86話 ラース、虐げた部下達に叛逆される
テイマーのエレンが、魔王軍幹部ラースを撃退した。
一方その頃、魔界にて。
ラースの屋敷の庭では、魔族の集団たちがグッタリとへたり込んでいた。
彼らはみなラースのもとで働いていた、下級魔族達だ。
「たすかった、のか……おれたち……」
彼らは自分の命があることに心から安堵の表情を浮かべる。
「みんな、お疲れ様。今日はもう上がって良いぞ。後のことは私に任せなさい」
下級魔族達を束ねていたのは、子爵級魔族の男だ。
ラースより彼らの指揮権をわたされている、いわば管理職。
「も、もう嫌だ……! おれはこんなところやめてやる……!」
魔族の一人が、涙を流しながら言う。
「お、落ち着け。もう少し頑張ろう……な?」
子爵が泣いている魔族を慰める。
だがあちこちで不満が噴出していた。
「ラースのヤツ、毎日毎日奴隷のようにこき使いやがって!」
「仕方ないさ、魔族は厳格な階級制度をとっている。ラースは最高階級、逆らうわけにはいかない、諦めるしかないさ」
子爵級の言葉を聞いても、しかし部下達は納得がいっていない様子だった。
「階級が上だからってあんな偉そうにしていいのかよ!?」
「あいつおれたちよりステータスが弱いくせに!」
そう、ラースは確かに最高幹部。
しかしその能力値は、下級魔族達とどっこいどっこいだ。
「ラース様には、部下の力を底上げし使役するスキル【支配】と、魔力がある限り、複数のゲートをほぼ無尽蔵に作れる【無限回廊】の超レアなスキルがある。だから幹部なんだ」
「納得いかねえ! スキルだけで優劣をつけられるなんて!」
「おれたちの能力をもっと上は評価しろってんだ! 絶対間違ってるよこんなの!」
と、そのときだ。
「何をしている貴様らぁ……!」
緊急脱出用のゲートが開き、そこからボロボロのラースが出てきた。
「ら、ラース様! ご無事でしたか」
子爵がラースに近づいて、肩を貸そうとする。
「触るなゴミがァ……!」
バシッ、とラースが子爵の手を払う。
「【全員そこにひれ伏せ】!」
ラースが支配の力を使う。
これは味方の力を上げるだけでなく、こうして部下達を無理矢理従わせることもできる。
力を与える代償として、体の自由を奪うという仕組みだ。
「な、何をお怒りになられているのですか、ラース様?」
子爵が恐る恐る尋ねると、彼はビキッと青筋を立てていう。
「貴様らァ……! よくもワタクシを差し置いて、真っ先に逃げたなぁ……!」
先ほどのエレンとの戦闘時のこと。
魔族達は、彼の作り出したゲートを使って、撤退してきたのだ。
「し、しかしラース様……支配の力がとかれ、弱体化した我々ではエレン・バーンズには勝ち目がありません。無駄死にさせるよりは撤退が賢い選択かと」
「うるさぁあああああああい! ワタクシに口答えするなこのザコどもがぁあああ!」
ラースは這いつくばる子爵の頭を踏みつける。
「うげっ!」
「貴様ら! 下の立場のものが! 幹部クラスに逆らうなど言語道断!」
何度も何度も、子爵の頭を踏みつける。
「貴様ら力なきものはワタクシたち強者の奴隷! 何も考えずただ命令に従っていれば良いんだよぉ……!」
子爵が踏みつけられている様を見て、部下達は怒りの表情をあらわにする。
「てめえ……! 調子乗りやがって……!」
「ば、バカよせ!」
下級魔族の一人が死力を振り絞って立ち上がると、ラースに殴りかかろうとする。
「【消し飛べ】!」
支配の力が発動し、下級魔族の体が消し飛ぶ。
「「「ひぃいいいいいい!!!!」」」
いきり立っていた下級魔族達。
だがラースの圧倒的な力に恐怖する。
「どうだぁ! 幹部の力思い知ったかぁ! 全員死ねと命じることも容易いんだぞぉお!」
