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第2章 帰り道、変わり始めた距離

校門を出た瞬間、柚は当然のように俺の横に並んだ。

 夕方の光に照らされた横顔は、いつもより少し大人っぽく見える。


「ねぇ、みなと。今日さ、なんか変じゃない?」


「変って何がだよ」


「んー……なんか距離が、いつもより近い気がする」


「いや、近いのはいつもお前だろ」


「それはそうなんだけどさ〜。でも今日はさ、みなとも、ちょっとこっち寄ってない?」


 図星を刺されて心臓が変に跳ねる。

 意識している分、今日は確かに少しだけ歩幅を合わせてしまっていた。


「気のせいだろ」


「ふぅん、気のせいかぁ〜。……じゃあ、もっと近くてもいいよね?」


 言い終わらないうちに、柚の指が俺の袖をつまむ。

 昔から癖みたいなものだけど、今日は妙に意識してしまう。


「子どもかよ……」


「子どもじゃないよ? 高校生だよ?」


「そこ強調するところか?」


「するする。だって、こういうのって……子どもの頃より意味、重くなるじゃん?」


 ぽつりと落とされた言葉に、思わず足が止まる。

 柚も同じタイミングで止まって、振り返る。


「ねぇみなと。変わったの、気付いてるよね」


「何がだよ」


「“幼馴染だから”で片付けられない時があるってこと」


 真面目な顔をされると弱い。

 冗談ばかり言うくせに、たまにこういうスイッチが入る。


「だってさ、最近のみなと……」

「……どこ見てるか分かりやすいもん」


「はぁ!? どこ見てるって……」


「私。でしょ?」


 ニッと笑われて、何も言い返せなかった。

 図星すぎて、言葉が出ない。


 柚は俺の沈黙を見て、さらに距離を詰めてくる。


「ねぇ、怒ってないよね? むしろ……ちょっと嬉しい」


「なんで嬉しいんだよ」


「だって、みなとが私に向けてくれる気持ちって、嘘じゃないの分かるから」


 胸の奥がざわつく。

 これ以上踏み込まれたら、幼馴染じゃいられない。


「……お前さ。そういうこと、簡単に言うなよ」


「簡単じゃないよ。勇気出して言ってるんだよ?」


 袖をつまんでいた指が、そっと離れる。

 代わりに、ほんの一瞬だけ柚の指が俺の指先に触れた。


 でもその一瞬が、やけに長く感じた。


「みなと。帰り道、もうちょっとゆっくり歩こ?」


「……なんで」


「こういうの、急ぐと壊れそうだから」


 柚はそう言って微笑む。

 俺は何も言えないまま、ただ横に並んで歩き出した。


 幼馴染の距離じゃない。

 だけどまだ恋人でもない。


 その“あいだ”の空気が、今日だけやけに心地よかった。



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最後まで読んでいただきありがとうございます!


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