176話 アドラ、病床の妻を見舞う【後編】
「カルラ……」
ほほえむ彼女の姿からは、死を覚悟したもの特有の悲壮感はなかった。
そこにあるのは、純粋な満足感。
「あなたは、その命を、完全に燃やしきったのですね」
「そうそう、あとは灰になって大地に帰るだけさ。大好きな息子と、愛する夫と……そして、親友が笑って暮らす世界の土にさ」
アドラはカルラの体を抱きしめる。
「……霊力が残っている今なら、引き返せます。後のことは私に任せて、逝ってください」
「……アタシがそれ、納得するとおもうかい?」
答えなんて聞かずとも、妻の覚悟が決まっていることくらい、とっくに理解していた。
「……だーりん。頼むよ。とめないで。アタシに、大事な物を守らせて。一生のお願いだよ」
ここでうなずくことを、彼女は望んでいる。
アドラはぎゅっ、と強く妻を抱きしめる。
言葉にせずとも、アドラはカルラの思いに答え、そしてカルラは夫の思いを、言葉にせずとも受け取った。
「……ありがと。大好きだぜ。灰になっても愛してっから」
「……私も、きみが好きだ。私がこの星の塵となって消えるその時まで、ずっときみを思うよ」
ふたりは笑うと、唇を重ねる。
「……少し寝るわ」
「そうですね。決戦である冬までは、力を温存しておかないと」
「え? 違う違う。あいつらのおセックスを一晩中みてたら、寝不足でさー」
アドラは深くためいきをつく。
「……そもそも、一度すればでれるのではなかったのですか?」
「わはは! だーれが一度で解放されると言ったかなぁ? あいつが孕むまででれませんぞぉ」
「……詐欺では?」
「え~なんでぇ。別にアタシぃ、一発ででれるなんていってないしー? 孕む=おセックス様じゃーん。ウソなんていってないしー」
カルラはふざけているが、彼女なりの思いやりだった。
エレンが戦いで命を落とすかもしれない。
だからせめて、戦い前に孕んでおいて、親友に子供を残させてあげたい。
そういう思いが彼女の中にあることを知っている。
ゆえにそれ以上はお小言を言わなかった。
「あー、つかれた。寝ます」
「ええ、おやすみカルラ」
アドラは知っている。
妻はもう、立つことすらままならぬ体であることを。
本当は最終決戦まで、目覚めぬのがベストであると。
……けれど、それをするとアドラが悲しむから。
それに、エレンとルルイエのゆくすえを、見届けられないから。
……だから彼女は踏ん張って、ぎりぎりのなか、残された命をひとかけらも残さず、燃やそうとしているのだ。
「愛してますよ、カルラ」
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