83話 覚醒、【精霊の神子】
ぼくが第2王子セコンズを退けてから、2週間ほどが経過した。
この日は、ぼくとラン、そしてアーシアちゃんとともに、トーカの街を散歩していた。
「街にはもう慣れた、アーシアちゃん?」
「はいっ!」
彼女がここへ来てから、ぼくはなるべく一緒に出かけるようにしている。
アーシアちゃんは魔族であることを引け目に思っているらしい。
気づくと部屋の中で引きこもろうとする。
そんなの駄目だと思う。
何かに怯えてビクビク生きるなんて、間違っている。
だからこうして、冒険がない日は一緒に出かけている。
「エレンさんが一緒のおかげで、いっぱい知り合いができました! ありがとうございます!」
「いえいえ、どういたしまして」
彼女の笑顔が見れて、ぼくは嬉しかった。
困っている人に手を差し伸べて、笑顔にする。
アスナさんはそんなかっこいい人だった。
彼女に少しでも近づけているような気がして、それが本当にうれしいんだ。
「わたし、最近毎日が楽しいんです。でも……不安でもあります。このかけがえのない日々が、いつかなくなっちゃうんじゃないかって……」
町中で、アーシアちゃんが不安げな表情浮かべる。
懸念しているのは魔王関連のことだろう。
最近は魔王サイドに動きがないけど、たしかにいつ襲ってきてもおかしくはない。
「大丈夫だよ。平和な日々はこれからずっと続く。魔王の部下が来ても、ぼくが絶対守るから!」
と、そのときだった。
「ここにいたのかぁ゛ー……手間かけさせやがってよぉー……」
トーカの街の大通り。
正面から、奇妙な風貌の男がやってきた。
上半身裸。体中に切り傷がある。
鋼のような肉体を持っている。
そして彼から漂う、圧倒的なプレッシャー。
「魔族……じゃない、よね。結界が発動するはずだろうし……」
「あ゛ー……? てめえがエレンか」
「そうですけど……あなたは、誰ですか?」
にぃ……と彼は笑う。
「オレ様は【オロクァ】。勇者【オロクァ】だぁー……」
「な、なんだって!?」
ぼくでも話に聞いたことがある。
歴代最強の勇者の力を持ち、魔王を倒す最有力候補だって。
「なんだなんだ?」「勇者さまだって……」「うそ、なんでこんな田舎町に……?」
トーカの街の人たちが、ぼくたちに注目している。
「オロクァさん……この街に何の用事ですか? まさか観光……じゃないですよね」
彼からは尋常ならざるプレッシャーを感じる。
魔族と相対したとき……いや、それ以上のものを。
「ちげえにきまってんだろぉー……用事があるのは、そこの魔族のガキだー……」
「!?」
アーシアちゃんが怯えた表情になる。
「魔族……アーシアちゃんが?」「そんな……うそだろ……?」
街の人たちが、怯えた表情になる。
「魔族は悪だからよぉ゛ー……勇者様が倒しに来たってぇわけだなぁー……?」
「ま、待ってください!」
ぼくは両腕を広げていう。
「アーシアちゃんは普通の女の子です! 誰も傷つけてない! 傷つけようともしていません! なのになんで殺そうとするんですか!」
「ハッ……! んなもん魔族だからにきまってるだろぉー……?」
勇者とは思えない、邪悪な笑みを浮かべる。
「魔族は生きてるだけで悪なんだよぉー……生きてちゃいけない存在なんだよぉー……」
「そんなことない! 魔族がみんな悪なんてどうして決めつけるんだ!」
「あ゛ーもぉごちゃごちゃうるせえなぁ!」
パンッ! と勇者が柏手を打つ。
足下に魔法陣が展開、白い剣が出現する。
剣を握った瞬間、どす黒い色をしたモーニングスターへと変わる。
「オレ様はそこの魔族をぶっ殺す。邪魔するんだったらてめえもぶっ殺す」
『させません!』
バッ……! とランがぼくらの前に立つ。
『若様、ここはこのランに任せて、アーシア様とお逃げください!』
「で、でも……」
『大丈夫です。私とて神狼。勇者ごときに遅れはとりません!』
ダッ……! とランが高速でオロクァに接近する。
「ハッ! 威勢の良いメスじゃねえかぁ! おら死ねぇええ!」
ブンッ! とオロクァが持っていたトゲつき鉄球を、ランに投げる。
『こんな鉄の塊! 風の結界でふせいでやりますよ!』
ランの周囲に分厚い風のバリアが張られる。
だが鉄球はバリアを食い破ると、そのままランの身体に激突する。
『ぎゃんっ!』
「らぁあああん!」
ランは宙をクルクルと舞うと、地面へと落ちていく。
ぼくは彼女が激突する前に、素早くキャッチする。
『うう……面目……ございません……』
「待ってて! すぐに治療を!」
ぼくは不死鳥の癒やしの炎を使う。
鉄球によってズタズタに引き裂かれた傷が、みるみるうちに塞がっていく。
「大丈夫だよ、この炎は何でも治せるんだ。すぐに痛いのなくなるから……」
「ハッ! あめえあめえよ……!」
「なんだと!?」
しかし傷口が、また開きだしたのだ。
「なっ!? ど、どうなってるんだ!?」
「オレ様の武器は特別製なのよぉ……。この鉄球で傷つけた相手の傷は、どんな治癒の力でも治すことはできねえ……!」
だくだくと血が流れ出ていく。
「そ、そんな……」
「ひゃははっ! オレ様に楯突いたヤツらはこうしてみぃんなぶっころしてやるのよぉ……!!」
ぼくは焦る。
炎が通じないなんて!
