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60話 ヴァーガン襲来



 ぼくたちが鬼族の女の子を助けてから、1週間が経過した。


 トーカの街の、パーティ・ホームにて。


「おにーちゃんっ、ごはんだおー!」


 ぼくの部屋に、鬼の少女が笑顔で入ってくる。


「【ゆかり】ちゃん」


 この少女は【ゆかり】ちゃんという。

 娼館の裏でチンピラに襲われているところを、ぼくが助け保護したのだ。


 今はぼくの家で暮らしている。


「ランちゃん! もふもふさせてだおー!」


 ブラッシングの最中だったのだが、ゆかりちゃんがランに飛びつく。


『ゆかり、ダメですよ。今は若様との大事なブラッシングのお時間なのです』


「じゃーゆかりがブラッシングするお!」


「じゃあお任せしようかな」

『わ、若様! 待って! ああ若様にもっともふもふなでなでされたいのにぃいいいいい!』


 ゆかりちゃんはブラシを手に持つと、笑顔でランをわしゃわしゃする。


 ぼくは彼女をランに任せて、部屋を後にする。


「……エレン様」


 聖女のクレアさんが台所に立っている。

 彼女はうちで住み込みで家事のお手伝いをしてくれているのだ。


「クレアさん、今日の晩ご飯はなに?」

「……ビーフシチューですよ♡」


「わぁ! ぼくクレアさんのシチュー大好きっ!」


 ニコニコと笑うと、彼女が夕飯の準備をする。


 アスナさんとティナは、買い物に行っているんだってさ。


「……ゆかりちゃん、元気になって良かったですね」


 日中、クレアさんがゆかりちゃんの面倒を見ている。


「……とても明るく笑うようになりました。これもエレン様のおかげです」


「ううん、ぼくだけじゃないよ。みんなと、それにクレアさんが優しくしてくれるからだよ! ありがとう、クレアさん」


 と、そのときだった。


 ドガァアン! と家の奥で大きな爆発音がしたのだ。


「ラン! どうしたの!?」


 音のした部屋へと急ぐ。

 ぼくの部屋からだった。


「うぇええええん! たすけておにーちゃーん!」


「ゆかりちゃんっ!」


 壁際には黒焦げになったランが横たわっている。


「ランッ!」

『もうしわけ……ございません。不覚を取りました……』


 ぼくは不死鳥の炎で素早く治療し、部屋の中を見る。

 

 そこにいたのは、柄の悪い男だった。

 土人形と、そしてチンピラを連れている。


「なんだおまえはっ!?」

「おれさまは【ヴァーガン】だ。覚えとく必要はねーぞガキぃ」


 隻腕の男がぼくをにらんでくる。


「おにーちゃーん! たすけて、おにーちゃーん!」


 土人形の1人が、ゆかりちゃんを俵のように担いでいる。


「うるせぇ! 黙れガキ!」


 ヴァーガンはゆかりちゃんの顔を打つ。


「ゆかりちゃんを離せ!」


 ぼくは風神の剣を手に取って、斬りかかろうとする。


「おっと止まれ! これを見ろ、ガキぃ……」


 部屋のドアが開くと、土人形が現れる。


「クレアさん!」

「……エレン様、申し訳ございません」


 彼女が同じように、土人形に拘束されていた。


「この女の命がおしけりゃ動くんじゃあねえぞ。その人形はおれさまの命令一つで、大爆発を起こす。女の体なんて粉みじんだろうぜぇ~?」


 幼女をさらおうとするだけに留まらず、無関係の女性を人質に取るなんて!


