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175話 クトゥルー、降伏勧告にくる



 勇者エレンがルルイエと交流を深めている、一方その頃。


 外の季節は春を回り、初夏に突入していた。

 

「あー……うっとおしいわ、あれ」


 カルラは精霊界の空を見上げる。

 空を覆うのは、分厚い灰色の雲。


 しかしその実体は、世界を飲み込むほどの巨大な竜、【星食みの魔竜タルタロス】。


 終焉令ラグナロクが発令されると、神々の軍勢が、魔竜とともに、この星を平らにしようと攻めてくる。


 それに太刀打ちするのは、勇者エレンと仲間達、そして……カルラとアドラだ。


「だーりん、ぶっ壊していい、あれ?」


 隣に並び立つのは、緑色の髪をした青年アドラ。


 エレンの父にして、カルラの夫だ。


「壊すほどの力が、その体には残っていませんよ。力は温存しておかないと」


 カルラは万全の状態ではない。

 今この体は、本来はふくろうのもの。

 

 全盛期のようにカルラが力を振るえば、その負荷に耐えきれずに、壊れてしまう。


「あなたは幽霊で、他人の体であることを理解しましょうね」


「ちぇー」


 と、ふたりが空を見上げていた、そのときだ。


「なんのよーだぁ、てめえ?」


 唐突に、カルラがつぶやく。

 アドラは急にどうしたのか、と首をかしげる。


「こそこそ隠れんじゃねーぞ、ネズミかてめーは?」


「いいや、未来神さ」


 バッ……! とアドラが振り返ると、そこには白髪の青年が立っていた。


「クトゥルー……。なぜここに? 結界は強化しておいたのですが……」


「こんな紙っぺら、神となったボクには通用しないのさ。神と紙をかけた冗句だぜ? うけるだろ?」


 余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、クトゥルーが近づいてくる。


「ぐ……! なんて……プレッシャー……なんですか、これは……」


 がくり、とアドラは膝を突く。

 

