見るのは大変なので、保育係の使用人たちをつけて、皆に子供の世話や教育を任せていた。

 保育係のメイドさんたちは、全員子持ちや子供好きの人材なので頼りになる。

 ケリーもよく、二人の世話を焼いてくれた。

 

「お母様、お父様が砦から帰ってきたよ!」

「へんりーも、いっちょ!」

 

 どうやら、ナゼル様の帰宅を知らせるために、飛び出してきたみたいだ。

 ソーリスの魔法は土を掘ったり、土の質を変えたりするもので、ナゼル様の植物を操る魔法と同じく特殊な力だ。

 ルーナの魔法は「物質弱化」で私の魔法と真逆の性質を持つ。

 二人とも便利な魔法の使い手だった。

 

「そうなのね、教えてくれてありがとう。でも、リリアンヌを困らせちゃダメよ」

「はーい!」

 

 話をしていると、ナゼル様とヘンリーさんがやって来た。

 ヘンリーさんはこの数年間ですっかり太ってしまい、顔色もよくなっている。

 

(屋敷や街で、おいしいものを自重せずに食べた結果かしら)

 

 横幅は増えたけれど、目眩や貧血で倒れることもなくなったので、私はまあいいかと思った。

 

「アニエス、ただいま!」

「おかえりなさいませ、ナゼル様!」

 

 二児の親となったナゼル様は、今でも整った美貌を維持し続けている。

 近頃はその中に、艶やかな色気まで併せ持つようになってしまい、彼を前にすると未だにドキドキと私の鼓動は激しく脈打つ。

 

「お父様!」

「おとーたまっ!」

 

 飛びつく子供たちを軽々と抱え上げ、ナゼル様は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「今日は何をしていたの?」

「リリアンヌとお勉強!」

「とっれと、おうまー! くあとろも、いっちょ!」

 

 ソーリスは勉強をし、ルーナはトッレに遊んでもらったみたいだ。

 クアトロというのはトッレとリリアンヌの子供の名前である。ルーナと仲のよい男の子だ。

 子供たちをリリアンヌに返し、私とナゼル様は屋敷の中へ戻る。

 ちなみに、小腹を空かせたヘンリーさんは一人食堂へ向かった。


「今日も忙しそうですね、ナゼル様」

「アニエスもね。でも、俺のほうは、ここへ来た当初よりも仕事に余裕が出てきたよ」

「仕事量は変化していないような? 慣れの問題っぽい気がしますね」

「君との時間も増やせそうだね」

「嬉しいです」


 隙さえあれば、妻を抱きしめるようになったナゼル様。私もギュッと彼の首にしがみつくように腕を回す。

 さすがに六年も経つと、きちんと愛情表現をできるようになった。

 

 時が過ぎるごとに、どんどん甘々になってくるナゼル様の愛情は、とどまるところを知らない。

 

(ナゼル様が大好きだし、まったく問題はないのだけれど)

 

 家族が増え、ジュリアン様やポールも、屋敷によく顔を出しに来る。

 留学を終えたポールは、今はベルトラン陛下やラトリーチェ様のもとで働いていた。

 

(ポールの場合は別に目的がありそうだわ。ケリーは今も独身だから、チャンスを窺っているのね)


 水面下で、ポールとトニーの戦いは、まだ続いているようだ。


 とにかく今、私たちは辺境では皆が幸せに暮らしている。

 ナゼル様の妻として、これからも私は幸せを守り続けたい。

 おかげさまで、このたびオーバーラップノベルスf様より「芋くさ令嬢」の書籍化が決まりました。心より感謝申し上げます!!

 書籍は5月に発売予定です。

 詳細がわかりましたら、また活動報告にてお知らせいたします。

 http://blog.over-lap.co.jp/shoei_210401/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえばアニエスの魔法って詳細わかってたっけ? 調べようってなってからどんな魔法か出てないような……
[良い点] 完結、書籍化、おめでとうございます! 去勢されかけたロビンに笑い、完全に領主婦人の像が立ち並ぶ街に何も思わなくなったアニエスにも笑いました!
[良い点] 書籍化おめでとうございます!! 芋臭い古めかしいドレス&太もも出してた男性陣の衣装がどう描かれるかが楽しみですね。 [一言] リリアンヌ幸せになれてよかった!
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