「ゆるせない……」

「あ? なんだよガキ」


「ぼくはあなたを絶対許さないと言ったんだ!」


 ドッ……! とぼくの怒りに呼応するように、魔力が周囲にほとばしる。


「あ、兄貴……このガキ……なんか妙っすよ……」


「うるっせーよ! てめえら、このガキをボコってやれ!」


========

精霊使いへの敵対行動を関知しました。


ヴァーガンの部下達にペナルティを実行します。

→スキルの剥奪を実行します。


========


 チンピラ5人が、ぼくを取り囲む。

 その手に鉄の棒を持っていた。


「おらぁ! 死ねごらぁ!」


 鉄の棒がぼくにぶつかる。

 けれど、棒はぼくの腕に当たると、ぐにゃりと折れ曲がる。


「ひっ……! な、なんじゃこりゃ!」

「なにおかしなことやってんだ! 全員で袋だたきにするぞ」


 けど5人から殴られても、ぼくはびくともしない。

 それどころか、武器がすべて使い物にならなくなる。


『レベル差があり、スキルを使わぬ相手からの攻撃など、エレンに通じるわけがないじゃろう。愚かな連中だ』


「邪魔! どっかいってよ!」


 ぼくは神狼のスキル【神風】を使用。

 チンピラ達は吹っ飛ばされて、壁に激突する。


 家を壊すわけにはいかないので手加減した。

「て、てめえら何あそんでやがる! 相手はこんな小さなガキひとりなんだぞ!?」


 焦るヴァーガン。


「あ、兄貴……やばいですって」

「あのガキ化け物っすよ……逃げた方が……」


 ギリッ、とヴァーガンは歯がみすると、怒声を上げる。


「うるせえ! おれさまに命令すんじゃあねえ! でてこい土人形ども! あのガキを殺せ!」


 ヴァーガンが腕を振るうと、新たな土人形が出現する。

 その数は10。


 けどぼくは冷静に、風神の剣を持って走る。


 疾風のように駆け抜けると、土人形たちがバラバラになって崩れ落ちる。


「なっ!? なんて速さだ……! 目で追えねえ!」


『当然です、若様はフェンリルと契約してるのです。その走力は人間ごときかなうはずがありません。さすがです、若様!』


「くっ、くそっ! こうなったらそこの女を……」


「そうはさせるか! 【契約破棄リリース】!」


 ボロボロ、と土人形が崩れ落ちる。

 ぼくは倒れる前に、ゆかりちゃんを受け止める。


「おにーちゃんっ!」

「もう大丈夫だよ!」


 涙目にゆかりちゃんはなると、ぼくをきゅーっと抱きしめる。


『若様! クレア様は無事でございます!』

「……ありがとう、エレン様。いつもながら、あなたの力は見事です」


 これで人質は全員解放したことになる。


「……六眼のトップとして闇社会に君臨するおれさまが……こんなガキ1人に苦戦するなんて……」


 ヴァーガンが呆然とつぶやく。


「おとなしく降伏しろ!」

「……調子に、乗るなよクソガキがぁああああああああ!」


 バッ……! とヴァーガンが杖をぼくに向ける。


「極大の魔法でてめえもろとも、ここら一帯を消し飛ばしてやる!」


========

精霊使いへの敵対行動を関知しました。


ヴァーガンから【黒魔法使いの精霊核エレメンタル】を剥奪します。

→魔法の使用権限を剥奪します。

→スキル【詠唱時間超短縮(S)】を剥奪します。

→スキル【魔法暴発(S-)】を付与します。

→etc.……。

========


「食らえ! 極大魔法【煉獄業火球ノヴァ・ストライク】!」


 しーん……。


「なっ!? なんだとぉおおおお!? そんなバカな!? どうして発動しない!?」


 ぶんっ、ぶんっ、とヴァーガンが杖を振る。


「このっ! くそっ! 出やがれクソがぁあああああ!」


 チチッ……! と杖先から火花が出る。

 ドガァンッ! と杖が爆発した。


「うぎゃぁあああああああああ!」


 ヴァーガンは炎に包まれて、その場に転がる。


『どうやら魔法の使用権限がないのに無理に使おうとして、暴発したようじゃな。愚かな男じゃ』


「熱いよぉおおおお! ひげぇえええ! 助けてぇええええ!」


 ゴロゴロと転がるヴァーガンを、ぼくは掴んで窓から放り投げる。


 彼は吹っ飛んでいくと、家の近くにあった噴水に落ちる。


 どぼんっ! という音とともに、水柱がたつ。


 ぼくは窓から出て、彼のそばへと向かう。


「ガキだとあなどった……おれさまが……間違いだったのか……」


「もう降参して。罪を償うんだ!」


「ぐっ! こ、この……!」


 ヴァーガンがぼくに殴りかかろうとする。

 ぼくは彼をにらむ。


「ヒッ……!」


 ガクガクと震えて、その場に崩れ落ちる。


『どうやらエレンと自分の格の違いを、思い知ったのじゃろう。うむ、さすがはエレンじゃ』


「おにーちゃん!」「……エレン様!」


 心配したふたりが、ぼくのもとへ駆けてくる。


「ありがとう、おにーちゃん!」

「……命をまた救ってくださり、ありがとうございました。やはりあなた様は素晴らしい御方です……」


 とにかく、ふたりが無事で本当に良かったと思うのだった。


========

精霊使いへの敵対行動を感知しました。


六眼のヴァーガンにペナルティを実行します。

→六眼へのペナルティ進行中。進捗度80%。残りはヴァーガンのみです。


========

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公なんか気持ち悪い。 15歳って設定だけど、言動が小学生並。
[一言] クレアおばさんのビーフシチュー
[気になる点] 仮にもフェンリルなのに、ランが不憫枠になっているのか。 もふもふと耐久力しか役に立っていないな。
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