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51話 転落する奴隷商人


 テイマーのエレンが、邪竜を鎮圧したその日の夜。


 奴隷商人のスレイヴは、豪邸でひとり、歯ぎしりしていた。


「ああくそっ! 忌々しい! あんな小僧なんぞに、わしのビジネスを邪魔されるとは! ああ腹が立つ!」


 どかっ、とソファに座る。

 部屋に置いてある調度品は、すべて高級品だった。

 

 さもありなん。

 スレイヴという男は、奴隷商人の業界ではトップに君臨する男。


 妖精や獣人など、幅広い奴隷を売っている。

 貴族や王族からの信頼も厚い。


 彼がのし上がって来れたのは、奴隷商人のスキル【服従】。


 奴隷商人の職業がそもそも希少なものであるが、服従スキルはその中でも特にレアなもの。


 相手の名前と血を数滴もらうだけで、自分に服従させることができる。

 そして従わないものに死を与える、恐るべきスキルだった。


「あのガキ今に見てろよ! 全権力を使って社会的に抹殺してやる……!」


========

精霊使いへの敵対行動を関知しました。


スレイヴへのペナルティを実行します。

→奴隷商人の精霊核エレメンタルを永久に剥奪します。

→スキル【服従(S)】を失いました。

→スキル【貧乏神(S-)】を付与しました。

→etc.……


========


「スレイヴ様! 大変でございます!」


 執事が慌てて、部屋にやってくる。


「どうした騒々しい。わしは今、復讐の計画を練るのに忙しいのじゃ」


「それが……取引先からすごい数のクレームが寄せられています」


「な、なんじゃとぉ!?」


 通信用のマジックアイテムを、執事から受け取る。


 懇意にしている大貴族からだった。


『おいスレイヴ! おまえのところから買った奴隷達が、みな逃げていったぞ!』


 大貴族はカンカンに怒っていた。


『おまえのところから買う奴隷は質が良く、なにより主人に絶対服従という強みがあったからこそ、高い金を出して買ったんだ! おまえ、適当な仕事をしたんじゃないだろうな!?』


「め、滅相もございません! きちんとご購入なさった奴隷どもには服従のスキルをかけて、生殺与奪権をうばっております!」


『ではなぜ奴隷どもが命令に背き、全員逃げたのだ! 高い買い物だったのに大損だ! 二度と貴様のところから奴隷は買わん!』


「ま、待ってください! 弁明の時間を……!」


 だが、通信は途切れてしまった。


「チクショウ! ま、まあいい……取引先はまだある」


「ですから、スレイヴ様! クレームはまだ他にもたくさん来ているのですよぉ!」


 執事が泣きそうになりながら、通信のマジックアイテムを手に泣きわめく。


 貴族や王族、果ては下請け業者から。

 クレームの嵐が鳴り止まない。


 その内容は全て同じだ。

 奴隷が突如として、逃げ出したというもの。


「なぜだなぜだなぜだぁああああああ!」


 訳もわからず、がりがりがり、とスレイヴは頭をかき乱す。


「わしの服従スキルは絶対だ! なぜみな逃げる!? なぜスキルが正常に働かない!? おいこの不具合どうにかしろ! 誰の責任じゃ!? 責任者は出てこい!」


 スキルを付与しているのは精霊王だが、奴隷商人ごときの前に現れるほど安くはない。


「これからいかがしましょう……お得意先全員から、もう奴隷は買わないと言われてしまいました……」


 彼らは皆、スレイヴの奴隷商人としての腕を信頼して、高い金を払った。


 しかし奴隷達を逃がすという大失態をしてしまった以上、信頼はがた落ちである。


 回復するのは不可能といえた。


「あのぉ……」

「うるさい! 今考え中だ!」

 

 服従のスキルが使えないとなると、今までのように奴隷を簡単に補充できない。


 ノーコストで希少価値の高い奴隷を手に入れ、高く売る。


 それがスレイヴの勝利の法則だった。


 だがもうそれは適用されない。

 新しいビジネスのモデルを開発しなければ……。


「どうする、どうすれば……!」


 と、そのときだった。


「たっ、大変でございます!」

「今度はなんだっ!?」


「窓の外をご覧ください! た、大量の奴隷達が!」


 慌ててスレイヴは、窓に張り付く。

 ここは3階。

 見下ろした先に……奴隷達の大軍団がいた。


「スレイヴをだせー!」「おれたちを勝手に奴隷にしやがってー!」「おとしまえつけてやる! でてきやがれぼけぇ!」


 奴隷の軍勢は、屋敷を囲む壁の周りに集まっていた。


 恐ろしい数だった。


「あの数に攻め込まれたらおしまいでございます!」


「ふ、ふんっ! 慌てるな。やつら奴隷は屋敷の壁を越えることは絶対不可能! 上った瞬間、雷魔法が発動し即死だ! これるものならやってきてみろ!」


 がちゃんっ……!

 ごごごごぉ……!


