153話 神と神
勇者神エレンが、守護天使達を撃退した。
数日後、神々の住まう世界・天界にて。
彼らは今後の方針を決める、重要な会議を行っていた。
「ではこれより、この青い星の行く末を決めるとしよう。議長は我【ユピテル】が執り行う」
ひげをたくわえた老人がたつのは、白亜の神殿。
ここは天界でもごく一部の存在……神にしか立ち入れぬ、絶対の【禁忌領域】。
その場にはあまたの神々が実体化し、議長であるユピテルの話に傾聴している。
「議題は無論、あの【勇者神】を名乗る人間の処遇についてじゃ」
会議場の中央に巨大な水晶が浮いている。
表面が輝くと、そこにはエレンの姿が映し出される。
「なんだ、まだまだ子供ではないか。こんな餓鬼に天使どもはやられたのかぁ?」
神の一名が、侮ったように笑う。
他の神々もまた、人間が守護天使を倒したことを、にわかには信じられないようだ。
「わしも同意見じゃ。何かの間違いだろうとてな。しかし天使は全滅した。なぜか?」
ユピテルは周囲を見渡して言う。
「天使が弱かったから、であろう?」
こくりとうなずき、ユピテルは続ける。
「然り。敗因はみな同じじゃ。とどのつまり弱いのがいけない」
まったくだ! と神々がうなずく。
彼らの口から出るのは、近年つもりに積もっていた、軟弱な天使達への不満の言葉ばかりだ。
と、そのときである。
「あーあ、みんなバカだね~」
神々の座るイスのなか、ふんぞり返って腰を下ろす、ひとりの若い神がいた。
「なんだ、【クトゥルー】。文句でもあるのか?」
クトゥルーと呼ばれし若い神は、ニヤニヤと笑いながら続ける。
「ユピテルを含めて、あんたらさ、この問題の本質が、なーんにもわかっちゃいない。バカ丸出し。見るに堪えないよ」
「き、貴様ァ……! ユピテル様を愚弄するつもりかァ……!」
年長者の神がいきり立ち、隣に座っているクトゥルーの服を乱暴に掴む。
「感情のはけ口を他者に向けるなんて三流以下だよ、おっさん」
「なんだとぉ!」
「聞こえなかったの? 何度でも言ってやるよ。無能な老害ども」
「クトゥルー。そこまでにしておけ」
ユピテルが若き神に注意する。
「はーいすいませーん」
「ゆ、ユピテル様ぁ! こやつは神にふさわしくありませぬ! 即刻排除するべきかと!」
「よい、放っておけ」
クトゥルーは立ち上がると、スタスタとその場を後にする。
「どこへいく?」
「べっつにー。ただここで無駄な議論をしても無駄だから」
ユピテルはため息をつきながら言う。
「着席せよ」
「いやだよーん。勝手にやってな。無駄な会議をさ」
ユピテルに向かってあっかんべーをすると、クトゥルーはさっさと会議場を立ち去っていく。
「……どうせ【ルゥ】に監視されてるのに、無駄なことしちゃってさ」
クトゥルーは神々をせせら笑うと、煙のように消えたのだった。
残された神々は、気を取りなおして会議を続ける。
「勇者神を名乗る不届き者を排除のいっかんで、この星を一新することを、われユピテルは提案する」
おお……! と神々が歓声を上げる。
「素晴らしいアイディアだ!」「この星は長く生き続けた。腐敗が目立つ」「然りしかり。人間は増長し、神への感謝を忘れ、無遠慮に星を食い散らかす」
この場にいる神々は、みな人間を前から滅ぼしたくて仕方なかった。
神にとってこの星は、自分たちが造りあげた至高の芸術品。
それを、たかが被造物にすぎない人間達が図に乗って、星を支配している。
その姿が常々我慢ならないと思っていたのだ。
壊すタイミングを見計らっていたところに、エレンの登場。
そして勇者神を打ち倒すという名目のもとに、堂々と、神々は世界を終わらす決断をしたのである。
「ではここに、ユピテルが【終焉令】の発動を宣言する」
「おお! 終焉令! ついに!」
終焉令。それは、神々の決定によって発令される、この星をリセットする命令のことだ。
「神々はあらゆる手段を用いて、速やかにこの星を滅ぼすことことに注力するように。異議は?」
なし、と神々が答えようとした、そのときだった。
「異議あり!」
ただひとり、異を唱えるものがいた。
座長たるユピテルの頭の上に、不遜にも腰を下ろす、その女。
名前を、【ルルイエ】といった。
「なっ!? なんだ貴様はぁ……!」
「僕はルルイエ。いつも夫のエレンがお世話になってまーす♡ きゃっ♡ なんつってなんつってぇ~♡」
体をくねくねとくねらせ、ルルイエが甘ったるい声を上げる。
ユピテルは驚愕の表情を浮かべる。
「そんな……なぜここに部外者が入れる! この領域は神しか入れぬ神聖な結界で守られているのだぞ!」
「だから意味ないんだよねー。僕にそういうの」
ざわ……と周囲の神々が、ルルイエの登場にどよめく。