がくがくがく、と下級魔族達が震える。
子爵級はその場で土下座する。
「ラース様! 申し訳ございません! 彼らを許してください!」
「いーや許さん! バカどもにはきちんと教育を施さないとなぁ……! 【消し飛べ】!」
近くにいた下級魔族達数十人が、一斉に消し飛ぶ。
すっかり、みなラースの力の前に怯えきっていた。
「先ほどはなぜかスキルの調子が悪かったが、ほら問題ない! ワタクシは最高幹部! 最強の魔族のひとりなのだぁ! 【消し飛べぇ】!」
さらにパァン……! と何十人かの魔族が消える。
「おやめください! このままでは我らはみな全滅してしまいます!」
子爵級がラースの足にしがみつき、必死になって止めようとする。
「ハッ……! だからどうしたぁ……?」
「どうした……ですって?」
「いいか貴様らのような底辺は、魔界のそこら中に蛆のようにいる。代わりはいくらでもいるのだ。やめたくばやめればいい……もっとも」
にやぁ……とラースは邪悪に笑う。
「ワタクシの元を立ち去ると言うことは、この世から退場することと同義だがなぁ……! あーっはっはっは!」
ラースは先ほど、人間にコテンパンにされたばかりだ。
自分が見下していた人間に負けたことで、自尊心をたいそう傷つけられた。
ゆえに、こうして部下達を使って、ストレスを発散しているのである。
「さぁ貴様ら何這いつくばっている……! さっさと今からエレンの元へ行ってリベンジマッチだ! 休んでいる暇など与えぬぞ! 口答えしたやつから殺してやるからなァ……!」
あまりの横暴っぷりに、子爵級は耐えきれず、声を荒らげる。
「なんて……酷い奴だ! おまえは、もはや魔族ではない! 悪鬼だ!」
子爵級が立ち上がり、拳を握りしめる。
「なんだぁ……? ワタクシに逆らうのかぁ……? いいのか、死ぬぞぉ……!」
「死など恐れはしない! 我ら魔族の誇りにかけて、同族を理不尽にもてあそぶ貴様を絶対に許しはしない!」
子爵は闘気で体を強化し、ラースに特攻をかける。
「無茶だ……!」「死んじまうよォ……!」「よしてくれリーダーぁあああ!」
その通り、このまま挑めば子爵級は死ぬ。
なぜならラースには支配のスキルがあるから。
……逆説的に言えば、支配のスキルさえなければ、ラースは敗北するのである。
「まったく、愚か者が多くて困るなぁ! 【死ねぇ】!」
ラースがスキルを発動させた、そのときだ。
「うぉおおおおお!」
「なっ?! バカな!? 支配の力が効かないだとぉ……!?」
「死ぬのはてめぇだぁあああああああ!」
子爵級の全力の拳が、ラースの頬に突き刺さる。
「ぶぎゃぁああああああああ!」
ラースはボールのように高く飛び上がると、地面に何度もバウンドして倒れ伏す。
「はぁ……はぁ……ど、どうなってるんだ……?」
殴った子爵本人が、一番驚いていた。
「あ、ありえないぃ……ワタクシの支配の力は、絶対のはずなのにぃ……」
その様子を、遠くで【彼女】が見ていた。
くすくす、と嗤いながら「ナイスタイミングだろ?」とつぶやく。
「今がチャンスだ! みんな立ち上がれ! 亡き同胞達の敵を討つんだ!」
「「「おうっ!」」」
子爵級に鼓舞され、部下達は発奮。
倒れ伏すラースに殺到する。
「やめろ! やめろぉおおおおお!」
だが部下達は今までの鬱憤を晴らすかのように、倒れているラースに殴る蹴るの暴行を加える。
「わた、ワタクシはおまえらの上司だぞぉ……! 今まで食わしでやった恩も忘れやがっでぇ……!」
バキッ! ドゴッ! グシャッ! バゴンッ!
「は、話し合おう! 話し合いの時間が必要だ!」
バキッ! ドガッ! ドスッ! ボゴッ!
