74話 精霊王と魔族
ある日の早朝。
ぼくはランとともに、森の中を散歩していた。
「カレン、大丈夫かな」
『まったく、若様の従者が夏風邪を引くなど! 軟弱にも程があります!』
いつも元気なカレンだけど、昨日の夜から風邪を引いているのだ。
「不死鳥って自分の病気は治せないの?」
『そうです。癒やしの炎は他者にのみ使用できます。不死鳥は己が重傷を受けたり寿命を終えると一度身体が燃えて新たに生まれます』
死ねばたしかに病気も治った身体として転生できるんだって。
ただ夏風邪くらいでそのたび死ぬのはエネルギー(魔力)がいるので、やらないんだってさ。
『ふふふん、今日は邪魔な焼き鳥もいないし~。若様と二人きりでデートですよ! FU~♪』
ランがぼくの足にスリスリしてくる。
彼女と歩きながら、ぼくはぼんやりと考え事をしていた。
「…………」
『若様、近くに泉があるのです一緒に水浴びでも……若様? どうしました?』
「あ、ううん。ちょっと考え事」
というのも、先日ぼくが手に入れたゲートのスキルについてだ。
魔界への道を作るスキル。
これがあれば、いつでも魔族達の本拠地へと行ける。
今まで後手に回っていたけど、こっちから攻め入ることができるわけだ。
……でも。
『むー……若様。敵です』
「なんだって、いこう!」
『ああ、若様の正義感は素晴らしいと思いますが、二人きりの時間が終わってしまいましたトホホ……』
走って行くと女性が2人いた。
ひとりは幼い感じの女の子。
もう1人は大人のお姉さんって感じ。
そしてそのふたりの前に、二足歩行する人間大の魚がいた。
『若様、あの魚は魔族です』
「わかった!」
風神の剣を抜いて、ぼくは近づく。
魚の魔族が、女性を【襲おうとしている】。
大変だ!
「待て! 襲う気だな! その人から離れろ!」
ぼくはお姉さんの前に立ち塞がる。
「……ああ、都合が良いか」
お姉さんは何事かをつぶやくと、ぼくの腕にきゅっとしがみついてくる。
「頼む、助けてくれないか? 【僕】たちはこの悪い魔族に襲われているんだ!」
お姉さんが涙目で訴えてくる。
一人称が僕……ってことに違和感を覚えたけど、でも【普通のお姉さん】だ。
「わかりました! その子を連れて下がってください!」
お姉さんは倒れ伏す女の子を抱えて下がる。
「ラン! お姉さん達を守って!」
神狼のランがいれば、もしものときがあっても大丈夫だろう。
「……この犬、隠蔽スキルを使っているとは言え、僕に気づかないなんて、こんな鈍い犬で本当に彼を守れるのか?」
ぐいぐい、とランがお姉さんを連れて下がる。
「どうして魔族は人を襲うんだ!」
「ふ、ふん! そんなの決まってるだろ! 人間の分際で偉そうにしてるからだ! 良いかよく聞け!」
魚の魔族は大仰に手を広げていう。
「おれたち魔族は人間を遙かに凌駕する強大な力を持つ! 力を持つおれたちこそ、この世界の全てを支配するにふさわしい存在だからだ!」
ギリッと、ぼくは拳を握りしめる。
今まで魔族達の被害に遭った人たちの、悲しい顔が脳裏をよぎる。
「力を持つからって、他人の幸せや生活を奪っていい理由にはならないだろ!」
「うるせえ! サルの分際で、この子爵級魔族ジンギョ様に命令するんじゃあねえ!」
ジンギョが身体から水を吹き出すと、それは三つ叉の槍へと変貌する。
「オラぁ! 死……」
そのときだった。
ビクッ……! とジンギョが身体を硬直させたのだ。
「あ……あぁ……」
「?」
「今だよ! エレン!」
「え、えっと……うん!」
ぼくは風神の剣を手に、ジンギョに近づく。
「しまっ……!」
「せやぁっ!」
ジンギョの持つ槍ごと、ぼくは敵の胴体を真っ二つにした。
「な、なんて切れ味だ……巨大な湖の水を凝縮して作ったこの槍をも容易く切り裂くとは……! お、恐るべし……!」
胴を切断されても、ジンギョは生きていた。
「クソッ……! 覚えてろよ!」
ジンギョは身体を水に変え、地面にゲートを出現させる。
水がゲートに吸い込まれ、やがて閉じた。
「……やっぱり、魔族は悪、滅ぼすべきなの?」
「う……うう……」
背後で女の子のうなり声がした。
振り返ると、お姉さんと一緒にいた女の子が、辛そうな顔をしている。
「ケガしてるのかな? 大変だ!」
ぼくはお姉さんたちのもとへいく。
「ああ、エレン! すごかったよ!」
むぎゅっ、とお姉さんがぼくに抱きついてくる。
「君は本当に強いね! うんうん、さすがエレンだよ!」
「あ、あの……お姉さん、どいてください。治療ができないので」
「治療……? ああ……うん! わかった! 君がそう言うならどくよ!」
ニコニコしながら、お姉さんがぼくを解放する。
……けど、いつの間にぼくの名前を知ったんだろうか、この人。
ランからでも聞いたのだろうか?