「今ボクの中には、霊王の力75%が入っている。以前のボクとは違うのさ」


 一歩歩くたびに凄まじいまでの魔力量が、彼らを襲う。

 地面を引き剥がし、森をざわめかせるほどの力の奔流に……アドラは動けないで居た。


「ルルと違いボクは【霊王の鍵】の本来の使い方を知っている」


 霊王の鍵とはつまり、精霊王の力の源のことだ。


「あいつはエレンのことしか頭にないバカだったけど、賢きボクは違う。きちんと霊王の鍵の使い方を研究し、ついに自分の物にしたのさ……!」


 アドラは圧倒的強者を前に、体を震わせる。

 彼は決して弱くない。


 世界最高の精霊使いである、カルラの相棒なのだ。

 その強さは推して知るべしだ。


 だが、今のクトゥルーは、それを凌駕する。


「霊王の力を手に入れたボクは神となった。【未来神クトゥルー】と、そう呼んでいいよ」


「ケッ……! くそみてえな名前だな」


 クトゥルーの圧倒的なプレッシャーを前にして、カルラは微塵も動揺しない。


「だーりん、アタシの中に入ってな」

「……すまない、カルラ」


 アドラは霊体となって、カルラの中に入る。


「んで? 未来神なんつー、だっせえ名前の神さまが、今更アタシらに何のようだ? 命乞いか?」


「まさかでしょ。今日は君たちに【降伏】を勧めに来たのさ」


「ほー、降伏?」


「そう。負けを認めてくれないかな?」


 余裕たっぷりの表情でうなずいて言う。


「現状、君たちがボクに勝つ確率は0だ。霊王の力を持ち、神々、そして魔竜を従えている。さらに……」


 ぱちんっ、とクトゥルーが指を鳴らす。


 音もなく、6人の男女が現れる。


「邪神達の主イグ。それに匹敵する邪神5体。彼らは霊王の力で強化された、【六邪神将】」


『六邪神将……』


「一体で霊王形態キング・フォーム時のエレンに匹敵する強さを持つ」


『そ、そんな……ただでさえ強い霊王形態に匹敵する邪神が、6体も、ですって!?』


 驚くアドラだが、しかしカルラは「ふーん……」と興味なさそうにつぶやく。


「で?」

「まだわからないのかい? バカだねぇ? この時点で、君たちの負けなんだよ」


 クトゥルーがカルラに近づいて、ニヤニヤと笑いながら言う。


「ボク側はこれだけの戦力差を戦いの前にそろえてある。一方でぇ? ルル達はさて、いったいどれほどの戦力をそろえたのかなぁ~?」


 この余裕の表情からわかること。

 それは、こちらの戦力を、把握しているということだ。


 でなければ、敵陣に乗り込んでくることはない。


「君は万全な状態じゃない。エレンの女達を鍛えてるようだけど烏合の衆に等しい。そして頼りの綱であるルルとエレンは、いったいどうしてるのかなぁ~?」


 ルルイエ達はまだ、異空間から帰還していない。


「そのまま帰ってこないんじゃないのぉ?」


 精霊の眼を使って、クトゥルーはエレン達がこの世界にいないことを承知済みなのだ。


「エレンもバカだよねぇ。あんなメンヘラ女じゃなくて、ボクと組んでいれば今頃世界が手に入っただろうに」


 カルラは黙って、真っ直ぐにクトゥルーの目を見ていた。


「今から頭を下げ、ボクに服従するって言うなら、ま、考えてあげても……ぴょっ……!!!」


 そのとき、クトゥルーが突如、奇声を上げる。

 視線を下に持って行き、気づく。


 カルラが、クトゥルーの股間を、蹴り上げたのだ。


「な、なにを……」


 カルラはもう一度、股間を強く蹴飛ばした。


「ふぎゃぁあああああああああ!」


 脂汗を大量に流しながら、クトゥルーはその場に倒れ込む。


「ぎゃーはっはっはぁ! ふぎゃあだってよぉ! 神を名乗っていても、所詮てめーも金玉のある男よのぉ……!」


 カルラがゲラゲラと笑う。


『カルラ……ハシタナイですよ』

「なに? 駄目?」


『いいえ、よくやりました』

「だろ?」


 クトゥルーは股間を押さえながら、ぷるぷると体を震わせる。


「き、貴様ぁ……! 未来神に向かって何をするぅう!」


「うっせえタコ。未来神? 金玉蹴られてぎゃあぎゃあわめている男が? 笑わせるなよボケが」


「くそ! こっちが下手に出れば調子に乗りやがって! おい六邪神将! カルラを今この場で殺せ……!」


 じり……と六体の邪神達が、カルラを取り囲む。


 だがカルラは彼らをにらみつける。


 ぞく……! と背筋を震わせ、彼らは動けなくなった。


「何をしている!? さっさと殺せぇ!」

「す、すみません……」


 六邪神将たちのリーダー、イグが体を震わせながら言う。


「い、いま彼女に近づいたら……全員殺されます……」


「何をバカな! こんな女一人に何ができるというのだ!?」


 一方でカルラはニヤニヤと笑う。


「アタシをただの人間と侮るんじゃねーよ。おまえ、知ってるか? アタシが何者か?」


「たかが精霊使いだろうが!」


「ばっか、ちげーよ。アタシは【世界最強ゆうしゃえれんの母ちゃん】様さ」


 カルラは右手を前に出す。

 すると、その手に、1本の鍵が出現した。


「ば、バカな!? 【霊王の鍵】だと!?」


「そ。ルルが今持っている、25%の霊王の鍵さ」


 カルラは鍵を手に持って、空間に向かって、回す。


 すると、空間が割れて、そこから1本の剣が現れた。


「これ使うのなついわー。さて、と」


 極光の光をまとう剣を、カルラが横に振る。


 ボッ……! と六邪神将たちの下半身が、消し飛んだ。


「なぁ!? なんだそれはぁ……!」

「【霊王剣】。ま、本来の所有者じゃねーから、威力はこんなもんか」


