第7章 言えなかった本音の続きを
翌朝。
柚と顔を合わせた瞬間、昨日の“好き”が頭の中でリピートされる。
けど彼女は——
「おはよ、みなと!」
いつも通りの笑顔。
いや、“いつも通りにしようとしてる”笑顔。
その無理してる感じが、逆に気になって仕方なかった。
授業が終わって、放課後になる頃。
どうしても聞かなきゃいけない気がして、俺は柚の席に向かった。
「なぁ、柚」
「ん? どうしたの?」
変に明るい声。
誤魔化す気満々だ。
「……昨日の、あれ。詳しく聞かせてくれないか」
言った瞬間、柚の動きが止まった。
「え、えっと……ど、どれのこと……?」
「“……好き”って言ったやつ」
顔を真っ赤にしながら俯く柚。
「わ、忘れて!!」
「忘れられるわけないだろ」
「うぅ……っ」
逃げるように席を立とうとする。
その腕を軽く掴んで引き止めると、柚はさらに顔を赤くした。
「ちょ、みなとっ、人前……!」
「人前だから詳しく聞けない。だから——場所、変えね?」
「……どこに?」
「この前オープンした駅前のカフェ。二人で」
柚は一瞬だけ息を呑み、
でも断らなかった。
***
カフェに入ると、夕方の光が差し込んでいて、静かで居心地がいい。
窓際の席に向かい合って座ると、柚がカップを両手で包むように持った。
その仕草が、緊張してるのを物語っていた。
「……で。話って、例の……?」
「ああ」
逃がすつもりはない。
でも、追い詰めたいわけでもない。
「昨日、お前……“好き”って言ったよな?」
「み、みなとは……聞いちゃうんだね……」
「言った本人が一番誤魔化してるだろ」
「だって……恥ずかしいし……こわいし……」
柚の声はいつもよりずっと弱かった。
「……怖いって、何が?」
「みなとが……答えを出しちゃうこと」
「答え?」
「うん……。ダメって言われたら……今の関係、終わっちゃうから」
柚はカップを見つめたまま、小さく続けた。
「“好き”って言ったの、本当に……事故だったの。
言うつもりなかった。
言ったら……幼馴染じゃいられなくなるから」
「……」
言葉を選ばないと、壊してしまいそうな空気。
でも俺は、昨日からずっと考えてた。
「……聞かなかったことには、できねぇよ」
「っ……!」
「お前の言葉、ちゃんと聞いたから」
柚が顔を上げる。
揺れた瞳が、直接俺を見つめてきた。
「柚、俺……お前が怖がってるのも分かるけど……
逃げないで言ってほしい」
「な、なにを……?」
「“事故じゃない本音”を」
沈黙。
外の風の音すら聞こえそうな静けさの中で、柚はぎゅっと唇を結んだ。
そして——
「……ほんとは」
声が震えていた。
「ほんとは……ずっと前から……
みなとのことが……好き、だよ」
それは昨日よりずっとはっきりした、本音の“続き”だった。
俺の心臓が、痛いほど跳ねた。
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