「ええい、退け!」
ブンッ! と強く手を振るユピテルだったが、次の一瞬でルルイエは移動していた。
「無駄な会議ご苦労様なこった」
「エレンの関係者が、いったい何をしに来たのだ!」
「ん? 警告、かな」
「警告だと?」
ルルイエはうなずいていう。
「君らのバカみたいな作戦……ええっと、なんだっけ【終焉令】だっけか。ちょっと1年くらい待ってくれない?」
あっけあかんとルルイエが言う。
神々はぽかん……と口を開いたままになった。
この女が、あまりにナチュラルに、神々にお願いをしてきたからだ。
神々は人に祈られることは多いが、お願いされることなど皆無。
なぜならそれは、同列に扱っている相手にしかできぬことだからだ。
「き、貴様ァ……! わ、われらを侮辱するつもりかぁ……!」
「侮辱? まさか。見下してんだよ」
すっ……と眼を細め、冷たい眼で、ルルイエは神々を見渡す。
「君らホントにバカ。これだけ旦那と妻の力を見せつけているのに、なーんも理解してないんだからさ」
「な、なんだとぉ……!」
神々がいきり立ち、ルルイエに襲いかかろうとする。
「座れよ」
神々は、自らの意思で着席した。
彼らは心の底から震え上がった。
彼女の言葉に、ごく自然に、従ってしまったことを。
自分の言葉を相手に強要させた、その未知の力を前に……神々は戦慄した。
「別に力なんて使ってないよ。君たちの魂が、精霊王にビビって言うこと聞いちゃっただけじゃない?」
「へ、減らず口を……! だ、だれが貴様に恐れを成すか!」
「ブルブルみっともなく震えながら言っても威厳ゼロだから」
フンッ、と小馬鹿にしたように、ルルイエが鼻を鳴らす。
「とにかく、1年だ。エレンに手を出すな。エレンの周囲にいる者を誰も傷つけるな。それが守れるのなら、この1年間、おまえらに寿命を与えてやる」
「な、なにをふざけたことを……!」
「ふざけてない。これは慈悲だ。その気になればこの場にいる神全員を殺すことなんて、1秒もかからない」
パキ……とルルイエが指を鳴らす。
それだけで、気を失った神が何体かいた。
「1年後、またここに来てやる。そのときに心変わりしているようだったら、殺さないであげる。けど1年たっても考えが変わらないときは……どうなるかわかるね?」
にこりとただ笑っただけなのに、悲鳴を上げて倒れる神もいた。
「そんじゃね。また1年後」
きびすを返して、ルルイエがその場を後にする。
「ま、待たれよ……」
「なにひげのおっさん? 僕忙しいんだけど?」
「なぜ、1年待たなきゃいけないのだ」
ルルイエはフッ……と笑う。
「彼に新しい命ができるからに、決まってるだろ」
「新しい命だと?」
「ああ。正直今この状況では、彼は存分に剣を振るえない。お腹の子を、神々が卑怯な手で抹消したり、人質にとったりしてね」
ルルイエが慈母のような笑みを浮かべる。
「お腹の子供を気にせずに、エレンには思う存分戦って欲しい。だからこその1年なんだよ」
「…………」
「ま、脳の詰まっていない君らには無関係なことだ。この場でむごたらしく僕に殺されたくなければ、おとなしくしてることだね。それじゃ」
言いたい放題いったあと、ルルイエは本当に、その場から立ち去ったのだった。
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『ルルイエ様、感服いたしました』
うぉ、ふくろうか。急に割って入るなよキモいな。
『生まれてくるエレン様の息子と、アスナ様のために、1年待ってあげるなんて……やはりあなた様は慈悲深いき御方』
え? 違うけど
『は? 違う?』
うん。ぜーぜん違う。
1年待つのは僕のために決まってるだろ?
『……おっしゃる意味がわかりませんが』
くふっ♡ くふふふふっ♡
簡単な話しさ。
ついに準備が整ったんだよ。
『準備が整った……。! ま、まさか……』
予定よりも若干早かったね。
んもう! 待ち遠しかったよ!
ということで、僕が子供を作って産むまでの1年間、神々にジャマされたくなかったからさ。
こうして圧をかけたってわけ。
『……では、エレン様は』
さぁ! レッツ子作り! めざせ1000人!
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※タイトル
「宮廷鍛冶師がいなくなって後悔しても今更もう遅い~「王家に伝わる伝説の武器に手入れなど不要」と無知な王子に追放され自由を得たので、念願だった最強の魔剣づくりに専念する。引く手あまたなので帰る気は毛頭ない」
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