駄目だ! ランが……ランが死んじゃう!
『わか……さま。逃げて……私を、置いて……』
「そんなことできるわけないだろ! くそっ! 血が止まらない……!」
ぼくは精霊さんに祈る。
けれど、力が宿ることはない。
「そんな!? どうして!」
『エレン、不死鳥の癒やしの炎が、この世で最高の治癒術じゃ。これ以上のスキルは、存在せぬ……』
「そんな……」
「ぎゃははっ! さぁエレンくんよぉー……バトルしようぜぇ……」
ランの傷を治さなきゃなのに、アーシアちゃんも守らないとイケナイ。
「…………ラン、待ってて。すぐに治す方法を考えるから!」
ぼくは風神の剣を抜いて、オロクァと相対する。
「いくぜオラァ……!」
オロクァは鎖を振り回すと、鉄球を勢いよく投げつけてくる。
あまりに早い鉄球、しかし神狼の疾風迅雷のスキルで脚力を強化して、回避する。
「避けて良いのかァ……! エレンくぅーん……!」
「! し、しまった!」
鉄球はぼくらを見ていた街の人たちにぶち当たる。
「ぎゃああ!」「腕がぁ!」「ひぃいいい!」
倒れ伏す街の人たち。
「おいおいエレンくぅーん! 駄目じゃあないかぁ……! てめえが避けたら町の人がどんどんおっ死ぬぜぇ……!」
またケガ人が……! くそっ!
治癒の炎も効かない、避けたら町の人に被害が!
どうする……どうすれば良いんだ……!?
「おら死ねやぁ……!」
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精霊使いへの敵対行動を感知しました。
勇者オロクァから【勇者の精霊核】を剥奪します。
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「あ゛ー……なんだぁー……?」
オロクァが鉄球を落とす。
「鉄球が急に重くなりやがったぁー……? いやぁー……これはオレ様が弱体化したのかぁー……?」
目を丸くするオロクァ。
チャンスだ!
ぼくはオロクァめがけて走り出す。
「まぁー……関係ねえなぁ゛ー……!」
オロクァが筋肉をボコッと隆起させると、鉄球を持ち上げる。
「しまっ……!」
「そぅら吹っ飛べぇええええ!」
鉄球をぶん投げてくる。
迫ってくるそれを、ぼくは風神の剣で受ける。
ガキンっ! と凄まじい衝撃とともに、ぼくは吹き飛ぶ。
「うわぁあああああ!」
『エレン!』
空中で不死鳥がぼくをキャッチする。
『エレン! 大丈夫か!? ケガは!?』
「だ、大丈夫……ケガはない。けど……剣が……」
作ってもらった武器が、粉々になっていた。
『精霊核が失われているが、やつが持つ本来の膂力が凄まじいのじゃ。スキルに頼らずこの怪力……おそるべし』
「ひゃはは! オレ様は竜と人間のハーフなんだよぉ……! スキルなんてなくっても最強なんだなぁこれがぁああああ!」
こいつもまた半魔だったのか……!
くそっ! なんてことだ!