「やべ……やべでぇ……やべでよぉお……もうゆるじでよぉ……」
部下達の怒りが収まることは決して無かった。
魔族の再生能力もあり、ラースはただ暴力の嵐を受けることしかできなかった。
特別なスキルがない彼は、ただの非力な魔族。
圧倒的数の前に、なすすべがなかった。
ほどなくして。
「…………」
瀕死の重傷を負ったラースを、子爵たちが囲んでいる。
「リーダー……これからどうしましょう……」
不安げな下級魔族達。
「幹部に手を上げたとなれば、報復活動は必定です」
「げ、げへへ……そうだぞぉ……!」
倒れ伏すラースが、邪悪に笑う。
「てめらはぁよぉ……! このラースの庇護下にあったから生かされてきたんだぁ……! ワタクシがいなくなった後、この弱肉強食の魔界で、生き延びれる確率はゼロだぁ……! ひゃーっはっはぁ!」
と、そのときだった。
「不安にならなくてもいいよ、君たち」
ふわり、と魔族達の間に、美しい白髪の女性が降り立った。
「だれだ、あんた?」
「僕はルルイエ。エレンの使いの者さ」
子爵達がざわめく。
「お、おれたちを殺しにきたのか!?」
「ふふ、まさかだよ。安心して」
ルルイエは微笑むと、下級魔族達に救いの手を差し伸べる。
「エレンは慈悲深い御方さ。そこのゴミにそそのかされ、無理矢理戦わされていた君たちを哀れんでくださっていた」
魔族達が首をかしげる。
「つまり……どういうことなんだ?」
「エレンの庇護下に入るなら、君たちに敵を退ける力を与えよう、ということだよ」
魔族達が動揺する。
「し、しかし相手は幹部クラスだぞ……?」
「関係ない。エレンがいればどんな敵にだって立ち向かえる、無敵の力を無限に与えてくださるんだよ」
「す、すごい……まるで……神じゃないか……」
打ち震える子爵級。
それに対して、ラースが鼻を鳴らす。
「はっ……ハッ! デタラメだ! あんなガキにそんな力は無い!」
ルルイエは冷たい目で彼を見下ろす。
「黙れ」
「ひぐッ……!」
ラースは一瞬で戦意を根こそぎ奪われる。
「さて、どうする君たち?」
「……是非もない。みんな、エレン様の傘下に入ろう」
魔族達は困惑している様子だった。
「このままでは幹部クラスに殺される。エレン様に仕え、護ってもらうのが一番いい」
「うんうん、賢い選択だね♡ さぁ、他のみんなも、仕えるべき主人に祈りを捧げるんだ!」
ルルイエに言われ、魔族達はみな頭を垂れて言う。
「「「エレン様! どうか我らをお助けください!」」」
ルルイエは満足そうにうなずくと、ぱちん! と指を鳴らす。
「な、なんだ……おれの体に、力が流れ込んでくる!?」
子爵級が戸惑う一方で、ルルイエは静かに微笑んで言う。
「君にはそこに転がっているラースの力を全部譲渡したよ」
「なっ!? そんなバカなぁあああああああああ!?」
「さ、ムカつく上司がやっていたように、やってごらん?」
元子爵級はうなずくと、支配の力を使う。
その瞬間、部下達の力が一気に底上げされる。
「うぉおおお!」「すげええ! なんてパワーだ!」「これなら負ける気がしないぜ!」
一方で、力を奪われたラースは、絶望の表情を浮かべる。
「そんな……ワタクシの力が……魔王様からたまわった……力が……」
「残念だけど、もうその力は君には無いよ。エレンに楯突いたのが運の尽きだったね」
がくし……とラースが頭を垂れる。
「さぁみんな! 強くなった君たちはもう自由だ! 何に怯えることもない!」
「「「うぉおおおおお!」」」
「君たちに自由を与えた御方の名前をたたえるんだ!」
「「「エーレーン! エーレーン! エーレーン!」」」
熱狂渦巻くその姿を、ルルイエは満足そうにうなずく。
「……よしよし、上手くいった。いったん力を返して正解だったね。やっぱり共通の敵がいた方が、人心を掌握しやすいよ」
ルルイエの前に、元子爵級がひざまずく。
「ルルイエ様! 私たちは何をすればよいでしょうか!」
「魔界でのエレンの拠点を作るんだ。いずれ魔王を倒すための足がかりとしてね」
「お任せください! エレン様のお役に立てるよう、一生懸命働きます!」
ルルイエは微笑むと、満足そうにうなずく。
「みなのもの! エレン様がこの屋敷にお泊まりになってもいいように、徹底的にゴミを掃除するぞ!」
「「「おう!」」」
子爵級達は目の色を変えると、まずはラースの屋敷の掃除に取りかかる。
ラースの屋敷は、魔界での拠点1号へと変貌した。
ゴミクズのように転がっていたラースもまた、元部下達の手によって、綺麗さっぱり消し去られたのだった。
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