第1章 幼馴染の距離感
始業式のざわめきが消えた教室は、放課後の光で少し黄金色に染まっていた。
席替え直後の教室で、俺—— 湊 はぼんやりと窓の外を眺めていた。
「みなと〜、また考えごと?」
背中を軽くつついてくる指。振り返る前から誰かはわかる。
幼馴染の 柚。昔から、距離も声も近い。
「別に。ぼーっとしてただけ」
「ふふん、そうだと思った。ねぇ、今日さ、帰り一緒でいい? 久しぶりにさ」
小首をかしげて覗き込んでくる仕草は完全に犬。
甘えたくて、寂しがりで、気に入った相手にはとことん懐くタイプ。
柚は俺の幼馴染で、そして“甘え上手なからかい屋”でもある。
「どうせ断っても袖つかんでくるんだろ?」
「気付いちゃった? じゃあ、つかむ前にOKって言って?」
いつものノリ。
なのに最近、こういうやり取りの一つひとつが胸に変な重さを残す。
幼馴染のままでいいはずなのに。
“ままでいい”と言い聞かせてきたのに——最近、それがうまくいかない。
「ま、今日は帰り道について考えなきゃいけないこともあるしな」
「え? 何それ?」
「席替えでさ、前後になったし。……距離感、どうするのかとか」
「近い方がいいよ? 寂しいし」
言い切るのが早い。
冗談みたいな顔で本気のことを言うのが柚の悪い癖。
「それ、冗談じゃなさそうだから困るんだよ」
「えっ、困るって言われた……地味に傷ついた……」
そう言いながらも、柚は全然傷ついた顔をしていない。
むしろ口元が笑っている。たぶん、俺の反応を楽しんでいる。
この距離が、ずっと“幼馴染の距離”だと信じていた。
でも——何かが少しずつ変わってきている。
それが何なのか、まだうまく言葉にできないまま、チャイムが響いた。
「帰り、ね。楽しみにしてるね、みなと」
いつもの笑顔なのに、ほんの少しだけ違って見えた。
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第2章も翌日投稿予定なので良ければ読んでいってください!
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