「そぉらどうしたエレンくぅん……! 飛んで逃げる気かぁ!? そうはさせねえぞぉ……!」
オロクァは鎖を振り回す。
鉄球が周囲にいた人たちを、なぎ払っていく。
「ぐぁああああ!」「うわぁああ!」
周囲に血の雨を降らす。
街の人たちが倒れ伏す。
その中にはアーシアちゃんもいた。
「……なんで、こんな酷いこと、するんだ」
怒りで頭が真っ白になるなか、絞り出されたのは、そんな怒りの言葉だった。
「あぁ!? 理由なんてねぇーよボケぇ……!」
オロクァが邪悪に笑う。
「オレ様はただぶっ殺してえだけだ! 悪人だけじゃなくて、邪魔するヤツは全員ぶっ殺す! ただそれだけよぉおおお!」
「……そんな、ことで」
『え、エレン?』
ぼくはギュッと拳を握りしめる。
「そんなバカな理由で……人の命を理不尽に奪う。そんな人が……勇者だって……」
どくんっ、とぼくの身体の中で、何かが脈動する。
「許さない……ぼくは! 絶対! あなたを許さない!」
そのときだった。
『力が欲しいかい、エレン?』
そのときだった。
ぼくの目の前に、とても綺麗な女の人が現れる。
「あ、あなたは……? たしか前にあったことがある……」
「僕は精霊王。奇跡を司る、ま、女神様のようなものだよ」
「せ、精霊王!? る、ルルイエさんは精霊王だったの!?」
精霊王ことルルイエさんは、静かにうなずく。
『それよりエレン。力が欲しくないかい? 君が望めば絶大な力が手に入るよ……?』
「欲しい……力が。みんなを守る力、理不尽な暴力から守るちから……欲しい!」
精霊王は微笑むと、背後に回る。
そして、後ろから抱きしめてくる。
『僕と契約して、神子になってくれるかい?』
『は、母上! それは……!』
ぼくは謎の人物に尋ねる。
「そうすれば、あの勇者を倒せるんだね?」
『ああ。僕が保証しよう』
ぼくは、傷付いて倒れ伏すひとたちを見回す。
「わかった……力を貸して」
『了解した。さぁ僕と1つになろう。そして進化するんだ。神をその身に宿す存在……【精霊の神子】へと!』
そのときだった。
ドッ……! と凄まじい力が、ぼくの身体から湧き出てくる。
『あははっ! エレンと繋がっている! 深いところで僕たちは1つになって居るんだぁあああああああ!』
身体からあふれ出るのは、莫大な魔力。
『さぁエレン! まずは町の人のケガを治そう!』
ぼくはうなずいて、バッ……と手を上げる。
ぼくの肩から炎の翼が生える。
羽ばたくと、羽となってそれらが降り注ぐ。
「無駄だ無駄だぁ……! オレ様の傷は絶対に治らねえ……!」
『ははっ! ばかだね! エレンに不可能はないんだよ!』
降り注いだ炎の翼が、ケガ人達に降り注ぐ。
すると、たちまち彼らの傷を癒して行くではないか。
「なっ!? なんだってぇええええ!?」
オロクァが驚くなか、街の人たちが次々と傷を治していく。
「あ、ありえねえ! この武器の傷が治るわけがねえんだ!」
『ふふんっ、精霊の神子となったエレンは、今まで持っていた力をすべて底上げできるんだよ! さっすが僕のエレンだ!』
『ちょっ!? 母上! それはわらわのセリフ……!』
『さぁエレン! やっちまえー!』
ぼくはうなずくと、地上にいるオロクァめがけて、飛翔する。
「なっ!? は、速え……! よけられ……ぐぁああああああああ!」
一瞬でオロクァの懐に潜ると、その土手っ腹に一撃を食らわせる。
勇者は軽々と吹き飛んでいき、近くの建物の壁に激突する。
「そ、そんな……半竜のオレ様に……ここまでの大ダメージを与えるなんて……」
『はっはー! 精霊の神子は精霊王とリンクしているんだよ! その力はすでに人間を遙かに凌駕してるんだ! 膂力だって半竜ごとき比べものにならないんだよ!』
『うむ! さすがはエレンじゃ!』
『あ、こらカレン! 僕のセリフをとるなばかー!』
ケンカしているふたりをよそに、ぼくはオロクァの前に立つ。
「この街から出て行って!」
「調子乗ってるんじゃ……ねえぞごらぁああああああ!」
オロクァは鉄球を素手で掴むと、ぼくに向かって全力で投げてくる。
「ひゃっはー! 死ねぇええええ!」
ぼくは手を前に出して、正面から鉄球を受け止める。
「なっ!? そんなバカなぁああ!?」
「おかえしだっ!」
ぼくは彼がしたように、鉄球を投げ返す。
「オレ様よりも速い! なんてパワーぐぁああああああ!」
鉄球はオロクァにぶつかると、そのまま街の外まで吹き飛んでいく。
途中で鎖がちぎれ、鉄球とともに、オロクァは消えていった。
「ふぅー……なんとか、なった……」
ぼくは安堵の吐息をつく。
その前に、ルルイエさんが現れる。
「あーん! エレェエエエン! すごかったよぉおおおおおお!」
バッ……! とルルイエさんが飛びついてくる。
「させるかぁああああ!」
カレンが人間の姿になって、正面からキャッチする。
「ええい、離せカレン! エレンの勝利を祝してハグするんだ!」
「それはわらわの仕事じゃ! 母上はひっこんでおれ!」
ぎゃあぎゃあ、と騒がしくするふたり。
ぼくは後ろに、どさりと倒れる。
「え、エレーン! どうしたんだいエレーン!」
「ちょっと……疲れたよ……。ぼく……寝るね……」
街を救えた安堵と、戦いの疲労がどっと襲ってきて、ぼくは目を閉じるのだった。
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はぁんもう! エレン最強! エレン最高! やっと1つになれたねこれからずっとずぅうっと一緒だよ!
……さて、愚かな勇者へのペナルティを、実行しておかないとね。
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