ややあって。
「あの……たすけてくださり、ありがとうございました!」
【帽子をかぶった】女の子が、ぺこぺこと頭を下げる。
『さすが若さ』「さすがだねエレン! 不死鳥の癒やしの炎をこうも高レベルに操れるなんて! 本当にすごいよ君って子は!」
むぎゅーっとお姉さんがぼくをまた抱きしめて、よしよしと頭をなでる。
「あ、あの……苦しいです」
「ああごめんよごめんよぉ! 君を苦しめるつもりは毛頭無かったんだ! 本当にごめん、ごめんなさい!」
お姉さんは青ざめた顔をして、ぼくの前で土下座をする。
「あ、頭を上げてください! 別に苦しんでなんていませんから」
「あぁ! エレン! 君はなんて優しい子なんだい! 強くて優しくて超最高だね!」
ビシッ! とお姉さんが親指を立てる。
『この者、誰かに似ている気がしますね……誰でしょうか?』
「ああ、申し遅れたね。エレン、僕は【ルルイエ】。旅人さ!」
ルルイエさんがテンション高くそういう。
「助けてくれたお礼が是非したい! 一緒に街へ行ってお茶でもしないかい? いやしよう! 是非しよう!」
「あ、あの……ルルイエさん。お茶はあとで、それよりこの子の事情を聞いてあげたいんです」
魔族に襲われているってことは、何か事情があるってことだもんね。
「……あぁ、うん! わかった! 君がそういうなら従うよ! 黙って聞いてるね!」
ルルイエさんはニコニコしながら、ぼくの隣にちょこんと正座する。
「何かあったの?」
「えっと……その……な、なんでもないです」
女の子は首を振るって言う。
「なんでもないってさ! ほらエレン、お茶行こうよ!」
「いや、でも何もないなら襲われないだろうし……」
ルルイエさんは一瞬、すごい冷たい顔になった。
フッ……と吐息をつく。
その瞬間、どこからか突風が吹いた。
「きゃっ……!」
風は女の子のかぶっていた帽子を巻き上げる。
「ああ! なんてことだ! エレン! この子の頭を見たまえ!」
ルルイエさんが女の子を指さす。
そこにあったのは……山羊のような、ねじくれた角だった。
「これは魔族の角じゃあないか! こいつ人間のふりをしていたんだね! なんてやつだ! 子供のフリしてエレンを騙そうだなんて!」
「え? え? そ、そうなの……?」
女の子はブルブルと首を振る。
「ち、ちがいます! その……」
「さぁエレン! 魔族だやっちゃえ! さっさとぶっ殺そう! そして早く僕とお茶しよう!」
ぼくは風神の剣を手に持っている。
「ひっ……! こ、殺さないで……」
こんな年端のいかない女の子を……殺す?
「さぁさぁエレン! さくっとやっちゃいなよ!」
「……できない」
「え?」
「できないよ」
ぼくは風神の剣を仕舞う。
「ごめんね、怖がらせちゃって。ぼくはエレン、君は?」
「あ、アーシア……です」
魔族の女の子が、恐る恐る言う。
「そっか。アーシアちゃん、そんなに怯えないで。君をどうこうする気はないから。ね?」
ぼくが笑ってそういう。
アーシアちゃんはホッと安堵の吐息をつく。
「なぜだい、エレン?」
ルルイエさんが目を丸くしながら言う。
「そいつは魔族なんだよ? 人間をサルと見下し、簡単に殺したり傷つけたりする悪いヤツらじゃないか。どうしてさっきの魚みたいに切り伏せない?」
「……一概に、魔族が全部悪ってわけじゃ、ないと思うんだ」
アーシアちゃんはまだ子供だ。
ぼくら人間を前にしても、害意を向けることも、尊大な態度も取ってこない。
「たぶん、魔族も人間と一緒なんだよね。悪い人がいれば、穏やかに暮らしたいだけの人もいる」
魔族=悪と、ひとくくりにするのはいけないことなんだ。
「エレン……ああエレン。君はなんて博愛精神にあふれた、立派な人物なんだい」
滝のような涙を流しながら、ルルイエさんが言う。
「……わかった、君が望むのならそうしよう。君にあだなす愚かな種族を根絶やしにすることは容易いけど、望まないならしないよ」
「え、なにか言いました?」
ニコッと笑って、ルルイエさんが首を振る。
「んーん、なぁんでもないよ♡」
とりあえずアーシアちゃんの事情を聞くために、ぼくらは街へ戻ることにした。
「……それはそれとして、さっきの魚は許せないね。敵対行動だよ絶対。ペナルティを実行しなきゃ。悪い魔族は……いいんだよね?」
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