「そんな……! 邪神将たちを消し飛ばしておいて、これが完全な力でないというのか!? なんと凄まじい剣なのだぁ!」


 カルラは剣先をクトゥルーに向ける。


「今この場で全員殺すこともできる。だが、それをするのはアタシじゃねえ」


 勇者エレン、そしてルルイエ。


「この世界に生きる、あいつらがてめえらをぶっ殺す」



「ば、バカを言うな……! あんな雑魚に何ができるぅう!」


 倒れ伏すクトゥルーを前に、しゃがみこんで、カルラが言う。


「未来を預言してやるよ、未来神。おまえは負ける。神々も、魔竜も、邪神将たちも、そんでおまえも。全員まとめて、うちの可愛いベイビーと、アタシの親友が倒す」


「み、未来神に向かって、未来を予言だとぉ! 不敬だぞぉ!」


「ハッ! 股間蹴られて動けねえ雑魚が、きゃんきゃん吠えたところで威厳もへったくれもねーっつーの」


 カルラは剣を、クトゥルーの目の前に突き刺す。


「立場を理解したか? アタシは確かに本調子じゃねえ。だが、本気を出さねえとは言ってない」


「ぐッ……!」


「ここで死にたくなきゃ引きな。うちのベイビー達が準備が整うまでは生かしておいてやるよ」


「は、はったりだ! 今の貴様にボクたちを倒す力は……!」


「ない、と思うか?」


 ぐぐっ、とクトゥルーが歯がみする。


「み、未来神様……いったん引きましょう」


 体を再生させたイグが、クトゥルーに肩を貸して、立ち上がらせる。


「おー、さすが邪神。再生力は結構あるのな」


 ふらつく邪神将たちは、しかし、カルラから距離を取っていた。


 さもありなん、彼女が本気を出せば全員皆殺しにできる。

 それは、先ほど証明されたからだ。


「この未来神が撤退だと……! ふざけるな!」


「おーおー、力を持った途端にキャラ変ですかぁ? 駄目だぜぇ、キャラは一貫性を持ってないと、読者がこのキャラ誰だって困惑するって」


「うるさぁあい! 黙れ黙れぇ!」


 殺意を込めて、クトゥルーが言う。


「覚えておけよぉ! 人間を皆殺しだぁ……! 特に貴様は死よりも恐ろしいペナルティを課してやるうう!」


「ハッ……! やってみろよ。未来神とか言うクソだっせえ名前の、ラスボス気取りの三下の分際で、できるもんならなぁ」


 顔を真っ赤にすると、クトゥルーたちはその場から消え去る。


「ふぅー……」


 霊王剣を消すと、ふらり……とカルラは体をよろけさせる。


「まったく、無茶しますね」


 アドラが顕現し、カルラの背中を支える。


「こんなところで力を消費するなんて。戦いの前に消えてしまいますよ」


 カルラは現状、ふくろうの体を使ってこの世に留まっている。


 だが、無限に居られるわけではない。


 日々彼女の霊体としてのこの世に留まっておく力、【霊力】は消費されていく。


 聖剣を取りだし、使ったことで、かなりの霊力がごっそり持って行かれたのだ。


「あの場で全員皆殺しなんて、できやしないくせに」


「ハッタリは重要だろ? エレン達が帰ってくるまで時間を稼がねーと。向こうさんは、もう準備完了してるんだからよ」


 どれだけ時間が稼げるかは不明瞭。

 ただ、カルラという、イレギュラーな戦力がこちらにあるぞ、と脅すことで、相手に二の足を踏ませること。


 それが、カルラの意図だった。


「終焉令の前に霊力がつきてもいーんだ。エレンは帰ってくる。ルルを立ち直らせて」


「自信たっぷりですね。根拠は?」


「ばっか。んなもん、きまってんだろ。エレンはアタシの息子だぜ?」


「……そうですね。愚問でした」


 アドラは苦笑すると、妻の頭をなでる。

 カルラはアドラの腕の中で微動だにしない。


 否、動けないのだ。


「……アタシが消えたら、後頼むわ」

「ええ、心得てますよ」


========


くそがくそがくそがぁああああああああああああ!



あの幽霊女め! 塵芥の分際で!

この未来神をこけにしやがったなぁあああああああああああああああ!


許さん! 絶対に許さんぞぉおおおおおおおおお!


エレン……カルラ……てめえらには死よりも恐ろしいペナルティを与えてやる!


未来神の名にかけて! 絶対! 絶対にだ!


貴様らは絶対に殺す! 我らの勝利が揺らぐはずもない!


人間を滅ぼし、新世界を作り出し、エレン達にペナルティを与える!


これは確定された未来なのだ!

絶対! 何があっても! 100%!

未来神ボクが負けるわけないのだぁああああ!


========

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時間がある方はぜひ読んでみてくださいー!

よろしくお願いします!


※タイトル

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※URL


https://book1.adouzi.eu.org/n8459gq/


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― 新着の感想 ―
[一言] このキャラ誰だ?ポッと出の新キャラか?
[一言] あのイキッてるクソ雑魚は誰だ? そういや、未來神クトゥルーとか自称してたな。クトゥルーは知ってるけどクソ雑魚隠キャで今にも消えそうなやつだったもんなぁ?
[一言] この頃、エレンはおいしく頂かれます...
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