「スレイヴさまぁあああ! 正門がぁ! 正門が開きましたぁあああ!」


「そんなバカなぁああああああ!?」


 開いた門から、大量の奴隷達が走ってくる。


 全員の目には殺意と怒りがありありと浮かんでいた。


「なぜ!? どうして!?」

「み、見てください! 屋敷にいた奴隷達が開けたようです!」


 スレイヴが飼っていた、特別美しい奴隷達。

 彼女たちは性奴隷として、毎晩のようにかわるがわる、抱かれていた。


 だがおとなしく抱かれていたのは、服従スキルがあったがゆえ。

 それがなくなった以上、屋敷にいた奴隷達のコントロールがきかなくなるのも必定と言えた。


「わ、わたくしはこれにてお暇をいただかせてもらいます!」


 金でやとった執事は、身の危険を感じたのか、逃げ出そうとする。


「お、おいこらまて! わしを助けないか!」

「うるさい! お前の仲間だと思われたら奴隷達に殺されてしまいますよ!」


 執事はスレイヴの制止を振り切り、彼の部屋から出て行く。


「こんな場所にいられるか! わたくしは無実だ! 無関係だぁあああ!」


 走って逃げ去る執事。

 だが、遠くで悲鳴が聞こえた。


「スレイヴぅううう!」「殺すぅうううう!」


「ひっ、ひぃいいい……!」


 服従スキルの無いスレイヴに、身を守るすべはない。


 奴隷商人のスキルには、戦闘系のスキル(攻撃魔法や身体強化)がほとんど無い。


「くそっ! くそぉ!」


 おとなしく逃げる……否、彼は部屋にあったタンスに隠れることにした。


「……くそっ! 最悪だ! 奴隷は逃げる、取引先からの信頼は失う、反乱は起こされる……くそっ! くそっ! くそぉ!」


 測ったかのようなタイミングで、不運が波濤のごとく押し寄せてくる。


 どうしてこうなったのか。

 なにが原因なのかさっぱりわからない。


 ガチャッ……!


「ひっ……!」


 部屋のドアが開いた。

 複数人が入ってきて、スレイヴを探している。


「いたかっ!?」「いねえ!」「くっそ、逃げ足の速いヤツだ!」


 ドタドタ……と部屋に入ってきた奴隷達が、逃げていく。


「た、助かったぁ……」


 と安堵の吐息をついた、そのときだ。


 ガチャッ……!


「あ……」

「見つけたぞぉおおおおおお!」


 奴隷のひとりが、スレイヴを見つけて、声を張り上げる。


 それを聞いて奴隷達が、集合する。


「待て! 落ち着け! 話をしよう!」

「黙れ! おれたちをスキルで無理矢理言うことを聞かせ、家族の元から引き剥がした悪党の話なんて、だれが聞くもんか!」


 大量の奴隷達が、スレイヴを囲む。


「ひっ! ま、待て! 平和的な解決を……」


「うるせえ! おいやっちまえ! こんなやつ大したことねえぞ!」


「「「おう!」」」


 ボコッ! と奴隷に腹部を蹴飛ばされる。


「ガハッ……!」


 体を【く】の字に曲げて、スレイヴが倒れ伏す。

 そこへ奴隷達が、代わる代わる踏みつけたり殴りつけたりしてくる。


「や、やべ……やべでぇ……やべでぇ……」


 ひとしきり暴行を加えられた後。

 スレイヴは気を失った。


 そこへ、また別の足音がする。


「見つけたぞ、スレイヴ!」


 目を開けると、そこには少年エレンがいた。


「え、れん……」

「騎士の皆さん、ここです!」


 エレンの声がけに、がちゃがちゃ、と騎士達が入ってくる。


「精霊がおまえのもとにぼくらを導いた、大人しく観念しろ!」


「スレイヴ、おまえには妖精の密売の容疑がかけられている。ご同行願おうか」


 この国では妖精を奴隷として売ることは、遙か昔より禁止されている。


 それが発覚した場合、重い罰が科せられる。


 取引相手先からの賠償請求もあり、とても保釈金を払うことはできないだろう。


「くそ……くそぉ……ちくしょぉ~……」


 奴隷商人として、高い地位に上り詰めたはずだった。


 だが取引先の信頼を失い、金も失い、スキルすらも失った。


 そして不正が発覚し、騎士に連行される。

「ぐす……くそぉ……一夜にして、全部失うなんて……くそぉおおおおお!」


 スレイヴの悲痛なる叫びは、夜の街にむなしくこだまするのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マイナスのスキルを付与される時に(S-)と書いてますが、逆にマイナスのスキルが弱くなってる風に見えます。 +の方がマイナスのスキルが強く作用するのではと思います。
[気になる点] 妖精が普通の人には見えないのに奴隷って実は見える人は珍しくないんです?
[一言] 人間相手だとザマァが緩くなるのかな?エルフ達にしたようなドン引きするほど酷たらしい奴こういうのに対してこそ行使されるべきでは。まるで足りんよザマァ未満。
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